• 地盤の専門家神村真による宅地防災の情報発信サイト

地盤改良業者にいたころ、地盤改良費用を考慮しない住宅建設費の見積書を消費者に渡している建築士の話をしばしば耳にしました。

地盤を専門分野とする者からすると、「なぜ、事前にリスク評価をしていないのか」が不思議でなりません。

建物を支えるのは「地盤」です。

「地盤」が持つリスクを受容するために「構造」があるのではないでしょうか?

今回は、地盤が持つリスクを評価するという観点から、「地盤調査の立ち合い」について考えてみました。

  1. 立会いの意味
  2. 建築士の役割
  3. 試験立会いのポイント
  4. まとめ

1.立会いの意味

 本来、地盤調査会社は、現場代理人を調査現場に派遣して、適切に地盤調査が行われていることを管理監督しなければなりません。

図-1は、監督者がいる場合といない場合での標準貫入試験(ボーリング調査時に行われる地盤の強さN値を計測するための試験)結果の違いを示した図です。

また、図-2は、標準貫入試験実施時のハンマーの落下方法の違いによる結果の違いを示した図です。(ここで、コーンプーリー法は、ハンマーの落下高さを調査者が目視で調整する方法、自動落下法は、ハンマーの落下高さを機械的に規定する方法です)

これらの図から、標準貫入試験結果は、監督者の有無や使用する設備の違いで、大きな差が現れることが分かります。

ボーリング調査(標準貫入試験)は、高精度な地盤調査のように見られがちですが、実態はこんなものです。

しょせんは「人間のやること」です。

【出典】地盤工学会:地盤調査の方法と解説, pp.301-303, 2016.

図-1 監督者の有無によるN値の違い

【出典】地盤工学会:地盤調査の方法と解説, pp.301-303, 2016.

図-2 ハンマーの落下法によるN値の違い

一方、スウェーデン式サウンディング試験(これ以降、SWS試験と省略します)は、近年、自動化が図られ、人的誤差が排除されてきましたが、まだまだ完全ではありません。

使用するツールの状態や調査者の熟練度によって、得られる結果に大きな差異が現れます。

このような差異が存在することは、現場に行かなければ分かりません。

また、地盤調査は、調査地で原位置試験を行えば終わりではありません。

調査結果から、その場所に建物を建築する場合に想定しておかなければならないリスクを抽出するためには、敷地内とその周辺の情報を収集する必要があります。

住宅建設のためのSWS試験では、周辺状況の調査(現地踏査と言います)を含むことが一般的ですが、ボーリング調査の場合、このような現地踏査を行っていない場合が多いと思います。

なお、調査者の技術の習熟度によっては、現地踏査結果が不十分である場合があります。

このように、地盤調査結果には人的誤差が多く含まれます。

地盤リスクが高いと思われる案件については、調査の立会いを行い、試験の状況、SWS試験の1ポイントから2ポイント目までの試験結果を確認し、ご自身の想定結果と一致していることを確認してください。

また、周囲の状況もよく観察してください。

そのうえで、必要な地盤対策の仕様について「建築士(設計者)としての一つの解答」を持ち、地盤保証会社の提案を見ることをお勧めします。

地盤保証会社の提案が、最適であるとは限りませんので。

2.建築士の役割

 住宅建設での地盤調査は、建築士からの委託業務になることが一般的です。

この場合、例えば不同沈下事故が発生した結果、地盤調査内容やその考察内容に問題があったとしても、調査者が負う責任は限定的なものになります。

これは、調査者は、建築士の補助者で、最終的な判断は、建築士にあるためです。

近年、地盤保証制度が定着しているので、不同沈下の責任は、地盤保証会社や地盤調査会社、地盤改良会社にあるように思われがちです。

しかし、事故の責任は、建築士にあります

保証の要否とは別の問題です。

住宅建設における建築士の責任は非常に多岐に渡るので、地盤に関わらず様々な保証が存在しています。

地盤は、設計した建築物が、設計通りの性能を果たすために不可欠な「部材」です。

住宅が、地盤沈下によって傾斜してしまったら、その他の「性能」は確保できたとしても、住宅としての「機能」を確保できていませんので、発注者に引き渡すことはできないはずです。

