• 地盤の専門家神村真による宅地防災の情報発信サイト

私のところには年に数件、不同沈下してしまった住宅に関する調査依頼が舞い込みます。

私が関わる不同沈下事例は、盛土造成地に関連するものが多く、いずれも地盤の成り立ちをしっかり確認していないことが事故の主な原因です。

いわば、起こるべくして起こる事故です。

しかし、このタイプの不同沈下事故は、一向に減らないように感じます。

それは、膨大な量の調査結果を審査する地盤保証会社の審査体制の限界と関連するのかもしれませんが、最も現場を見ているはずの建築士が、審査結果に違和感を覚えないことにも問題があるように思います。

今回は、非常にオーソドックスな事案ではありますが、改めて、盛土造成地での不同沈下の原因や不同沈下リスクを評価していく方法を振り返りながら、沈下リスクの評価に役立つツールの共有などをしていきたいと思います。

  1. 地盤の成り立ちと不同沈下
  2. 地盤の成り立ちの探りかた
  3. 沈下対策を検討する上での留意点
  4. まとめ

1.地盤の成り立ちと不同沈下

 地盤が沈下する原因は、地表面に建物荷重等が作用することによります。

しかし地盤は、かつて受けたことのある荷重に対しては沈下が小さく、まったく新しい大きさの荷重に対しては沈下が大きくなる特性を持っています。

この傾向は、特に粘性土で強く現れます。

水田を埋め立てて盛土造成地を作る場合、地盤の重さ(有効上載圧)と地中に伝わった盛土の重さの和が、地盤が過去に受けた力(圧密降伏応力)よりも小さければ、盛土荷重による大きな沈下は発生しません。

図-1 盛土によって地中に発生する圧力と地盤が過去に受けた力(圧密降伏応力)の関係

しかし、盛土荷重が過去に受けた荷重よりも大きくなる場合は、造成中に大きな沈下が発生します。

また、盛土造成中には大きな荷重が生じなかったとしても、建物荷重が作用することで、地中の圧力が過去に受けた荷重を超えることがあります。

この場合は、建物荷重によって沈下が生じ、不同沈下に至る場合があります。

スウェーデン式サウンディング試験結果を利用すれば、このような沈下の可能性を、ある程度予測することができます。

参考図に示すように、スウェーデン式サウンディング試験結果から「圧密降伏応力」を推定し、これを、仮定した地盤の重さや地下水位などを用いて算出した「有効上載圧」と比較することで、沈下しやすい地層をあぶりだすことができます。

図中で、「圧密降伏応力」と「有効上載圧」がほぼ等しくなる区間は、建物荷重による沈下の可能性が高い区間と判断できます。

参考図 圧密降伏応力と有効上載圧の関係

スウェーデン式サウンディング試験結果を「読む」ために押さえておきたいこと より

2.地盤の成り立ちの探りかた

1.に示した方法で、沈下の可能性が高い地層をあぶりだすことが可能ですが、「そもそも対象としている土地が、沈下の危険性が高いのか低いのか」を最初に把握しておけば、沈下リスクの高さをさらに精度よく把握することができます。

つまり、対象地が沈下の可能性が高い地形である上に、最近盛土がされたばかりであることを知ることができれば、沈下リスクの大きさは、概ね把握できます。

ここでは、現地に行って近隣の方々から情報収集する以前に、公開情報から事前調査を行う際に役立つツールを紹介します。

どれも、過去のブログで紹介しているおなじみのツールですが、改めてご紹介します。

(1)Google map

いわずとしれた便利アプリです。

このアプリのストリートビューは、非常に便利です。

画面右下の黄色の人型を目的のポイントに投下すると、その周囲の様子を写真で見ることができます。

図-2は、浅草通からスカイツリー方面を眺めた写真です。

左が2009年、右が2013年です。

2009年には施工中のスカイツリーが、2013年には完成しています。(スカイツリーのオープンは2012年)

このような、写真の集積データを公開している点は、このアプリの大きな特徴です。

(i)2009年

(ii) 2013年

図-2 Google Mapのストリートビュー機能による敷地の変化の確認

(2)空中写真

以前にも紹介していますが、地理院地図では、多くの空中写真を確認することができます。

以下のブログで示した確認方法と、もう一つ、「単写真」というスポット写真が確認できます。

図-3(i)に示すように、地理院地地図の「年代別の写真」というコンテンツを選択すると、その中に「単写真」というタイトルがあります。

これを選択すると、地図上に、空中写真の撮影ポイントが赤丸で表示されます。

この赤丸にカーソルと合わせると、撮影年月日等が表示されますので、「写真表示」という表示を選択します。

すると図-3(ii)の画面が現れます。

「高解像度表示」を選べば、より鮮明な画像を確認することができます。

また、「ダウンロード」を選べば、多少の質問に答えると、画像を自分のPCにダウンロードすることができます。


(i)空中写真(単写真)の検索
(ii) 空中写真の確認

図-3 空中写真の検索例(国土地理院 地理院地図)

(3)今昔マップ

こちらも、時をさかのぼることができる便利なツールです。

以前に紹介したと思いますが、再度紹介します。

時系列地形図閲覧サイト「今昔マップ on the web」
埼玉大学教育学部 谷 謙二(人文地理学研究室)
http://ktgis.net/kjmapw/

図-4は、1890年代末から1900年代初頭の東京都足立区北千住駅付近の地図と現代の地図の比較結果です。

古い地図の、確認したい位置にカーソルを合わせると、現代の地図上に赤丸で対象地が示されます。

この地図から、1890年代末から1900年代初頭には、現在の位置に荒川がなかったことが確認できます。

図-4 今昔マップを用いた過去と現在の地図比較の一例

3.沈下対策を検討する上での留意点

 2.で紹介した方法以外にも、かつての土地利用の状態を探る方法はありますが、2.で紹介した方法を活用すれば、都市化している地域での土地の履歴は概ね把握できます。

この中で、水田や旧河道等、軟弱な粘性土が堆積していることが明らかな地域で新たに盛土された場合、地盤は、非常に沈下しやすい状態になっていると考えた方が良いでしょう。

このため、建物荷重が作用すれば、沈下が発生することは避けられないでしょう。

このような敷地で、沈下対策を行う場合は、以下の点に留意する必要があります。

  • 盛土自重や建物荷重によって継続的に沈下する可能性の低い地層が存在するか?
  • 建物の周囲の敷地は、長期的に沈下することが考えられるが、それに耐えうる対策がなされているか?

図-5に示すように、盛土自重の影響範囲は建物自重よりも深いので、盛土自重によって沈下する可能性のある地層以外の地層に、建物荷重を伝達させる必要があります。

また、杭状地盤補強工法を採用する場合は、盛土自重による周辺地盤の沈下によって杭状補強体を下方に引っ張る力を考慮した設計を行う必要があります。

一方、建物の荷重を、盛土自重によって沈下しない地層で支えることで、建物の周辺地盤は沈下しても住宅は沈下しないという現象が生じます。

これによって、基礎と地盤間に隙間が生じる可能性があります。

この現象によって、例えば、地震力が作用した場合、基礎側面の地盤抵抗が全く期待できない状態となるなど、通常では考えにくい問題が発生します。

下水の配管の勾配が逆勾配になるなどの問題も起こり得ますので、この点にも配慮が必要です。

図-5 盛土自重による長期沈下が懸念される場所での建物の軟弱地盤対策

4.まとめ

 不同沈下が問題となる住宅では、新規盛土が関与する場合が多いことをお話しました。

 水田跡地に盛土してすぐに住宅を建てると、何らかの不具合が出るかもしれないことは、比較的簡単に予測できるのではないでしょうか?

では、なぜ、当たり前の判断ができないのでしょうか?

経済的な問題で目が曇ってしまっているのでしょうか?

当事者ではない、根拠の不明瞭な地盤保証会社の判定結果が「大丈夫」と言っているからでしょうか?

建築士が、「地盤保証会社が良いと言っているので、大丈夫でしょう」という場に何度か居合わせました。

それでよいのでしょうか?

建築士は、住宅建設におけるプロジェクトマネージャーです。

地盤保証会社が大丈夫とする根拠を確認し、その内容に納得したうえで、建築士として「大丈夫」と判断することを、強くお願いします。


神村真



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