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2014年8月20日に広島市で大規模な豪雨災害が発生しました。多くの命と市民の財産が失われました。大規模な土石流による被害状況をTV等で目にして記憶している方も多いと思います。

今回は、この豪雨災害を見直し、土石流が発生する地形と雨について振り返ることで、土石流によって被害を受けるリスクを軽減する方法について考えたいと思います。

  1. どんな地形だったのか?
  2. どんな雨だったのか?
  3. 回避の方法
  4. まとめ

この記事の一部は、動画でも解説していますので、そちらもご覧ください。

1.どんな地形だったのか?

2014年8月20日に広島市で発生した豪雨災害の被災地の分布図を図-1に示します。

山の中を縫うような形状の被災地がいくつも確認できますが、これらは、土砂崩れやそれに関連して発生した土石流の跡でもあります。

図-1 豪雨災害被災地( 平成 26 年 8 月 20 日の豪雨災害 避難対策等に係る検証結果 から抜粋)

土砂崩れは、ある傾斜角を持った斜面が、雨水を多く含むことで崩壊する現象です。山中で崩壊が起こる斜面は、谷を構成する斜面なので、谷底には沢筋が存在します。

土砂崩れで沢筋はせき止められた状態は、自然にダムができたようなものです。豪雨の真っ最中には、上流から大量の土砂が運ばれてくるので、自然のダムは大量の土砂を留めることになります。

ダムと言っても、偶然、土砂崩れでできたものです。流れてきた大量の土砂を留めきれるわけがありませんので、やがて決壊します。

谷筋の幅や深さにも関係しますが、「ダム」によってせき止められていた大量の土砂や倒木、巨岩が一気に下流に流れていきます。勢いのある流れは谷の出口から噴き出すように流れ出します。これを「土石流」と呼びます。

土石流が堆積してできた地形が「扇状地」です。「扇状地」は水はけが比較的よく、稲作には不向きです。かつては桑畑や果樹園として利用されることが多かったようですが、近年では宅地として開発されています。

安佐北区から安佐南区付近の扇状地も宅地として開発されていましたが、図-2に示す治水地形分類図からも分かるように、土砂災害の被災地の多くは、扇状地や山麓堆積地形と一致しています。

このことから、この地域は、「土石流という災害が繰返し発生することで出来上がった地形」であることが分かります。

図-2 周囲の地形(地理院地図、治水地形分類図)

【参考資料】8.20 豪雨災害における避難対策等検証部会:平成 26 年 8 月 20 日の豪雨災害 避難対策等に係る検証結果,平成 27 年 1 月 https://www.city.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/54883.pdf

2.どんな雨だったのか?

図-3に、安佐南区と安佐北区での当日の降水量の推移を示します。両地区ともに、午前3時から1時間に80mmを超える「猛烈な雨」が降ったことが分かります。午前2時から4時の2時間で、安佐北区では約170mm、安佐北区では、約200mmの雨が降ったことが分かります。

広島市の広島地方気象台(広島市中央区)で記録されている1879年から2020年までの8月の平均降水量は114mmです。

この日、この地域では、8月に降る全ての雨よりも多くの雨が、わずか2時間で降ったのです。また、両地区で、1日の累計降水量は約300mmです。

図-3 災害発生日の降水量データ
( 平成 26 年 8 月 20 日の豪雨災害 避難対策等に係る検証結果 から抜粋)

図-4には、広島地方気象台での8月累計降水量の記録です。この記録から8月に300mmを超える累計降水量が記録されたのは、約140年の間で「6回」のみです。2014年8月20日には、1日に約300mmの雨が降っており、この日の雨の異常さが、ここからも分かります。

図-4 広島市での8月の月間降水量の推移

3.回避の方法

図-5は、山口県防府市の5地域で、扇状地の堆積物を調査し、土石流堆積物の堆積年代を調べることで作成した「土石流の年表」です。確認されただけでも7世紀頃から、繰返し土石流が発生していることが分かります。

このことは、1.で示した内容と合致します。

図-5 山口県防府市での土石流発生地域での土石流の履歴(鈴木ら,2015,著者一部加筆)

沢筋には、砂防ダムが建設されて、土石流の発生を防止している箇所も多くありますが、土石流発生時には砂防ダムそのものが崩壊してしまった事例もあります。

砂防ダムには、毎年多くの土砂が捕捉されるので、土砂の受け入れ可能な容量は常に100%ではありませんし、施設そのものが老朽化することもあります。このため、砂防ダムも常に威力を発揮できるとは限りません。

このことから、扇状地、特に、扇状地中の河川近傍に住むのであれば、土石流の発生を覚悟して生活をする必要があります。

既に扇状地内に居住している方は、(既に実行されていると思いますが)「早めの避難」は命を守る大切な行為です。特に、気候変動の影響で豪雨が発生しやすくなっています。過去の実績にとらわれず迅速な行動を心掛けて下さい。

また、扇状地内に新たに住宅を建設される方は、「住宅が土石流によって全壊する可能性がある」ことを想定して資金計画を立ておくことをお勧めします。

【参考文献】鈴木素之,阪口和之,猪原京子:山口県防府市における土石流の特徴と土砂災害発生年表,地盤工学会中国支部論文報告集,地盤と建設,pp.105-113, Vol.33, No.1, 2015.

4.まとめ

6月は、河川氾濫、内水氾濫、土砂崩れ、土石流と水害リスクを取り上げてきました。

水は、おおよその通り道が分かっています。その通り道を避けることで、洪水や内水氾濫のリスクを回避できます。土砂崩れも、崩壊する危険性のある斜面を避けることで回避可能です。土石流は扇状地を避ければ、そのリスクを回避できます。

残念なことに、日本では、災害リスクの高い地域が宅地として開発され、販売され続けています。この傾向は当面変わらないでしょう。

消費者は、「販売されている宅地は安全だ」「そんな危険な土地を販売できるわけがない」等と根拠のない言い訳をする前に、購入する宅地のリスクをしっかり理解し、自分の資産の中でそのリスクを受容可能であるかについて、よく検討してください。

また、建築士は、リスクの高い宅地を購入してしまった消費者に対して、リスクについて解説し、建築物による対応方法を丁寧に説明してください。建築士は、「消費者が災害で命や財産を失うことを避けるための最後の砦」です。どうか、よろしくお願い致します。

神村真



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