SNSなどで、「スウェーデン式サウンディング試験を行ったら、地盤補強が必要だと分かって困った」という消費者の記事を目にすることがありますが、私にはとても奇異に聞こえます。
地盤補強の要不要は、地形を見ることで、大方分かるからです。
しかも地形の分類は、専門家ではなくても容易にできることです。
今日は、土地を購入した後、地盤が悪くて困ったということが起こらないために、地盤調査の基本的な流れについて示します。
なお、ここで示す内容は、私の私見ではなく、日本建築学会の小規模建築物基礎設計指針に記載された内容を整理したものです。
日本建築学会は、日本の建築界において最も権威のある団体の一つで、多くの技術的指針を出版しています。
住宅の基礎設計については、「小規模建築基礎設計指針」が出版されていますが、その中に基礎形式や地盤補強方法を選定する方法として、次の二つの例が示されています。
【出典】日本建築学会:小規模建築物基礎設計2008,p.73,図5.3.1
【出典】日本建築学会,小規模建築物基礎設計2008,p.73,図5.3.2
以前、ブログでも紹介しましたが、地形によってそこに堆積する土の種類が決まるので、地形を確認することで、土質、地盤の硬軟、不同沈下の可能性の高低を推測できます。
また、地方自治体によっては、ボーリング調査結果を公表しているところもあります。
これらの既存の資料を見れば、地盤補強の要否は、地盤調査を行う前から予想できます。
まず、地形や土質から基礎形式や地盤補強の方法を選定する例についてみていきましょう。
図-1は、地形(上)からのアプローチと土質(下)からのアプローチを一つの流れ図にしたものです。
【出典】日本建築学会:小規模建築物基礎設計2008,p.73,図5.3.1
地形からのアプローチを見ていくと、資料・踏査(現地に出向いて周辺の状況を観察すること)から、地形を以下の三つに分類しています。
低地に分類されると、直接基礎(地盤補強なし)以外の地盤補強が必要であることが分かります。
造成地は「ケースbyケース」と大雑把な記載がありますが、盛土の状況によって判断が分かれるということです。
一方、土質からのアプローチでは、以下の三つの項目に分類されています。
これは、地質年代に関する分類です。
洪積層は1万年前より以前から堆積している地層で、沖積層は、1万年前から現在までに堆積した地層です。
人工土は、長くても数百年の歴史しかない地盤です。
流れ図からも分かりますが、これらの分類は、結局地形分類と一致します。
沖積層のある地形が低地です。
この地層が堆積する箇所では、地盤補強が必要となる可能性が非常に高くなります。
なお、図中の「踏査」は、現地の状況を出向いて調べることですが、地形に関する気づきだけではなく、周囲の建物に現れた損傷なども確認することができます。
次のような現象がある地域は、地盤補強が必要になる可能性が高い土地です。
次は図-2の「スウェーデン式サウンディング試験結果から、基礎形式を選定する手順」を見ていきましょう。
図-2を詳しく見ていく前に、スウェーデン式サウンディング試験の簡単な説明をしておきます。
スウェーデン式サウンディング試験は、地盤の深度方向の強さを調べる試験です。
“ロッド”と呼ばれる鉄の棒の先端に“スクリューポイント”を取り付け、これを地中に25cm押し込むために必要な“力”を計測します。
与える力には二種類あります。
最初は、オモリの重さ(0.25kN(25kg)~1kN(100kg))のみでスクリューポイントを地中に押し込みます。
オモリの重さを1kNにしてもスクリューポイントが25cm貫入しない場合は、スクリューポイントに回転力を与えます。
このオモリの重さを表す記号がWsw、ロッドの貫入量1m当たりの半回転数を表す記号がNswです。
さて、図-2に話を戻しましょう。
【出典】日本建築学会,小規模建築物基礎設計2008,p.73,図5.3.2
この図をよく見ると、以下に示す3つの選択肢によって地盤補強の要不要を選定できることが分かります。
ここで、0.5kN、0.75kNという数字が示されていますが、これは、先ほど説明したスウェーデン式サウンディング試験結果の一つ、Wswのことです。
この3つの選択肢は、建築基準法に基づいて設定されたものです。
平成13年国土交通省告示1113号には、液状化の可能性がある場合や、以下の二条件のうちいずれかを満足する場合は、建物の自重で発生する沈下が建物に有害な影響を及ぼさないことを確認しなければならないとしています(図-4参照)。
しかし、沈下の影響検討は、スウェーデン式サウンディング試験結果だけでは困難です。
このため、図-2では、上記の二条件に当てはまらない場合は“地盤補強が不要”で、この条件に抵触する場合は“何らかの地盤補強が必要”と判断することになります。
以上のように、日本建築学会は、以下の二つの手順を示しています。
しかし、この流れだけでは、適用可能な基礎形式や地盤補強の仕様を定めることはできません。
日本建築学会は、もう一つの図で、基礎形式選定の流れ全体を示しています。(図-5)
この図では、建物の計画が定まり荷重が明らかになった状態で、地盤調査結果を用いて地盤の支持力、沈下量を計算し、それぞれが建物の計画に適合することを確認しながら、基礎形状や地盤補強の仕様を決めていく手順が示されています。
【出典】日本建築学会:小規模建築物基礎設計2008,p.74,図5.3.3
図中の“許容支持力qa”が、建物を支えるために求められる地盤の強さです。
どんな材料でも、力が作用すれば変形します。
許容支持力を発揮時の地盤の変形量(沈下量)は、地盤によって変化します。
沈下量の大きさが、建物に悪い影響を及ぼす可能性があるなら、何らかの地盤補強が必要になります。
建築基準法には、スウェーデン式サウンディング試験結果を使った許容支持力の計算方法は示されていますが、沈下量の計算方法は示されていません。
日本建築学会は、小規模建築物基礎設計指針に、沈下量の予測方法を示してはいますが、予測式や用いる各定数の適用範囲には注意が必要です。
沈下量の予測については、内容が複雑なので、別の機会に紹介したいと思います。
以上のように、基礎の形式や地盤補強の仕様を決めるために地盤調査は必要ですが、スウェーデン式サウンディング試験を行わなくても、地盤補強の要否を確認することは可能です。
土地を探すときには、その場所がどの地形に分類されるかを確認し、地盤補強に必要な費用を考慮しても、資金計画に支障がないかを考えるようにしておくとよいでしょう。
くどくなりますが、地形の確認方法については、私の過去のブログでも書いていますのでご確認下さい。
地盤補強が必要な地形では、地盤補強費用として100万円程度を考えておくことをお勧めします。
ただし、沿岸部や谷・沼を埋め立てた人工地形では、地盤補強費用が上記予算の1.5~2倍程度必要になることもあるので、注意が必要です。
地盤補強が必要と考えられる土地の場合、土地売買契約の前に、地価に地盤補強の必要性が反映されているか、あるいは、購入後、地盤補強が必要となった場合に、地盤補強費用をどのように扱うかについて、不動産屋さんを通して売主と協議することをお勧めします。
不動産屋さんには馴染みのことかもしれませんが、10年近く前に、以下のような判例も出ています。売主には、仲介を行う時点で地盤補強費の負担が生じる可能性があることを伝えておくことも必要でしょう。
「分譲地の地盤が軟弱であるのは瑕疵に当たるとして、瑕疵担保責任に基づき、土地改良費用の請求を認容した事例」
一般社団法人 不動産適正取引推進機構ホームページ内、判例紹介
RETIO No.80 2011.01 3.土地の瑕疵責任
神村真