• 地盤の専門家神村真による宅地防災の情報発信サイト

9月1日は防災の日です。

1923年(大正12年)9月1日11時58分ごろに発生した関東大震災にちなんで、この日に制定されています。

この地震では火災によって建築物が延焼してしまったので、揺れによる建築物の被害を厳密に知ることができませんが、その後の多くの地震を経験する中で、どのような地盤や建物が揺れやすいのかということが明らかになってきました。

今回は、どんな条件の場合に揺れやすく、建物にとって問題になるのかについて考えていきたいと思います。

  1. 「揺れ」のモデル化
  2. 注意しなければならない「共振」
  3. もっと複雑な地盤の振動
  4. まとめ

1.「揺れ」のモデル化

住宅の耐震性を考える時に、しばしば利用されるのが、図-1に示す質点ばねモデルです。

住宅の重量を「球体」で、住宅の硬さを「棒」で表します。

図-1 揺れる住宅のモデル化の例

質点に地震力(水平力)が作用した時、棒が硬ければ、住宅の変形角は小さく、破壊に至りませんが、棒が軟らかければ、住宅の変形角は大きくなるので、住宅は大きな損傷を受けるか、破壊に至ります。

このモデルから、住宅を揺れにくく、かつ、地震に強くしようと思えば、棒を硬くすればよいことが直感的に分かります。

棒の先の球体は、地震力を受けると、ゆらゆらと揺れます。

この時の揺れの幅を振幅と言います。

動き出した球体が左右に振れて元の位置に戻ってくるまでの時間を「周期」と言います。

この球体が色々な周期で揺れるようにすると、格段に振幅が大きくなる周期が現れます。

これを「固有周期」と呼びます。

住宅の硬さは、「固有周期」を知ることで求めることができます。

さて、実際の住宅は揺れる地盤の上にあるので、さらに安全を求めるのであれば、揺れにくい地盤を探す必要があります。

地盤も住宅と同じように、質点ばねモデルでモデル化すれば、地盤が硬ければ揺れが小さくなることが想像できると思います。

逆に、軟らかい地盤は、揺れが大きくなります。

この揺れやすさの指標の一つに、地表面付近地盤の「せん断波速度Vs」が挙げられます。

地中深くにある岩盤のVsに比べて、地表付近のVsが小さく、その層が厚い場合、揺れは大きくなります。

【参考】「地震時によく揺れる地盤はどんな地盤?」澤田純男
京都大学土木会会報,2017年度(No.55)会報,pp72-73,
https://www.kyodokai.gr.jp/kaihou17.html

さて、建物の揺れ方を表す「固有周期」と、地盤の揺れやすさの指標と関係する「せん断波速度」は、いずれも微動計測技術で計測することが可能です。

微動計測技術とは、交通振動等、日常にある振動による建物や地盤の揺れを計測する技術です。

2.注意しなければならない「共振」

地盤の上に建てられた建物の揺れを考える時、考えておかなければならないことがもう一つあります。

「共振」です。

一休さんが指一本で鐘を動かすという寓話がありますが、これは「共振」を応用したものです。

この現象から推測できるように、地盤の固有周期と建物の固有周期が一致すると、建物の揺れは最大化することになります。

地盤の固有周期は、地盤によって様々です。

日本建築学会では、地盤の固有周期(卓越周期とも言います)を表-1のように定めています。

表-1 地盤の固有周期(卓越周期)

区分 土質のイメージ 固有周期(秒)
第1種地盤 堅固な地盤 0.22
第2種地盤 緩い洪積地盤または締まった沖積地盤 0.37
第3種地盤 軟弱地盤 0.56

【参照】日本建築学会:建築物荷重指針・同解説(2015), pp.435-437

また、住宅の固有周期は、ある程度の幅を持っています。

例えば、田端・大橋(2007)は、様々な築年数の住宅を対象に固有周期を計測し、図-3のような築年数と固有周期の関係を示しています。

【出典】田端千夏子,大橋好光:微動測定とその耐震診断への応用の可能性一木造建築物の耐震診断法に関する研究 その2 一, 日本建築学会構造系論文集, No.616, pp.141−147, 2007年6 月.

