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住宅建設の第一歩として行う地盤調査の中で最もポピュラーなものは、スクリューウエイト貫入試験(SWS試験)です。この試験は、平成13年(2001年)に出された国交省告示第1113号に、SWS試験結果による支持力の計算式と沈下の検討の要否判定の目安が示されたことで、爆発的に普及しました。

地盤の支持力や沈下の可能性を、とても簡単に知ることができる試験方法ではありますが、様々な問題も抱えています。

7月のブログでは、住宅の設計と地盤調査結果の関係や、調査結果の利用にまつわる課題に注目していく予定ですが、今回のブログでは、SWS試験結果の利用に関する課題の概要を見ていきたいと思います。

  1. 法律からみた地盤調査
  2. 支持力算定式とその課題
  3. 沈下量の計算と課題
  4. まとめ

この記事の内容の一部は、以下の動画でも解説しています。

1.法律からみた地盤調査

建築士でもない私が、建築に関わるためには、関連する法規を独自に勉強する必要があります。以下は、私が勉強した内容を列挙しているので、間違っていたら指摘してください。

建築基準法では、基礎の構造については「建築基準法施行令第38条第3項」に記載があって、「建築物の基礎は、建築物に作用する荷重及び外力を安全に地盤に伝え、かつ、地盤の沈下又は変形に対して構造耐力上安全なものとしなければならない」とされています。

「建築物の基礎の構造は、国土交通大臣が定めた構造方法」を用いなければならないとされていて、そのための技術基準として、平成12年建設省告示第1347号があり、この告示の第1に、地盤の長期許容支持力度によって採用可能な基礎形式が定められています(表-1参照)。

また、第2には、基礎は構造計算することと、「自重による沈下その他地盤の変形を考慮して建築物または建築物の部分に有害な損傷、変形及び沈下が生じないことを確かめること」と書かれています。

つまり、基礎を設計するにあたって、以下の3項目について、検討する必要があるということです。

  • 支持力
  • 沈下
  • 液状化等(支持力低下や沈下の発生が伴う現象に対する検討)

支持力の計算方法やスクリューウエイト貫入試験を使用する場合の沈下検討の要件などは、「地盤と基礎」のことを取りまとめた「建築基準法施行令第93条」に基づく平成13年国交省告示第1113号に記載があります。

しかし、建物自重による沈下量や液状化による地盤の沈下量の予測方法は、どこにも示されていません。

「確かめること」を求めながら、「確かめる方法を示さない」ということは、「沈下量の計算方法くらい建築士なら、わかるでしょ。土質力学の基礎でしょ」という意味だと思います。

「だったら、支持力の計算方法も書く必要ないのではないか?」と思ってしまいませんか?しかし、建築基準法には、単純バリの断面応力の算出方法やたわみ量の計算方法は書かれていないでよね。やっぱり、一般的な技術的内容なので、「自分で考えてね」と言うことなのでしょう。

許容応力度については、「他の材料同様に数値を示したいけど、土の場合、それは難しいから、数式を示しておくね」ということなのでしょう。これは、法律を作った人のやさしさではないかと思います。だって、土質力学の世界では、「許容応力度」なんて表現使わないですから、誰かが特別に扱ってくれたのでしょう。

2.支持力算定式とその課題

地盤の支持力度の計算方法は、平成13年国交省告示第1113号に記載があることは先に述べました。

この文書では、スクリューウエイト貫入試験(SWS試験と記述します)を用いる場合、以下の式を使って支持力を計算することとしています。

qa=30+0.6Nsw                                                  式(1)

ここで、qaは地盤の長期許容支持力度、Nswは基礎底面から下方に2mの範囲でのSWS試験結果の平均値です。

この式には、不思議な点が一つあります。SWS試験は、WswNswの二つの数値が得られます。しかし、Wswが1未満の時、Nswは計測されません。つまり、Wswが1未満の場合、地盤の長期許容支持力度を計算することができないのです。

これでは、大変に不便なので、日本建築学会では、告示1113号に示された標準貫入試験結果を用いた支持力計算式をうまく利用すれば、式(2)のように支持力式を書き換えることが可能であるとしました。

qa=30Wsw+0.64Nsw                                           式(2)

