• 地盤の専門家神村真による宅地防災の情報発信サイト

日本では、建物荷重で沈下が発生する土地を「宅地」として販売可能です。

日本政府は、不同沈下リスクの高い土地を販売することは規制せず、不同沈下リスクを個人の資産で回避することを求めています。

土地の購入代金の中に地盤調査や地盤補強費用が含まれているのならよいのですが、おそらく、そのような値引きはされていないでしょう。

さらに、酷いのは、個人がお金を出して地盤補強までしたのに不同沈下が発生することです。

まったくひどい世の中です。

そんなわけで、今月は、建物荷重で沈下するような軟弱地盤の対策方法に関することを特集していきます。

今回は、「建物にとっての地盤の役割」について考えていきます。

  1. 法律で求められている地盤の役割
  2. 地盤調査方法によって果たせること/果たせないこと
  3. SWS試験で沈下リスクをどのように評価するか
  4. まとめ

1.法律で求められている地盤の役割

地盤に求められる役割は、建物の荷重を長期間に渡って支えることです。

このため、液状化や建物自重によって発生する地盤沈下は、避けるべき事柄とされています。

平成13年国土交通省告示1113号では、地盤がどの程度の建物荷重を支えることができるかを表す指標である「許容支持力度※」の算出方法を詳しく示しています。

【※注釈】告示では、「許容支持力度」ではなく、「許容応力度」という言葉が使われていますが、この文書を作った人は土質力学のことをあまり知らない人でしょう。私は、土質力学の専門家ですので、あえて「許容支持力度」と表記させて頂きます。

この告示では、地盤の支持力を求めるための地盤調査方法として6つの調査方法を示しています(下の記事を参照してください)。

それらの調査方法のうち、支持力の算出方法を明確に示したのは、標準貫入試験、静的貫入試験(SWS試験)、土質試験、平板載荷試験のみです。

なお、標準貫入試験は、ボーリング調査と併用される、日本で最もメジャーな地盤調査方法で、住宅等の小規模建築物以外の設計では、この調査方法を使用することが一般的です。

一方、SWS試験(スクリューウエイト貫入試験)は、住宅などの小規模建築物の設計で、最も一般的な地盤調査方法です。

さて、平成13年国交省告示1113号では、地盤の許容支持力度の計算式が書かれているのですが、沈下量の予測方法は、この告示どころか、建築基準法とその関連法規のどこにも記載がありません。

唯一、平成13年国交省告示1113号の中に、SWS試験結果で、以下の条件に当てはまる場合は、建物自重による沈下が建物に有害な影響を与えないことを確認しなければならないことが記されています。

  • 基礎底面から下方に2mの範囲に、Wswが1kN以下の地層がある。
  • 基礎底面から下方に2~5mの範囲に、Wswが0.5kN以下の地層がある。

支持力と沈下について確認しなければならないのに、法律の中で、支持力の計算方法だけ記載して、沈下の計算方法は記載しないというのは、なんとも不思議なお話だと思います。

また、沈下の検討が必要な要件が、SWS試験結果で表されていることも注目に値します。

このことから、国交省は、建物を支える地盤については、一般建築物の場合、標準貫入試験と土質試験で、小規模建築物の場合は、SWS試験で調査・設計することを前提にしていると考えることができます。

なお、平成12年建設省告示第1653号では、建物の傾斜に関する基準が示されています。

この告示では、「構造耐力上主要な部分に瑕疵が存する可能性」は、傾斜角が3/1,000以上6/1,000未満の場合、「一定程度存する」、傾斜角が6/1,000以上の場合、「高い」と判断できるとしています。

【参考資料】平成12年建設省告示第1653号「住宅紛争処理の参考となるべき技術的基準」https://www.mlit.go.jp/notice/noticedata/sgml/2000/26aa0995/26aa0995.html

なお、SWS試験結果だけから、地盤の沈下量を予測することは難しいことは以前にも述べました(以下の記事を参照ください)。

これらのことから、小規模建築物を設計する場合、以下の対応が求められていると考えられます。

  • SWS試験で支持力を計算する。
  • 沈下量の予測は難しいので、沈下する可能性がある条件を満足する場合、何らかの地盤補強をするか、土質試験等の別の試験を行う。

ちょっとお粗末な法律のように感じますが、平成12年に「住宅の品質確保の促進等に関する法律(住宅の品確法)」が施行され、新築住宅の瑕疵担保責任期間が10年間とされるまで、このような規定さえありませんでした。

