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これまでも、セメント系固化材を用いた地盤補強方法(表層改良工法や柱状改良工法)の施工管理に関する記事は何度か書いてきました。

柱状改良工法は、住宅分野では最もメジャーな地盤補強方法だと言えますが、住宅分野でのこの地盤補強方法の扱われ方は、「雑」に思えます。

セメント系固化材と土を攪拌混合して土を固めるという単純な作業ですが、数10年の供用期間(今の高性能住宅なら100年超えかな?)を持つ住宅を支えるためには、十二分の施工管理と品質管理が必要です。

ところが、住宅分野で築造される改良体の品質は、一般建築物と同等には扱われていません。

このため、私は、表層改良工法や柱状改良工法を採用する場合は、第三者機関で技術審査を受けた工法の利用を強くお勧めします。

今回は、セメントを用いる地盤補強方法の取り扱い上の留意点について考えていきたいと思います。

  1. セメントで固化処理された土の基準強度
  2. 品質確保のための施工管理の留意点
  3. 品質管理方法の課題
  4. まとめ

この記事の内容の一部は、動画でも解説していますので、そちらもご覧ください。

1.セメントで固化処理された土の基準強度

建築基準法では、鋼材や木材、コンクリートの基準強度や地盤の支持力の算出方法が決められていますが、セメントで固化処理された地盤についての記載はありません。

住宅分野では、柱状改良工法や表層改良工法で、土をセメント(またはセメント系固化材)で固化処理しますが、固化処理した土の基準強度の設定方法は、以下の書籍に基づくことが一般的です。

【参考図書】 一般財団法人日本建築センター、一般財団法人ベターリビング:2018年度版 建築物のための改良地盤の設計及び品質管理指針―セメント系固化材を用いた深層・浅層混合処理工法―

この図書では、セメントで固化処理された地盤の基準強度(設計基準強度Fc)は、図-1のように定義されています。

図-1 現場強度と室内強度の分布

ここでは、試験室で作った固化処理土も、現場で固化処理された土も、その強度(一軸圧縮強さ)は正規分布することを前提としています。

正規分布する現象は、平均値を超える確率は必ず50%になる等、現象の発生確率を確認することが可能です。

注意が必要なのは、現地で固化処理された土の強度(現場強度)分布と、試験室で作った固化処理土の強度(室内強度)分布が一致しないということです。

室内強度の平均値は、現場強度の平均値を必ず上回ります。

室内強度の平均値をqul、現場強度の平均値をqufとすると、qulに対するqufを現場室内強度比αflと呼びます。

先述の参考図書には、αfl は、粘性土で0.48、砂質土で0.54であることが示されていて、「現場強度の平均値が、室内強度の平均値の半分程度しかない」ことが分かります。

【参考資料】 一般財団法人日本建築センター、一般財団法人ベターリビング:2018年度版 建築物のための改良地盤の設計及び品質管理指針―セメント系固化材を用いた深層・浅層混合処理工法―,表4.1.4、表4.1.5, p.38, 2018.

改良土の設計基準強度は、90%の確率で合格となるように、次式で算出されます。

Fc=(1-mVquf)・quf                  式(1)                 

ここで、Fc:設計基準強度、m:係数(m=1.3)、Vquf:現場強度の変動係数、quf:現場強度の平均値である。

現場強度の変動係数 Vquf は、未確認の場合Vquf=0.45と設定することが推奨されていますので、この場合、設計基準強度は、現場強度の0.415倍になります。

つまり、 現場強度は室内強度の約1/2なので、 設計基準強度は、室内強度の20%程度しかないのです。

この数字は、地盤材料と固化材を攪拌混合することの難しさを良く表しています。

なお、品質管理用の強度(合格判定値)は、抜き取り箇所数によって補正されるので、設計基準強度よりも大きな値になります。

2.品質確保のための施工管理の留意点

第三者機関で技術審査を受けた地盤改良工法では、多くの現場試験に基づき、現場強度の変動係数Vqufを0.25~0.35程度に設定できる施工設備(掘削攪拌装置)と施工管理基準を確立しています。

私は、セメントを用いた地盤改良工法の技術審査に何度も関わっていますが、安定した品質の改良体を作ることは本当に大変です。

ここでは、乾式の表層改良工法と湿式の柱状改良工法での施工管理のポイントについて考えていきます。

【補足】乾式とは、固化材を粉体のまま使用すること、湿式とは、固化材を水に溶かして水溶液として使用することを意味します。

(1)表層改良

固化材と地盤材料の攪拌混合

表層改良の場合、所定の範囲を掘削した地盤材料(土)と所定量の固化材を攪拌混合します。この時、固化材がむらなく土と混ざるようにします。

転圧締固め

固化材と混合された土を、掘削部に戻しますが、撒き出し層厚は30㎝程度とし、1層ごとに丁寧に転圧を行います。

水分管理

セメントが硬化するためには水が不可欠です。水分が少ない土の場合、施工後に散水するなどして加水します。ただし水分量が多いと強度低下することになるので、適切な水分量を、事前に室内配合試験で確認しておきましょう。

(2)柱状改良

掘削攪拌装置

先端部に掘削翼、その上部に攪拌翼(通常2段以上)を配置したもので、共回り防止翼を有することを必須条件とします。形状は、後出の図-3を参照してください。

固化材スラリーの比重

セメント系固化材と水を混ぜたものを固化材スラリーと呼びます。

必要な固化材添加量と水の量は、本来、現地で採取した改良対象地層の土を使って実施した室内配合試験結果から決定すべきですが、住宅分野では、経験的に固化材添加量と水の量を決めます。