ここで、qaは地盤の長期許容支持力度、Wswは基礎底面から下方に2mの範囲でのSWS試験結果の平均値です。

さて、式(1)は、図1に示すように、平板載荷試験結果との関係から定められたことは明らかですが、Wswが1kN未満の地盤での実験結果は示されていません。つまり、式(2)は、数式として誘導されたもので、その妥当性は明らかになっていないのです。もちろん、日本建築学会の小規模建築基礎設計指針には Wswが1未満の区間でのqaを示した図が示されていますが、そのプロット数は少なく、図-1のような安全性の高さを示すものではありません。

私が関与した地盤補強工法の開発段階で比較のために実施した地盤を対象とした載荷試験では、式(2)は多くの場合、試験結果を安全側に評価することが分かっていますが、Nswによっては、式(2)が支持力を過大評価する場合があることも確認されています。

図-1  SWS試験結果Nswと平板載荷試験結果qaの関係 qaとNswの関係

【参考文献】田村昌仁,枝広茂樹,渡部英二,吉田正,秦樹一郎:戸建住宅を対象としたスウェーデン式サウンディングによる地盤評価の考え方,土と基礎, Vol.50, No.11, pp.15-17, 2002.

なお、式(1)は、直径30cmの円板を用いた載荷試験結果に基づくものです。支持力計算に用いるSWS試験結果は、基礎底面から下方に2mの範囲を対象としていますが、載荷板直径が30cmの場合、支持力に影響を及ぼすのは、載荷板底面から、高々60cm程度までです。このため、基礎底面から下方に2mの範囲で、SWS試験結果に大きな変化がある場合は、式(1)、(2)の取り扱いには注意が必要です。

3.沈下量の計算と課題

平成12年建設省告示第1347号では、べた基礎を採用できる条件として、地盤の長期許容支持力度が20kN/m2以上30kN/m2未満であることを挙げています。

また、平成13年国交省告示第1113号では、基礎底面から下方に2mの範囲にWswが1kN以下の地層がある場合と基礎底面から下方に2mから5mの範囲にWswが0.5kN以下の地層がある場合には、建物荷重による地盤の沈下が建物に悪影響を及ぼさないことを検討する必要があるとしています(図-2参照)。


図-2  沈下の影響検討の要否条件

「ちょっと待てよ」と思いませんか?

式(1)、(2)から、長期許容支持力度が20~30kN/m2となるのは、基礎底面から下方に2mの範囲の平均Wswが1kN以下の場合です。

つまりべた基礎を採用する場合は、沈下の影響検討を行う必要があるということです。あるいは、沈下の影響検討を行わないで、地盤補強を行うことを選択することになります。

後者の場合で杭状地盤補強を利用するなら、杭状補強体が建物を支持するので、べた基礎である必要はなくなります。

この場合、スラブが不要になるので、基礎建設コストを多少抑えることができるかもしれません。

杭状補強体と地盤の両方が支持力を分担する「複合地盤補強」の場合は、べた基礎を採用した方が、地盤の支持力を有効に活用できます。

【関連ブログ記事】

さて、小規模建築基礎構造設計指針には沈下量の予測式が二つ書かれています。

式(3)
式(4)

ここで、各定数は、それぞれ次の通りです。S:圧密沈下量(m)、Cc:圧縮指数、H:圧密対象層厚(m)、e0:初期間隙比、Δσ:地中応力増分(kN/m2)、Pc:圧密降伏応力(kN/m2)、mv:体積圧縮係数(m2/kN)。

この数式、初期応力状態が過圧密であることが前提であることにお気づきでしょうか?

式(3)をよく見ると、圧密降伏応力Pcからの地中内応力増分Δσに対する沈下量を計算する式になっていて、建物荷重作用前の初期応力から圧密降伏応力までの沈下量は無視されているのです(変数の説明の中で、正規圧密の場合、Pcを有効上載圧σに書き換えることが書かれてはいます)。

また、式(4)で用いられている体積圧縮係数mvは、過圧密領域でなければ、応力レベルによる変動が激しく推定式とし利用できないことが一般に知られています(参考文献参照)。小規模建築物基礎設計指針では、この点を考慮して応力レベルを考慮したmvの推定式も掲載されています。

式(5)

ここで、各定数は次の通りです。mv:体積圧縮係数(m2/kN)、wn:自然含水比(%)、A:係数、σ0:有効上載圧(kN/m2)、Δσ:地中内応力増分(kN/m2)。

【参考文献】西田一彦,田村昌仁,安川郁夫,中山義久,井上啓司:表層地盤の沈下予測のための圧密常数の評価(小規模建築物基礎の沈下予測のために),第39回地盤工学会研究発表会概要集,pp.893-894, 2004.

それでは、あなたが取り扱う地盤が、過圧密であるか正規圧密であるかをどのように確認すればよいのでしょう?

SWS試験結果から圧密降伏応力Pcを求める提案式は存在しますし、有効上載圧σは、SWS試験結果から地層構成と地下水位を仮定することで推定することは可能です。

しかし、実際にこの方法を使用すると、SWS試験に含まれる誤差の影響や推定地下水位の曖昧さ等により、容易に正規圧密域を特定できないことに気づくはずです(以下の記事参照)。

べた基礎を採用することを想定しているなら、ボーリング調査や土質試験等の詳細地盤調査費用を事前に見積もっておき、SWS試験結果から、qaが20~30kN/m2程度の地盤であることが分かったら、詳細地盤調査を行い、べた基礎の採用可否判定を行うか、SWS試験結果に基づき地盤補強の検討を行うかを、建築士が技術者として判断することをお勧めします。

ちなみに、新規盛土がある場合は、盛土自重によって地盤が正規圧密状態になっている可能性が高く、沈下量の影響検討を行うことなく、べた基礎を採用できる可能性は極めて低いと考えられます。

4.まとめ

さて、「SWS試験だけで何とかなっているんだから、いいじゃない」と思われましたか?

それは、老化の始まりか、建築士であるあなたが、「SWS試験だけでなんとかなる」と思い込まされているため、かもしれませんね。

熊本地震で建築基準法にしっかり従って作られた築10年程度の住宅が倒壊しました。この事実から、建築基準法で定めらた基準では、「震度7が2度来ると住宅が倒壊する」という、設計概念上「当然のこと」を実感した建築士は多いのではないでしょうか?

その事実に基づいて「常識」を「更新」した方は、「良心」を持った「倫理感」に富んだ建築士法が謳う本物の建築士です。

技術基準はこのように専門家の「理解度の深化」に伴って更新されていきます。

「構造計算」や「気密・断熱」の必要性への理解は、現在では、消費者にまで広がっています。

残念ながら、住宅分野では、「地盤の性能を正しく評価すること」に対する理解度は表層部分に留まったまま止まっています。

SWS試験による地盤調査を実施することが「常識」になってからまだ20年なので、やむを得ないかもしれませんし、熊本地震のようなインパクトのある現象は起こらないので、常識を「更新」するためには、まだまだ時間を要するのかもしれません。

しかし、その時間経過は、「建築物としての基本性能を有さないかもしれない住宅」を増やすことになります。

兵庫県南部地震や熊本地震での事実をきっかけに、「常識」を「更新」した建築士は大勢おられると思います。

日本の住宅をストック化するためには、「構造計算」や「気密・断熱」の大前提である、「基礎の安定性」に対する信頼度を高めることです。「基礎の安定性」の支配因子は「上部構造」と「地盤」です。

是非、「見えないものを見る目」を養ってください。

神村



コメント一覧

返信2021年10月10日 10:16 AM

ホ ジェンボ26/

神村先生、一つ伺いたいことがありまして、太陽光発電架台設置する時のスクリュウー杭の底面はどこにありますか?SWS試験自沈層を判断する時に、杭の先端から2mの距離で見てもよろしいですか?

    返信2021年10月17日 7:59 AM

    神村真25/

    ホ ジェンボ様  回答が遅くなってしまって申し訳ありません。  大変申し訳ありませんが、ご質問の内容を理解できません。日本語が難しいようでしたら英語で質問頂いても大丈夫です。  ご質問の趣旨は、太陽光発電の架台用の簡易な杭基礎として、「スクリュー杭」を利用していて、「その杭の長さをどのように判断すればよいのか?」ということでしょうか?

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