このため、私は、平成12年(2000年)より前に建設された住宅では、不同沈下しているものが多いと考えています。

【補足】住宅の品確法施行後でも、「特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律(住宅瑕疵担保履行法)」が施行される2009年10月以前の住宅は、地盤調査の実施内容を確認するシステムが存在しなかったので、現実には、2000年までと2000年以降から2009年10月以前まででは、状況に大きな違いはなかったでしょう。

現在、住宅市場では、平成13年国交省告示1113号に示された内容に基づいて、SWS試験と地盤補強を行うことが広く浸透しているのですが、この現状に対して、「不要な地盤補強が存在する」と考える人もいます。

2.地盤調査方法によって果たせること

住宅分野で最も多く利用されている地盤調査方法であるSWS試験は、支持力の推定は可能ですが、沈下量の予測には不向きです。

また、2011年3月の東日本大震災でも露呈しましたが、SWS試験だけでは、液状化の危険度の予測もできないと考えておいた方が良いでしょう。

これらのことから、例えば以下のような「沈下の可能性が極めて低いことが明らかな地域」でも、SWS試験結果が沈下検討要件に抵触する場合、地盤補強を行わざるを得ないことになります。

  • 激しい地盤沈下を経験した地域
  • ローム層のような特殊な地盤

関東の事例になってしまって恐縮ですが、東京湾沿岸地域では、明治末期から、工場用水として地下水を多用したため、非常に激しい地盤沈下を経験しています。

その後、地下水の取水制限によって地下水位は回復しているのですが、地下水位低下による地盤沈下を経験した地盤では、木造二階建て住宅程度の重さであれば、沈下が生じない場合があります。

このため、取水規制以降に新規盛土がなされていないような地域では、建物荷重程度では沈下が発生する可能性は極めて低いと考えられます。

しかし、SWS試験のみでは、このような地盤の沈下特性の評価ができず、平成13年国交省告示1113号に示された沈下検討要件に照らし合わせて沈下の可能性を考えるしかありません。

関東地方のローム層等の特殊な地盤についても同様です。

いわゆる関東ローム層は、火山灰に由来する地層ですが、粒子同士の結合が強く、間隙が多いわりに地盤強度が大きく、住宅の建設には適した地盤です。

しかし、SWS試験を行うと、Wswが1kN以下となる層が現れることが多く、告示1113号に照らしわせると沈下の可能性がある地盤と判断せざるを得ない場合があります。

このようなケースでは、本来、沈下の可能性は極めて低いことが分かっていながら、地盤補強を行う必要が発生してきます。

なお、既に激しい地盤沈下を経験した地盤については、SWS試験結果から推定できる一軸圧縮強さと地盤の自重(有効上載圧)の関係を比較することで、その特性を評価できる可能性はありますが(この方法は3.で詳述します)、あくまで推定値で、土質試験によって詳細な地盤調査を行う必要があります。

一方、関東ローム層のような特徴的な地層は、土を見ることができればローム層であることを特定できます。

このため、資料調査でローム層が出現することが分かる場合は、SWS試験中に地中から土試料を採取し、ローム層であることを確認することで、SWS試験結果のみによらず、地盤の特性を判断することが可能です。

3.SWS試験で沈下リスクをどのように評価するか

先述したように、SWS試験結果を用いて「沈下量」を予測することは、困難ですが、地盤の強度特性をうまく利用すれば、その地盤が、過去に大きな地下水位の低下を経験しているかどうかを知ることができます。

その方法のお話の前に、この方法を理解するために必要な次の三つの専門用語を覚えて下さい。

  • 「圧密降伏応力」
  • 「正規圧密」
  • 「過圧密」

干拓地や埋立地を想像して頂けると分かりやすいと思いますが、「低地」に分類される地域の「地盤」の多くは、数百年~数千年ほど前から、土砂が堆積しはじめて、現在に至るものです。