図-2 築年数と固有周期の関係

この図によれば、現在の耐震基準の基礎ができた1980年以降に建築された住宅の固有周期は、0.1から0.3秒程度であることが分かります。

図-2から、2000年以降の住宅の固有周期は0.1秒から0.2秒と比較的小さいことが分かります。

地盤の固有周期は、表-1からは、堅固な地盤では0.22秒程度と考えられるので、最近の住宅は堅固な地盤上で共振する可能性があると考えられます。

また、建物が大きな揺れによって損傷を受けると、固有周期が大きくなることも確認されています。

図-3は、模型実験で得られた建物の水平変位とせん断力の関係です。


【出典】市口恒雄, 松村正三:地震動の周期に依存した建物被害と新たな課題科学技術動向, 2012年5・6 月号, pp.21-35, 2012. 科学技術・学術政策研究所「科学技術動向」誌バックナンバー一覧

図-3 繰返し荷重を受ける建物のせん断力と水平変位の関係

この関係を見ると、繰返しの初期段階では、曲線の勾配(建物の剛性)は大きいのですが、何らかの損傷が発生すると、曲線の勾配が急激に小さくなることが分かります。

このように曲線勾配が低下した状態では、建物の剛性は小さく、固有周期は1から2秒程度まで大きくなります。

この状態に到達した建物に、固有周期と同程度の周期の地震動が加わると、建物は甚大な被害を受けるか倒壊することになります。

これらのことから、住宅が地震によって倒壊しないためには、大きな地震力に対しても損傷を受けない構造としておく必要があることが分かります。

3.もっと複雑な地盤の振動

1995年に発生した兵庫県南部地震は、多くのビル、高速道路が倒壊し、多くの死傷者が出たことから、私の中では非常に印象深い地震でした。

この地震で注目を集めたのは、建築物の倒壊被害が、六甲山のすそ野の東西に延びる地域に集中したことでした。

この地域は、「震災の帯」と呼ばれ、様々な研究がなされました。

この「震源の帯」について様々な研究がなされた理由は、断層の位置と被害が大きかった地域の分布範囲が一致しなかったためです。

多くの研究成果は、この地域が地質的な境界に位置するため、地震波が反射し、これが軟弱地盤中で増幅されたことが被害を大きくした原因の一つであることを示しています。

図-4は、表層部での揺れの大きさ(ここでは速度)の分布と地形の関係を数値解析によって確認した結果です。

地層が水平に堆積している左端と中央の図では、地震動を与えた位置と地表面の速度が大きくなる位置は一致しています。

しかし、軟弱地盤の層厚を変化させた右端の図では、速度が大きな範囲が、震源直上から右側に移動することが分かります。

このように、地形の変化する地域では、地震動が複雑に反射し、増幅され、震源となる断層から離れた位置で大きな被害が出る可能性があることが分かります。

同様の現象は、その後の地震でも確認されています。

このため、断層が近くにある台地と低地の境界部付近などは、地震動が通常よりも増幅されやすいと考えておいた方が良いでしょう。

【出典】纐纈一起:強震動-地震災害の軽減のための基礎的な情報,
東京大学地震研究所 阪神・淡路大震災(兵庫県南部地震)10周年事業 特別公開講座「これまでの10年 これからの10年」−阪神・淡路大震災後 地震研究所は何を明らかにしてきたか−,http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/koho/hanshin-awaji/kouketsu.htm

図-4 地形の違いが表層の揺れに与える影響

4.まとめ

住宅の揺れやすさは、住宅の固さや地盤の硬さで決まります。

住宅の硬さは、固有周期を計測することで、地盤の硬さは、Vsを計測することで、それぞれ確認することができます。

これらの値は、微動計測技術によって確認することが可能です。

住宅は損傷すると固有周期が大きくなり、地震動に対して揺れやすくなります。

このため、想定される大きな地震に対しても損傷を受けないように設計することが望ましいと言えます。

地震時に住宅が揺れやい地盤は、断層の真上とは限りません。

地形によっては断層から遠く離れた場所になるかもしれません。

これは、地形と大きな関係があります。

このため、住宅が建っている場所だけではなく、その地域で、断層がないか、地形の変化する地域に一致しないかなどを検討しておく必要があります。


神村真



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