適当に決めた添加量ではありますが、それさえ遵守されない場合があります(施工性を上げるために水の量を増やすという対応が、安易に取られることがあります)

所定濃度よりも加水された固化材スラリーを、当初計画流量入れても計画通りの改良体を築造することはできません。

固化材スラリーの比重は定期的に計測し、所定の濃度の固化材スラリーが使用されていることを確認する必要があります。

写真-1は、固化材スラリーの比重(密度)を計測するための道具です。

黒い蓋のついた容器の重さを計測する天秤棒です。

写真-1 固化材スラリーの比重計測機の一例

【補足】固化材スラリーの比重(密度)計測機は、写真-1の黒色の蓋がついた容器にスラリーを満たし、天秤が釣り合うように、オモリをスライドさせます。天秤棒にはスラリーの比重が目盛られています。写真では、容器にスラリーを満たした直後なので、蓋や容器にスラリーが付着していますが、計測時にはこれらをふき取り、計測を行います。

固化材と地盤材料の攪拌混合

柱状改良体の構築のための施工工程は、図-2に示すように、大きく2種類あります。

また、攪拌回数についても、一般的な数値が出されています。

例えば、NPO住宅地盤品質協会の「住宅地盤の調査・施工に関わる技術基準書」では、直径600mmの改良体の場合、「羽根切り回数」は1m当たり300回/m以上と定められています。

「羽根切り回数」は、掘削攪拌装置の「1m当たりの回転数」に攪拌翼数をかけた値です。

施工後に、羽根切り回数を確認するために、改良体1本での累計回転数を改良体長さで割り算している例を見ることがありますが、これでは、施工管理の意味が全くありません。

改良体は「むらなく」築造する必要があるので、深度1m毎に羽切回数を確認する必要があります。例えば、施工管理基準で羽根切り回数が300回/mと定められていた場合、深度2~3mでの貫入工程での羽根切り回数が100回/mなら、同じ深度区間の引上げ工程での羽根切り回数は200回/m以上にする必要があります。

図-2 施工工程

固化材スラリーの注入量と注入のタイミング

一般的な掘削攪拌装置の模式図を、図-3に示します。

固化材スラリーは先端部から吐出されます。この形状の場合、掘削攪拌翼を引き上げているときに固化材スラリーを吐出すると、この工程では、土とスラリーが、全く攪拌されません。

このため、この区間の羽切回数をカウントすると、無効な羽切回数をカウントしていることになります。

図-3 掘削攪拌翼の模式図

私が経験した固化不良現場では、掘削攪拌翼の引上げ工程で固化材スラリーを注入していて、かつ、この工程での羽根切り回数を攪拌回数としてカウントしていた事案が複数ありました。

固化が難しい土質で、このような施工を行った場合、高い確率で固化不良が発生することになります。

3.品質管理方法の課題

 表層改良でも柱状改良でも、住宅のような小規模建築物を対象とした工事を行った場合、品質管理方法が簡略化できることになっています。

一般建築物の場合、築造した改良体から全長コアボーリングによってサンプルを抜取り、以下の品質確認試験を行う必要があります。

  • 改良体全長におけるコアの採取率の確認
  • 改良対象層から抜き取ったコア1mから切り出した3個以上の供試体を用いた強度確認

改良体の強度の合格判定値は、コアの抜取り箇所数によって設計基準強度を割りました値が使われます。

写真-2は、改良体から採取した全長コアの一部です。

柱状改良体から採取した全長コア
写真-2 築造した改良体から採取した全長コアの一例

一方、小規模建築物の場合、品質管理方法が大幅に緩和され、改良体頭部や深部から取り出した改良土を、モールド(型枠)に詰めて作った供試体で強度確認をすることとされています。

また、最低強度が設計基準強度以上であれば合格とされます。

写真-3 現場でモールドに詰められた改良土の一例
(モールド寸法:直径50mm、高さ100mm)

さて、建築物の規模の変化によって、これだけ品質管理を緩和できる理由は何でしょうか?

「住宅の建設では、このようなことに予算を掛けられないだろうから、施工管理も品質管理もそこそこでよい」と言われているようで、私は腹が立ちます。

以下の記事でも記載しましたが、柱状改良体に要求される品質は、建築物によらず同じです。

建築物の規模によって品質管理方法が変化するのは、事業者の都合であって、消費者にとって有益なものではありません。

柱状改良工法は安価に地盤補強ができると言われますが、以上のように本来行うべき品質管理を行っていないので安いのです。

設計監理者には、柱状改良工法を使用する場合、適切な検査方法を行うか、モールドコアによる簡易な検査方法でも、品質検査が可能であることを実証している工法を利用することをお勧めします(第三者機関で技術審査を受けた工法の多くは、この点を検証済みです)。

4.まとめ

セメントを用いた地盤補強方法の留意点については、今までにも何度か記事にしています。

この地盤補強方法は、施工管理や品質管理について多くの問題を抱えていますが、常に価格競争にさらされている地盤改良業者にはどうすることもできない問題であるとも言えます。

このような現状を打破するためには、工務店(発注者)側が、改良体の要求品質、施工管理方法、品質管理方法を定義し、工事会社にそれを徹底させるという形を作りだすことが必要です。

このような管理体制を構築しないと、いつまで経っても、地盤補強工事は、価格優先主義を脱却することができません。

価格優先主義のもとで築造された改良体は、今後、多くの問題を生み出すことでしょう。

神村真



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