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液状化で浮き上がったマンホール(2011年3月)

先日、「造成宅地を買い付けるのだけど、液状化地域に位置しているのでどうしたものか?」という相談を受けました。

この造成宅地の1区画は、既に他社にも購入されていて、「液状化地域だけど、液状化対策を特に行っていない」との情報がありました。

このため、相談者はどうすべきか判断に悩まれたようです。

今回は、このような場合に、具体的にどのように液状化リスクを評価するかについて考えてみることにします。

  1. 液状化リスクの予測方法
  2. 液状化ハザードマップ
  3. 非液状化層の確認
  4. 液状化被害判定での注意点
  5. まとめ

「液状化の可能性を探る方法 その1」はこちら↓

1.液状化リスクの予測方法

 液状化リスクを予測するために役立つのが、図-1に示す液状化被害の可能性判定図です。

これは、国土交通省が「宅地の液状化被害可能性判定に係る技術指針・同解説(案)」の中で示したものです。

この図を活用するためには、

①非液状化層$H_1$
②液状化により生じる地表面沈下量$D_{cy}$または液状化指標値$P_L$

の2つの項目を知る必要があります。

【参照】国土交通省:「宅地の液状化被害可能性判定に係る技術指針・同解説(案)」
URL:https://www.mlit.go.jp/toshi/toshi_fr1_000012.html

図-1 国土交通省が示す宅地の液状化被害の可能性判定図

表-1 判定結果と液状化被害の可能性の関係

【参照】国土交通省:「宅地の液状化被害可能性判定に係る技術指針・同解説(案)」
URL:https://www.mlit.go.jp/toshi/toshi_fr1_000012.html

非液状化層$H_1$は、図-2に示すように、地層の構成と地下水位が分かれば特定できます。

【参照】国土交通省:「宅地の液状化被害可能性判定に係る技術指針・同解説(案)」
URL:https://www.mlit.go.jp/toshi/toshi_fr1_000012.html

図-2  非液状化層と液状化層

一方、$D_{cy}$や$P_L$は、液状化に対する安全率$F_L$の深度分布を知る必要があります。

この安全率$F_L$ は、少なくとも、地盤の強さを示すN値と土の細粒分含有率の深度分布を知らなければ求めることができません。

N値はスウェーデン式サウンディング試験で推定することができますが、細粒分含有率は、標準貫入試験等で採取した土を用いて「細粒分含有率試験」という土質試験を行わなければ求めることができません。

それでは、これらの値は、既存資料から、どのように確認すればよいのでしょうか?

答えは、簡単。

液状化ハザードマップを見ればよいのです。

2.液状化ハザードマップ

 液状化ハザードマップは、「液状化地域ゾーニングマニュアル 平成10年度版 (国土庁防災局)」に基づいて作成されます。

このため、液状化ハザードマップでは、液状化発生の可能性や被害の可能性の程度を、地形区分と各地形でのボーリング柱状図や土質試験結果に基づき算出した液状化安全率$F_L$に基づき算出しているはずです。

多くの場合、$F_L$から求めた液状化指標$P_L$の分布図を、ハザードマップとしています。

$P_L$は、$F_L$が小さい(液状化する可能性が高い)地層の出現深度や、そのような地層の層厚に関する重みづけを行って、液状化の危険度を定量的に評価することができる指標です。

なお、$P_L$を算出するまえに、液状化の危険度を、表-2を用いて大きく区分します。

多くのハザードマップでは、地形の影響も加味されています。

表-2での液状化発生の可能性の程度は5段階に分類されています。

先述の判定図と判定表(表-1)の区分(A, B1, B2, B3, C)は、表-2の区分と概ね対応しています。

表-2 液状化ハザードマップ作成用地形分類情報項目とリスク評価基準体系表

 

【参照】中埜貴元:液状化ハザードマップ作成のための地形分類情報の効率的整備手法の開発,平成28年国土技術研究会
URL:https://www.mlit.go.jp/chosahokoku/giken/search/index.html#H28

ここで、東京都の液状化ハザードマップを参考に見てみましょう。

東京都は、「東京の液状化予測図」を公開しています。

図-3は、その一例です。

【参照】東京都建設局:東京の液状化予測図 平成24年度改訂版
URL:https://www.kensetsu.metro.tokyo.lg.jp/jigyo/tech/start/03-jyouhou/ekijyouka/index.html