保証商品や瑕疵保険によって建築士は守られています。

しかし、だからと言って盲目になってはいけないのではないでしょうか。

責めを受けるのは、有資格者である建築士なのですから。

3.試験立会いのポイント

SWS試験の試験立会い時のポイントとして、次の3つが挙げられます。

(1)調査設備
(2)調査者
(3)周辺状況の確認

(1)調査設備

 近年、多く普及しているSWS試験装置は全自動式のもの(図-3)ですが、スクリューポイントの回転を手元スイッチでON/OFFするタイプの半自動式も使用されています。

図-3 全自動式のSWS試験装置の一例

ここで、スクリューポイントは、図-4に示す形状をした、ロッド先端に取り付ける調査器具の一つです。

図-4 スクリューポイント

SWS試験では、スクリューポイントの直径が結果に大きく影響を及ぼします。

スクリューポイントは、JIS A 1221「スウェーデン式サウンディング試験」で、最大直径とその位置が規定されています。

最大直径は33mmで、その位置は先端から150mmです。

なお、スクリューポイントは摩耗するので、最大直径が30mm未満のものは「使用しない方が良い」とされています。

試験中にも摩耗が生じるので、試験前には、最大直径が30mmを超えていることを必ず確認しましょう。

多くの調査会社が、調査者に「リングゲージ」を所持させているので、スクリューポイントをリングゲージに通して、所定の位置で直径が30~33mmであることを確認します。

なお、一宅地の試験中でも、スクリューポイントは摩耗しますので、調査開始時の直径が30mmのスクリューポイントは使用しないことをお勧めします。

(2)調査者

 前述のように、SWS試験装置の多くは全自動化されています。

ところが、「誰がやっても同じ結果になる」というわけではありません。

調査者によって、試験結果は変わりますので、以下の点について確認を行い、不備がある場合は指摘しましょう。

1)機器の設置状況
2)調査中の音・振動の確認と記録状況
3)土質・地下水位チェック状況
4)事前の資料確認状況

1)機器の設置状況

  • 試験装置を水平に設置すること
  • 試験装置が回転しないように防止措置をとっていること

この2点は必ず確認してください。

特に水平性については、試験結果に大きな影響を及ぼす項目です。

また、地表面が砕石の場合は、砕石層にロッドが接触しないように、砕石層の下にある地盤面から、試験を行うように指導してください。

砕石層が厚く、硬く締まっている場合、スクリューポイントが鉛直に貫入できない場合があります。

試験装置の水平性と同様に、SWS試験結果は、スクリューポイントが鉛直方向に貫入することが前提です。

2)調査中の音・振動の確認と記録

SWS試験の調査者は、1日に2~3現場で試験を行うことがあります。

このため、調査者は、効率的に作業を行う必要があるので、調査機から離れて、ロッドの回収作業等を行う場合があります。

調査開始から3ポイント目ともなると、おおまかな地層構成の把握はできていますので、調査機から離れることもやむを得ないと思います。

しかし、調査開始2ポイント目までは、スクリューポイント貫入時の音、深度、貫入速度に注目し、記録することが必要です。

この点を疎かにしている調査者には、貫入速度や音等から、「地層構成はどのようになっているか」などを問いかけ、記録するように指導してください。

問いかけに対して明確に返答できない調査者は、ただの試験装置の操作者なので、以降の調査については、その行動を厳しく監視し、適切な調査を行うように指導する必要があるでしょう。

