SWS試験結果があまりにも悪いと、「何を根拠に地盤補強方法を計画してよいか分からない」という声をしばしばもらいます。
確かに判断に悩む案件はありますが、SWS試験結果を上手に活用したり、追加で土質試験をしたりすることで、安全で経済的な地盤補強工法を選択することが可能になります。
今回は、とても軟弱な地盤(「ずぶずぶ」の地盤)で、杭状地盤補強工法を利用するためのSWS試験結果活用の一例を示したいと思います。
以前(下記ブログ記事)にも少し触れた方法ではありますが、今回は、地盤補強工法の設計の観点から示したいと思います。
私は主に関東地方のSWS試験結果を多く見てきましたが、中川荒川低地では、図-1(i)に示すようなデータにしばしば出会います。
この調査結果は、平成13年国土交通省告示第1113号に示される沈下検討の以下の基準に照らし合わせると、いずれの基準にも合致するので、建物自重によって生じる沈下が、建物に影響を及ぼさないことを確認しなければならない案件であることが分かります。
この場所で実施した標準貫入試験結果(ボーリング調査の一例。以下、SPTと呼びます)を見ると(図-1(ii))、16深度で確認されたN値のうち、8深度でのN値が0(ハンマー自沈)で、非常に軟弱な地盤が連続していることが分かります。
SPT結果から明らかですが、建物の重さを支えることができる明確な支持層は深度15mまで見当たりません。
こういう場合、どのような地盤補強工法を計画すればよいでしょう?
(i)SWS試験 (ii)SPT
図-1 中川荒川低地での地盤調査例
図-1(ii)に示した土質柱状図から、地下水位はGL-0.7mで、地下水位以深は全層飽和した粘性土だと考えられます。
空中写真や明治期の地図を見ると、明治期から水田ではなく屋敷として使われていたようです。
【利用したサイト】
・埼玉大学教育学部 谷 謙二(人文地理学研究室):時系列地形図閲覧サイト「今昔マップ on the web」
・国土地理院地:地理院地図 年代別の写真より
このことは、「当該地では、100年間ほど盛土がされておらず、地盤の自重のみが長年作用していたと考えられる」ので、粘性土の大部分は、正規圧密か軽い過圧密だと考えられます。
正規圧密粘土に荷重を作用させると圧密沈下が発生しますが、過圧密粘土では、過去に受けたことがある荷重までなら、荷重を作用させても圧密沈下は発生しません。
粘性土地盤が過去に受けたことのある圧力を圧密降伏応力$p_{c}$と呼びます。
若命ら(2004)は、圧密降伏応力が次式を用いれば、SWS試験結果から推定できることを示しています。
$p_{c}=1.2\cdot q_{u}=1.2\cdot\left( 45W_{sw}+0.75N_{sw}\right)$ (1)式
図-2に、(1)式で推定した$p_{c}$と地盤の自重(有効上載圧$\sigma _{v}’$)の深度分布を示します。
この図から、GL-3~-8.5m付近では、$p_{c}$が地盤の自重$\sigma _{v}’$よりも大きく、荷重を作用させる「余力」があることが分かります。
一方、GL-1.75~-2.75mやGL-8.5m以深では、$p_{c}$が地盤の自重$\sigma _{v}’$よりも小さくなっていますので、これらの地層に建物荷重が伝達されないように注意する必要があります。
これらの区間の土質を図-1(ii)で確認すると、GL-1~-3mまでは有機質土、GL-8.5m以深はN値がゼロの粘性土であることが分かります。
以上のことから、GL-3~-8.5mの区間を有効に利用すれば、建物を支持できる可能性があると考えられます。
もっとも、これらの検討は推定結果に基づいているので、GL-3~-8.5m区間で乱れの少ない試料を採取し、少なくとも一軸圧縮試験と圧密試験を実施することをお勧めします。
【参考文献】
若命善雄,工藤賢二:住宅の沈下要因と判定,建築技術, No.2, pp.126-131, 2004.
2.の結果から、GL-3~-8.5mであれば、ある程度荷重を負担できそうであることが分かりました。
このような限られた地層に建物荷重を負担させる場合は、補強体周面での抵抗力(摩擦力とも言います)を期待することが有効です。
補強体の本数や補強体の直径は、補強体先端部での有効上載圧に補強体先端に伝達される圧力を加えた値が、有効上載圧$p_{c}$を超えないように調整する必要があります。
柱状改良工法では、直径の大きい補強体を容易に作ることができるので、補強体一本当たりの周面抵抗力を大きくすることも、補強体先端部に伝達する圧力を小さくすることも可能です。
この点で、柱状改良工法は、「ずぶずぶ」の地盤で地盤補強を行う場合に好都合な工法と言えます。
しかし、こういう「ずぶずぶ」の地盤では腐植土や有機質土が堆積していることが多いので、セメント系固化材では所定強度が得られない場合があります。
このため、土試料を採取し、土質によっては配合試験を行うようにすることをお勧めします。
ちなみに、試料採取には、土壌汚染用の資料採取装置等が便利です。
なお、腐植土が確認された場合、その地層の変形強度特性が十分に把握できていて、大きな沈下が発生しないことを確認できる場合以外は、杭状補強体の支持力と基礎地盤の支持力の両方を考慮する地盤補強工法の採用は見送ってください。
また、補強体先端についても注意が必要です。
補強体先端部から地中に圧力が伝わる範囲は、補強体直径の1~2倍です。
また、補強体先端地盤として荷重を負担する範囲は、補強体先端部から上方・下方にそれぞれ補強体直径Dだけ離れた範囲です(図-3参照)。
【参照】過去記事 2020年9月21日
スウェーデン式サウンディング試験結果を「読む」ために押さえておきたいこと 内図-3
図-3 補強体先端部での必要層厚の模式図
このことから、補強体先端部地盤の層厚は、補強体直径の2~3倍とする必要があることが分かります。
図1で示したように深部に軟弱な地層がある地盤では、補強体先端から建物荷重が伝達される範囲内(補強体先端から下方に補強体直径の1~2倍の範囲)に、軟弱な地層が来ないようにしなければ、圧密沈下が生じることになります。
また、建物荷重を支持できそうな地層が、敷地内の全てのSWS試験結果から確認でき、敷地内に連続して分布していると考えられることも大切なことです。
この地層が不連続な場合、建物を安全に支持することはできません。
軟弱地盤でも、技術に基づいてその地盤の特性を評価することで、「建物荷重を安全に支持する方法」を決めることができます。
なお、今回は、建物荷重については細かく触れていませんが、実際に設計する場合は、常時作用する荷重だけを考えていてはいけません。
地震力も考慮した短期荷重についても、しっかり確認するようにしてください。
地盤改良会社にいたとき、「なんで、うちの見積もりはこんなに高いの」という営業担当者からのクレームがあり、競合先の設計内容を確認したことがあります。
この時、競合の設計検討書では、地震力が考慮されていませんでした。
今回取り上げたような地盤では、補強体の周辺地盤が非常に弱いので、地盤の水平抵抗力を確保できません。このため、地震力を考慮した検討を行うと、補強体の直径や設計基準強度を大きく取らなければならないと思います。
以上、「ずぶずぶ」の地盤でも、合理的に地盤補強仕様を決定することができる場合があることをご紹介しました。
このような方法は、推定値に基づいていますので、さらにリスク低減するためには、土質試験等の追加調査を行うことを、強くお勧めします。
神村 真