図-3 液状化ハザードマップと判例の一例

赤く塗られた地域が、$P_L$が5以上の地域であることが分かります。

ところで、東京都の液状化予測図は、関東大震災での揺れを想定していて、震度は6弱に相当します。

ハザードマップを見るうえで、想定している地震の大きさは非常に重要なので、確認するようにしましょう。

3.非液状化層厚の確認

 先ほど、図-1の液状化被害の可能性判定図の横軸である「非液状化層厚$H_1$」は、地層構成と地下水位が分かれば確認できると書きました。

近年、地方自治体(主に都道府県)は、自分たちが所有するボーリングデータを公開し始めています。

また、国土交通省管轄のボーリングデータは「国土地盤情報検索サイトKuniJiban」で確認することができます。

アサヒ地水探査株式会社は、「G-Space」という地質地盤情報データベースによるボーリング柱状図の閲覧サービスを提供しています。

有料サービスですが、特定の地方自治体の公開ボーリングデータに加え、一般企業からもボーリングデータの提供を受けているので、ボーリングデータが豊富です。

このような検索サービスを活用すれば、対象とする土地の近くで、同じ地形に属するボーリング柱状図を見つけることができるかもしれません。

ボーリング柱状図から、地下水位より上にある地層は土質によらず非液状化層です。

また、粘性土も非液状化層と考えることができます。

先ほど図-3で示した地域のボーリングデータを探してみましょう。

東京都では、「東京の地盤」と題して、ボーリングデータを公開しています。

図-4は、図-3で示した地域の公開ボーリングデータの位置とボーリング柱状図の一例です。

図-4 ボーリングデータの検索サイトと検索結果の一例

この事例の場合、地表面から深度6mまで砂質土です。

砂質土は液状化します。

しかし、地下水位がGL-1.3mにあります。

このことから、この場所での非液状化層厚$H_1$は、1.3mと判断できます。

4.液状化被害判定での注意点

以上のように公開資料を集めれば、液状化被害の可能性を把握することができます。

しかし、この時注意することがいくつかありますので、以下に示します。

(1)被害の程度が低くても不同沈下が発生する可能性がある

図-3、図-4で確認した内容を、判定図で落とし込むと、この地域の液状化の被害は、「顕著な被害の可能性が比較的低いB3」に分類されることが分かります(図-5)。

図-5 液状化危険度の判定結果の一例

この時に注意しなければならないのは、「このレベルの危険度では被害が生じないのか?」という点です。

図-5の左側の図では、縦軸が液状化による地表面沈下量$D_{cy}$となっています。

被害の程度が「B3」の場合、$D_{cy}$は0~5cmと予測されています。

注意が必要なのは、最大5cmの沈下が発生することと、この地表面沈下量の予測では、建物の荷重を考慮していないということです。

まず、均等に5cm沈下するのであれば、5cm程度の沈下であれば、大きな問題にはならないかもしれません。

しかし、建物の重さは必ずしも均等ではありません。

地盤は液状化によって強度を失っているので、地表面に不均質な建物荷重が作用すれば、建物は不同沈下することになります。

また、$D_{cy}$は建物荷重を考慮していない沈下量なので、建物荷重が加われば、予想値よりも大きな沈下が生じることは確実です。

(2)ハザードマップで想定された被害より大きな被害になることもある

建築基準法では、中規模以下の地震(震度5強程度)では、住宅にいかなる損傷も発生させてはなりません。

しかし、中規模を超える地震では、倒壊・崩壊を防止することが要求性能とされています。

従って、法律の上では、中規模地震で液状化被害を出さないようにしておけばよいことになります。

【参照】国土交通省:住宅・建築物の耐震化について
URL:https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_fr_000043.html

図-6 耐震基準の考え方

また、各地のハザードマップは、その地域で発生が懸念される地震規模に基づき作成されているので、ハザードマップを見る際は、どのような震度を想定したハザードマップなのかを確認する必要があります。

もしも、中規模地震に対して作られたハザードマップであれば、大規模地震の際には、表示以上の被害が生じる可能性があります。

特に、表-1で示した液状化被害の可能性が高い地形に属しながら、液状化被害の可能性が比較的低い場合は、ハザードマップで想定されている地震よりも大きな地震が来ると、液状化被害の規模が大きくなる可能性がある点に注意してください。

(3)住宅の耐震性能に見合った地震に対して危険度判定ができているか?

耐震等級3のように耐震性の高い住宅を建設する場合は、基準法で規定されている地震力よりも大きな地震力を想定します。

液状化危険度の判定を行う場合に想定する地震規模は、建物の設計で考慮する地震の規模と同等である必要があります。

ハザードマップの想定震度が6弱程度で、建物の設計で想定する地震が6強なら、ハザードマップで確認した液状化被害は、設計で想定している地震規模での被害と一致しません。

せっかく基準法よりも高い耐震性能を有する住宅を設計しても、想定した地震時に地盤が液状化するのでは、何の意味もありません。

5.まとめ

 以上、既存の情報から、対象となる土地が持つ液状化リスクの概要を確認する方法の一例をお示ししました。

地盤は液状化すると、完全に破壊されます。

液状化によって、住宅が大きく傾いたり、基礎の中に土砂が流入したりと、大変な被害が発生します。

もしも、液状化地盤上に盛土がされていれば、住宅は倒壊するかもしれません。

このように、液状化は、地震による被害を増幅させる可能性があります。

建築士は、基準法に準じているから大丈夫ではなく、その場所に応じた適切な対処を行って頂けますようお願いいたします。


神村 真



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