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つい先日、8月12日、13日と、埼玉県で日中の豪雨によって、内水氾濫が発生しました。

今回は、さいたま市の降雨記録や川口市の下水道ビジョン(2018年)などを参考に、都市部での雨水対策について考えてみました。

  1. 8月12日、川口での降雨量にみる現行施設の限界
  2. 雨水の流出を抑制する技術
  3. まとめ

1.8月12日、川口での降雨量にみる現行施設の限界

8月12日に埼玉県川口市東川口駅付近で、ゲリラ豪雨による冠水が発生しました。

ニュースやネットで動画が公開されていたので、駅に流れ込む雨水やマンホールから噴出する雨水の様子を見られた方も多いと思います。

図-1に当日の13時~15時の、10分毎の降雨量(気象庁埼玉県さいたま観測地点)を示します。

冠水をもたらした降雨量は、40分間に32.5mm。

最も雨足が激しい20分間での降雨量は29mmでした。

もし、この強度の雨が1時間降り続けば、時間当たりの降雨量は、約90mmとなります。

図-1 2020年8月12日、13時~15時の10分毎の降雨量
(気象庁埼玉県さいたま観測地点)

気象庁:各種データ・資料(“過去の気象データ検索”を選択して各地の気象データを検索可能)
https://www.jma.go.jp/jma/menu/menureport.html

気象庁のリーフレット「雨と風」によれば、1時間降雨量が80mm以上の雨を「猛烈な雨」と呼び、「恐怖を感じる」とされています。

幸い、8月12日には、雨足は20分程度で弱まりましたが、これが1時間続いていたらと思うとゾッとします。

気象庁:リーフレット「雨と風(雨と風の階級表)」
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/books/amekaze/amekaze_index.html

図-2に、川口市が発行する川口市下水道ビジョン(平成30年,2018年)に示された過去10年間に浸水被害が生じた場所を示した地図を示します。

この図から、東川口駅周辺では、過去10年間に度々浸水被害が発生していることが分かります。

また、参考として、東川口市駅周辺の土地条件図を示します。

東川口駅の東側は低地となっていることが分かります。

図-2 川口市での過去10年間の浸水履歴
(引用:川口氏下水道ビジョン(冊子) p.16)
図-3 東川口市駅周辺の土地条件図

雨水は、高いところから低いところに流れていきます。

東川口駅西側の台地から駅の北側出口付近での標高差が10m以上あり、高台に降った雨が勢いよく東川口駅方面に流れてくるはずです。

台地上部は都市化が進んでおり、1時間当たりに換算すると約90mmの降雨が20分も降れば、現行の下水道施施設では、雨水を適切に流下させることができず、マンホールや側溝から雨水が噴き出すことになります。

これが、現行の下水道施設の限界なのです。

2.雨水の流出を抑制する技術

東川口駅周辺の空中写真を時代ごとに見ていくと、1970年代中頃から宅地化が進んでいることが分かります。

1960年代は、台地には畑や雑木林が、低地には水田が広がっています。

現在では、道路はすべてアスファルト舗装され、多くの建物が立ち並び、雨水を浸透あるいは貯留する能力が大幅に失われています。

(i)1960年代
(iii)1980年代

(ii)1970年代
(iv)21014年代

図-4 東川口駅周辺の変化(地理院地図より)

雨水は高いところから低いところに流れていくので、標高が相対的に低い場所に雨が流れていきます。

側溝を通って下水管に集められた雨水は、一定時間内に流すことができる量が決まっています。

台地から低地に向かって勢いよく流れている雨水の量が、下水管の容量を超えていると、雨水が下水管からあふれ出します。

この問題を解決するために、下水道の直径を拡大することや、大規模な貯留施設を設けることが計画されることもありますが、施設の更新は、下水道システムの一部分のみを対象にしても意味がありません。

現在の下水道のシステムは、数10年に渡って構築されてきたものなので、これを更新しようとすれば、やはり数十年の年月を要する可能性があります。

また、大規模な貯留施設を建設することで、問題となる地域の雨水流出量を抑制することは可能ですが、建設費やその施設の維持費用を考えれば、簡単に導入できるものではありません。

一方、これまで、厳密な雨水流出量について規制してこなかった民間の敷地は、雨水の流出抑制を行うための施設として有望視されています。

既に多くの自治体で、一定条件以上の開発については、流出抑制条件が設けられています。

ただし、既存の住宅や施設に対しては、未だに流出抑制条件が設けられていません。

東川口駅周辺を例にとれば、台地部で現在、宅地となっている地域は、畑や雑木林であったので、雨水はほぼ全てが敷地内に浸透していたと考えられます。

しかし、宅地化され、道路が舗装されたこで、雨水は地下に浸透せず、地表面を流れて側溝などを介して下水道に流入しています。

台地部の住宅地で、雨水を地下浸透できれば、下流に流れる雨水を大幅にカットできるはずです。

私が開発に関与した縦型雨水浸透施設(図-5)は、一般的な樹脂製やコンクリート製の雨水枡底部に設置することが可能で、小さな面積で従来の浸透施設と同レベルの浸透力を確保することが可能です。

このような施設は、既存の住宅のように、浸透施設を設置するために使用できるスペースが小さい場合でも、設置が可能です。

図-5 縦型雨水浸透施設の模式図

縦型雨水浸透施設の概要(城東リプロン株式会社HP内 スティックフィルター)
http://lyprone.com/stickfilter/

また、低地でも同じことが言えます。

低地の大部分は水田でした。

水田は雨水を貯留し、河川に流れ出す雨の量を抑制する機能があります。

残念ながら、低地では雨水浸透施設は使用できないのですが、各住宅に貯留施設を設置することで、水田と同じ機能を持つことが可能になります。

雨水貯留槽は、かつては鉄筋コンクリートで作ることが一般的でしたが、現在は、樹脂製のブロックを組み合わせることで、様々な大きさの貯留槽を作ることが可能です。

3.まとめ

これまで、治水対策は行政の役割でした。

しかし、内水氾濫は、都市化による雨水の浸透や貯留能力の低下が一因で発生する災害です。

都市化された地域の戸建て住宅や施設の敷地内で、その敷地に適した浸透または貯留施設を活用し、もともと土地が持っていた雨水流出抑制機能を回復させることで、災害の発生を防止できるはずです。

国や地方自治体はこのことを理解していて、雨水浸透施設や貯留施設の導入費用を助成している場合があります。

現時点では、この問題は、国民に十分伝わっておらず、既存建築物や施設への雨水浸透施設や貯留施設の普及はまだまだのようです。

本来このような対応は、造成段階で行うべきでしたが、造成が盛んに行われた70年代から90年代には、そのような思想は一般的ではありませんでした。

内水氾濫は人が生み出した災害ですので、積極的な人の関与で、比較的低コストで防止することは可能とえらえます。

耐震リフォーム等の際に、宅地の貯留・浸透能力の回復についても検討することをお勧めします。


神村真



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