埋立地は、海の中に作った囲いの中に土砂を投入し、数年で地面を作り上げますが、自然界では、もう少し時間を要します。

最初はヘドロのような状態だったものが、次第に自重によって締め固められ、地盤としての体裁を持つようになります。

このため、地下水位変動などの経験を受けたことのない粘性土地盤では、過去に受けたことのある最大圧力は、「自重」によるものになります。

この過去に受けたことがある最大圧力のことを「圧密降伏応力」と呼びます。

なお、自重が圧密降伏応力と一致する状態を「正規圧密状態」と呼びます。

正規圧密状態の粘性土に建物荷重等の外力を作用させると、激しく沈下します。

このような粘性土地盤で、地下水位のくみ上げによって地下水位が下がると、土に作用する浮力が減少するので自重が増加します。

この自重増加によって、地盤沈下が生じますが、これによって圧密降伏応力が、地下水位が低下する以前よりも増加します。

取水制限によって地下水位が回復すると、土の自重が減少するで、自重が圧密降伏応力よりも小さくなります。

この状態を「過圧密状態」と呼びます。

図-1 地盤のでき方と地中の状態変化

過圧密状態の粘性土は、圧密降伏応力を超える圧力を経験しているので、圧密降伏応力よりも小さい圧力に対して、大きな沈下が発生しません。

若命ら(2004)は、圧密降伏応力と粘性土の一軸圧縮強さの間には以下の関係があることを示しています。

pc=1.2・qu=1.2・(45Wsw+0.75Nsw)                 (1)

ここで、pc:圧密降伏応力、qu:一軸圧縮強さ、WswNsw:SWS試験結果です。

【参考文献1】若命善雄,工藤賢二:住宅の沈下要因と判定,建築技術, No.2, pp.126-131, 2004.

【参考文献2】志村晃一,安達俊夫,田村昌仁,古澤悟,小林精二,黒柳信之:戸建て住宅の基礎を対象とした沈下の検討方法に関する研究(その1 圧密沈下の予測方法と沈下障害事例),第39回地盤工学会研究発表会,pp.1365-1366,2004.

式(1)を使えば、SWS試験結果から圧密降伏応力を推定することができます。

一方、自重は、土質毎に単位体積重量がある程度決まっているので、次式によって推定します。

地下水位以浅:σvtz          (2-1)

地下水位以深:σv’=σv+γ’・(zz0)      (2-2)

ここで、σv:地下水位以浅の土の自重、σv’:地下水位以深の土の自重、γt:地下水位以浅での地盤の単位体積重量、z:地表面からの深度、γ’:地下水位以深の地盤の自重(浮力を考慮)、z0:地表面から地下水位までの深度です。

なお、γtの目安は、日本建築学会の以下の資料等を参照してください。

【参考資料】日本建築学会:小規模建築物基礎設計指針,表5.4.3,p.77,2008.

これらの式から、地盤の自重と圧密降伏応力の関係を整理すると、図-2を得ることができます。

図-2 地盤の自重と圧密降伏応力の関係

地盤の自重による地中内の増加応力を、ブーシネスク式によって計算し、これを地盤の自重に加えれば、建物建設後の地盤内の発生応力を求めることができるので、この値と圧密降伏応力の関係を調べれば、「正規圧密」の地層の有無を知ることができます。

建物荷重を考慮する前に「正規圧密状態」の区間では、建物荷重によって大きな沈下が生じる可能性がありますし、建物荷重を考慮した時「正規圧密状態」の区間は、将来の荷重変化(近隣に盛土や建物が建設される、地震力を受ける等)によって沈下が発生する可能性があると判断できます。

なお、この方法の使用に当たっては、SWS試験結果が適切に計測されていることが前提になります。

例えば、腐植土層や極軟弱な粘性土層では、SWS試験中に孔壁が崩壊してロッド周面が地盤と接触し、Nswを過大評価する場合がありますが、このような地層では、圧密降伏応力は自重よりも大きいものの、常に両者が並行する傾向を示すことがあります。

これでは、正規圧密状態か過圧密状態かを評価することは困難になります。

このように、この方法は、いつでもどこでも適用できる方法ではありませんが、沈下の可能性が高い地層があることを知るキッカケになるので、調査結果の評価手法として重宝するはずです。

4.まとめ

地盤は、建物を支える重要な「部材」です。

この地盤の調査精度に起因して不同沈下が発生しているのですが、住宅業界から、地盤調査の精度を上げるために、「地盤調査をより詳細に行おう」という声は上がってきません。

住宅は、個人資産によって建設されるので、予算の制約が厳しく、目に見えない地盤に掛ける予算はできるだけ小さく抑える傾向があるように感じます。

私が自宅を建設した際は、十分な知識がなく、「こんなものかな」と思っていましたが、この業界で15年過ごすと、「次に家を建てる機会があれば。地盤調査はしっかりやろう」と思うようになりました。

最初にお話ししたように、日本では不同沈下する可能性のある土地を「宅地」として販売しています。

このような土地に高性能の家を建てるなら、地盤調査にもこだわりたいものです。

神村真



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