• 地盤の専門家神村真による宅地防災の情報発信サイト

先週は「マンションを支える杭の先端が所定の支持層に到達していない」というニュースから、地盤調査の「ばらつき」に関する話題を書きました。

今回は、同じニュースに関係する、杭の「着底管理」に関するお話をしたいと思います。

  1. 地盤面の変化と地層断面の不理解から生まれる問題
  2. 着底管理の重要性と課題
  3. 地盤調査計画の重要性
  4. まとめ

1.地盤面の変化と地層断面の不理解から生まれる問題

私は、あまり大きな建築物の杭基礎の施工に関わったことはありません。

木造の戸建て住宅や、せいぜい4~5階建て程度の鉄筋コンクリート造や鉄骨造の建築物の基礎工事に関わった程度です。

そのような比較的小さな建築物を対象とする地盤改良工事や杭工事であっても、築造する改良体や打設する杭の先端が、所定の地層に到達していることを確認することは、品質管理上、最低限必要な事項です。

なぜなら、改良体や杭の先端が、設計で想定している地層に到達していなければ、建物を安全に支えることができないからです。

地盤調査結果のみを見て地盤改良や杭の設計をしていると、この調査結果から決まる深さまで、杭を打設すればよいと考えがちですが、以下の3つの理由から、杭を施工する機械を据え付けた位置によって、杭先端の到達深度(地表面から想定地層までの距離)は変化します。

  • 地盤調査を行った場所の標高と杭を打設する位置での標高は異なる
  • 地表面の標高は、敷地内で変化する
  • 地盤調査結果と同じ地層構成が、敷地内のどこでも現れるとは限らない
図-1 トラブルの原因に繋がる3つの項目

上記の3項目は、どれも当たり前のことですが、管理が行き届いていない場合、これらのことを原因に、改良体や杭の先端が想定された地層に到達していないということが起こりえます。

例えば、地盤調査の後、地盤改良や杭工事前に、敷地を掘削したり、盛土をしたりすることがあります。

この場合、地盤調査を行った時と地盤改良や杭工事の実施時では、地表面レベルが異なります。

また、敷地内で、地表面レベルが変化していることもあります。

このような現場条件に対して、設計者または施工管理者は、以下の事柄を施工者に伝える必要があります。

  • 改良体や杭の頭部や先端部の深度は、何を基準にして決めるのか
  • 改良体や杭の頭部や先端部の深度は、基準から何mになるのか
  • 改良体や杭の先端部が、想定地層に到達したことをどのように確認するのか

住宅の場合はスウェーデン式サウンディング試験を敷地内で4~5地点実施するので、あまり問題にならないのですが、ボーリング調査結果が敷地内で1ポイントしかない状態で、地盤改良や地盤補強の設計をしなければならない場合、敷地内での地層の分布状態を知る術がありません。

このような場合、改良体や杭の先端が、想定している地層に到達したことを確認する「着底管理」は、極めて重要な役割を果たすことになります。

2.着底管理の重要性と課題

着底管理(打ち止め管理ということもあります)は、改良体や杭の先端が所定の地層に到達したことを確認することです。

地盤改良機や杭打ち機には、施工中に発生する回転トルクや押込み力および施工速度を計測する装置(管理装置と呼ばれます)が搭載されています。

このような装置が搭載されていないものもありますが、ここでは、管理装置が搭載されていることを前提とします。

先に述べたように、杭工事の現場では、地盤調査地点が少ない場合、想定する地層の出現深度を事前に予測することができません。

このため、杭施工中に記録される回転トルク、押込み力や施工速度の変化から、想定地層への到達を確認することが考えられるようになりました。

具体的に言うと、地盤調査を行った位置付近で杭を打設し、この施工中に記録された回転トルクや押込み力、施工速度を記録し、想定地層付近で、これらの値がどのように変化するかを確認します。

多くの場合、想定地層到達時に、これらの計測値は急増し、想定地層に到達したことが分かります。

図-2 着底管理の考え方

ところが、この時にもいろいろな問題が発生します。

例えば、杭先端が砂礫層などに到達すると、押込み力は増加し、施工速度は極端に低下しますが、回転トルクは小さくなることがあります。

また、住宅のための改良体や杭の場合、先端地層が、一般的な建築物の先端地層よりも弱く、施工機で計測される数値では、所定層に着底したことを把握できないこともあります。

その他、施工機の特性上、貫入抵抗が大きくなると、施工機が地表から持ち上がることがありますが、この段階でもオーガーモーターの位置は変化しているので、実際の施工深度と計測記録が一致しない等の問題が発生します。

このため、着底管理の概念や施工機の計測機器の特性について、施工管理者とオペレーターが十分に理解しておくことも重要な事項になります。

このため、改良体や杭の先端が着底したことは、複数の項目から検証する必要があります。

3.地盤調査計画の重要性

地盤改良工事や杭工事は、見えない地盤の中を手探りで行うものです。

このため、地盤調査の実施箇所数が少ないほど、管理精度が低下します。

住宅建設の場合、スウェーデン式サウンディング試験を敷地内で4~5ポイント実施するので、敷地内の地層構成をおおむね把握することができます。

このため、あらかじめ改良体や杭の長さが敷地内でどのように変化するかを把握することができます。

しかし、経験の浅い設計者は、地層構成の把握まで頭が回らず、最も支持力が小さくなる調査結果のみをもとに敷地内の地盤改良や杭の施工長を決めることがあります。

この情報だけを携えて現場に向かうと、計画された杭長では、想定している地層に到達しない杭や、逆に、計画している杭長よりも浅い深度で、想定していた地層に到達してしまう、ということが起こります。

柱状改良の場合、改良体長さの変更は比較的自由に調整できますが、鋼管等の既成杭を使用する場合、計画以上に杭材が必要になるなどの問題が発生します。

このようなトラブルを回避するためには、現地の地形と建物の配置計画を考慮した地盤調査計画の立案と実施が重要になってきます。

地盤調査位置の決定は、建物の設計を担当する建築士の仕事です。

調査計画が不適切な場合、地盤改良や杭の先端が所定の地層に到達していない等のトラブルが発生することになります。

ところが、住宅づくりでは、この調査計画の立案が極めてテキトウです。

瑕疵保険や地盤保証の関係でスウェーデン式サウンディング試験を4~5ポイント実施することは一般化しましたが、それ以上のことを計画する工務店や建築事務所は実に少ない。

地形から、敷地内で軟弱な地層の厚さが変化する可能性があることや、柱状改良体の固化を阻害する土が堆積していることを予知することは可能です。

リスクの高い敷地では、スウェーデン式サウンディング試験の他にボーリング調査や試掘を行うなど、敷地の特性に応じた地盤調査計画を立案されることをお勧めします。

4.まとめ

地盤の中は見えません。

しかし、必要最小限の情報を得ることは可能です。

敷地によって地盤の持つリスクは様々ですので、必要最小限の情報も変化します。

建築士は、この、場所によって変化する必要最小限の情報が何かを見極め、適切に情報を収集する必要があります。

なんでも専門業者任せにしていると、大変なことになるので、ご注意ください。


神村真



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA