• 地盤の専門家神村真による宅地防災の情報発信サイト

私は、16歳の頃から土木工学を学んでいるので、微動探査(常時微動計測)技術については、80年代からその存在を知っています。

90年代には、実際に実務で利用されている現状に触れる機会にも恵まれましたが、繊細で使い勝手が悪い印象を持っていました。

しかし、近年、住宅の地盤調査でも、微動探査を活用しようとする団体(一般社団法人地域微動探査協会)が立ち上がり、この技術の普及に乗り出しています。

振動計測の話題でも取り上げましたが、私自身、この協会の推薦する計測機を用いて、実際に地盤調査を行う機会に恵まれました。

結果として、この計測方法は、現在の住宅分野での地盤調査の生産性を飛躍的に向上させることができると感じました。

せっかくなので、今回は、スクリューウエイト貫入試験(以下、SWS試験と記します)と微動探査の違いについて書きたいと思います。

  1. 装置の違い
  2. 試験の違い
  3. 試験結果の取り扱いの違い
  4. さいごに

1.装置の違い

 SWS試験装置は、最もシンプルな装置は手動式のものですが、近年では全自動式のものが広く普及しています。

全自動式のSWS試験装置は、本体、制御ボックスと発電機で構成されています。

SWS試験では、試験方法上、スクリューポイントに1kN(100kgf)の荷重を与える必要があるので、装置の全重量は、必ず1kNを超えます。

軽自動車でも運搬可能な重さですが、手で持って運ぶには無理がある重さです。

本体にはゴムタイヤがついているので、計測対象地内を引きずって移動することが可能です。

一方、地域微動探査協会で推奨する計測機は、一辺15cm程度の立方体で、一つ一つは非常に軽く、片手で簡単に持ち運ぶことができます。

この軽量な計測機を4つ一組で使用します。

このほかに、計測機内に格納される計測結果を取り出すためのパソコンとWi-Fiルーターがあるだけです。

これだけの装置が、大きめのキャリーケースに格納できるので、遠方に調査に行く時でも公共交通機関を使って行けそうです。

(i)全自動式SWS試験装置の一例
(ii)地域微動探査協会の推奨計測機

図-1 計測機の外観の違い

2.試験の違い

SWS試験は、非常にシンプルな試験です。

スクリューポイントを地中に貫入させるときの抵抗を、スクリューポイントに与える荷重Wswと半回転数Nswで表しています。

このため、試験中に、スクリューポイントの貫入抵抗(WswNsw)と深度の関係を知ることができます。

このことは、簡易な地盤調査方法にとっては重要なポイントです。

一方、微動探査では、記録しているのは地表面での微小な振動です。

それだけでは地盤の状態を知ることができません。

4つの計測機から得られたデータを特殊な方法で解析して、地盤のせん断波速度の深度分布に変換しなければなりません。

また、せん断波速度に係数をかけることで、ようやく地盤の強さを表すN値を知ることができます。

残念ながら、私が使った計測機は、この原稿を書いている時点では、微動探査中に、地盤の強さの深度分布を確認することはできませんでした。

(i)SWS試験の結果
(ii)微動探査用の計測機(速度計)の記録(x、y、z方向の記録)

図-2 試験結果の違い

このように、微動探査は、SWS試験と違って、「現時点では」、その場で地盤の硬軟を知ることができないという点が課題ではあります。

しかし、実際に解析して結果を出しているので、現場で解析結果を確認できる日が来るのはそう遠くないでしょう。

なお、SWS試験と微動探査では、計測している地盤の特性が異なります。

SWS試験は、破壊後の地盤の強さを記録しているのに対して、微動探査では、破壊前の地盤の硬さに関する情報を取得しています。

微動探査で得られたせん断波速度VsN値との相関性に関しては古くから議論がされてきましたが、VsとSWS試験結果との相関性については、研究が始まったばかりというところです。

N値が分かれば地盤の設計は可能なのですが、これまでSWS試験結果による設計実績の積み上げがあるので、これを活かしていくためには、SWS試験結果と微動探査結果の比較は不可欠なことだと思います。

3.試験結果に含まれる誤差の違い

何度かブログで取り上げていますが、SWS試験は、適切な試験装置をセットし、適切な条件で試験を行うことが重要になります。

確保しなければならない試験条件は、以下に挙げるように様々です。

  • 試験中にロッドの鉛直性を確保すること
  • 地表面付近の砕石等は撤去しておくこと
  • スクリューポイントの直径が所定範囲にあること
  • 試験中に装置が回転しないように固定すること  等々…

しかし、そのような対応が適切に行われているか否かは、結果を見る者には判断がつきません。

過去のブログでも取り上げましたが、標準貫入試験(土の強さの指標であるN値を計測するための試験)は、監督者の有無によって結果が変わります。

SWS試験でも同様の傾向があると考えられます。

人間が関与する点が多ければ多いほど、このような誤差が生まれます。

地域微動探査協会が推奨する微動探査による地盤調査法では、4つの計測機を所定の位置に配置することと、その装置を水平に設置することのみが求められます。

しかも、解析に必要な計測データの取得に必要な時間は約15分です。

微動探査は、SWS試験結果に比べて、人的誤差の入り込む余地は極めて小さいと考えらえます。

4.さいごに

SWS試験の調査者は不足しているようです。

住宅の着工戸数が大幅に減少しない限り、調査者不足は解消しないと考えられます。

これは、SWS試験が重労働であることとも関係があるように思います。

全自動計測機の登場でSWS試験の労力は大幅に低下しましたが、貫入したロッドの撤去、オモリを含む計測機器の移動(SWS試験は敷地内で4~5か所実施します)、計測機器の搬入搬出等、未だに重労働が残っています。

一方、微動探査は、手で容易に持ち運ぶことができる4つの計測機を所定の配置に並べるだけです。

この計測機を4セットまたは5セット購入し、計測点に配置すれば、約20分で1宅地の計測を終了することが可能になります。

私が使った地域微動探査協会の推奨計測機は、まだ大量生産されていないので、高額だと思いますから、こんな贅沢な計測が可能かどうかは分かりません。

ただ、私は、微動探査技術が、住宅分野における地盤調査の生産性向上に一役買うことになると確信しました。

微動探査は、住宅の地盤調査分野では、その可能性が未知ではありますが、記憶にとどめて頂きたいと思います。


神村真



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