3)土質・地下水位チェック状況

 調査者は、調査後に、地中に貫入したスクリューポイントとロッドを引き上げます。

この時、調査者は、ロッドに付着した土を確認します。

SWS試験では、スクリューポイントが地中に貫入する音や速度に加えて、ロッドに付着した土を目視することで、地層構成の把握精度を上げていきます。

また、調査者は付着した土に含まれる水分量等から、地下水位を大まかに把握しています。

建築士が試験立会いする場合は、調査者が、このような情報を把握していることを確認しましょう。

これらの情報は、調査者しか知りえない、貴重なものです。

試験立会いすることで、その情報を調査者と共有することが可能になります。

ちなみに、調査者によっては、確認結果を頭の中で記録し作業後に記録を残すタイプとその場で野帳(試験現場用のメモ帳)に記録するタイプがいます。

メモをしていない調査者の場合は、念のため、土質や地下水位を、報告書に細かく記載するように依頼してください。

4)事前の資料確認

多くの調査者は、調査地が、どのような地形に位置するかを事前に確認しています。

このため、多くの調査者は、調査地の地層構成をある程度イメージした状態でSWS試験を行っています。

事前調査をしていない調査員の調査内容は、漫然としたものにしかなりません。

例えば、谷地形に位置する盛土造成地の場合、事前調査から、軟弱地盤の層厚が敷地内で変化する可能性や腐植土の堆積の可能性が考えられるでしょう。

事前調査を行っていれば、軟弱層の層厚変化を記録できるように調査深度を調整することが可能だし、腐植土の堆積が疑われるなら、ロッドに付着した土の色やにおいにも配慮するでしょう。

しかし、事前調査を行っていなければ、そのような貴重な記録を確認せずに、調査を終えてしまうかもしれません。

このような漫然とした地盤調査を回避するために、地盤調査の前々日頃に、調査会社に対して、地形や土質に関する既存資料を請求することをお勧めします。

まともな調査会社であれば、皆さんが請求された情報を、立会試験を行う調査者に事前に渡すはずです。

建築士の試験立会いを意味あるものにするためにも、建築士が予習することも怠らないようにして頂ければと思います。

(3)周辺状況の確認

 建築士は、建築予定地に何度も足を運ぶと思いますが、基礎着工前には、地盤のリスクを把握するために周辺環境をよく観察してください。

周囲よりも低くなっている土地には、軟弱な土が堆積している可能性がありますし、雨が降ると周囲から雨水が集まってきますので、雨水排水に配慮する必要があります。

擁壁がある場合は、その擁壁の高さや形式、状態を確認しておきます。

基礎と擁壁の底板位置が重なるような建物配置をしていると、地盤補強工事の際に問題になることがあります。

また、地上高さ2m以下の擁壁は、工作物としての審査を受けていない可能性があるので、構造的に問題がある可能性があります。

このような擁壁には建物荷重による土圧が作用しないように配慮しなければなりません。

周囲の住宅や道路の状態はどうでしょう?

壁面や基礎、道路にクラックが見られたり、電柱が傾いていたりしないでしょうか?

このような現象がみられる地域は、かつて水田や沼地だった場所を盛土造成した可能性が高く、不同沈下リスクが高い地域です。

このように周辺状況を把握することは、SWS試験結果を読み、地盤補強仕様を考える上で、非常に重要なことです。

4.まとめ

建物の機能確保の第一歩は、建物を傾かせない地盤を確保することです。

地盤の持つリスクは、既存の資料で大まかにとらえることが可能ですが、最終的な判断のためには、やはり地盤調査が不可欠です。

ところが、地盤調査は、調査者の優劣によって結果が変化してしまう危険性を持っています。

このため、試験立会いは、「得られた結果が信頼に足りるものであることを確認する」という側面を持っています。

このため、建築士の立会いは、調査者を育てる意味でも重要だと、私は感じています。

残念ながら、住宅建設において、地盤に強い関心を持ってくれる方は少なく、調査者は、いつも一人で地盤調査を続けています。

こういう仕事では、優秀な人材が育ちにくいものです。

ここで、建築士の皆様にお願いがあります。

試験立会いをし、よい仕事をしている調査者がいたら、褒めてあげて下さい。

芳しくない仕事をしている調査者がいたら、指導してあげて下さい。

彼らの仕事は非常に孤独です。

一言の声掛けが、優秀な地盤調査者を育てることにつながると思います。


神村真



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