• 地盤の専門家神村真による宅地防災の情報発信サイト

時は21世紀です。子供のころ、自分が大人になったら車は空を飛んでいるかもしれないと考えていました。しかし、車が空を飛ぶどころか、新築住宅が1万棟に約5棟の頻度で不同沈下しているようです。

スマートフォンが普及して手に入る情報は激増していますが、良質な住宅を手に入れるのは、まだまだ難しいようです。

今回は、不同沈下の原因となる地盤の沈下の原因について考えていきます。

  1. 即時沈下
  2. 圧密沈下
  3. 地盤補強の不良
  4. まとめ

この記事の内容の一部は、以下の動画でも解説しています。

1.即時沈下

不同沈下の原因は、建物荷重などによる地盤の沈下ですが、この沈下には大きく二種類の沈下があることをご存じでしょうか?ここでは、まずは、即時沈下のお話をしていきます。

即時沈下とは、文字の通りで、荷重の作用に対して即座に沈下が生じることを意味します。

図⁻1に、基礎底面以深の地盤の変形の模式図を示します。

図⁻1 極限支持力発揮時の破壊線の模式図と地盤変形の模式図

地表面に荷重が作用すると、図⁻1に示すように土が移動を始めます。土が移動するためには、まず、土粒子の間に存在する水が移動しなければならないことは、液状化現象の記事でもお話をしましたが、通常の荷重が作用する場合も同様です。

水はけのよい地盤の場合(荷重の作用速度に対して十分に高い透水性がある場合)、たとえ地下水位以深であっても、土粒子間の水の移動が地盤の変形を阻害することはありません。

このため、載荷と同時に地盤は変形を始め、地表面が沈下します。

図⁻1に示すように、地表面に荷重が作用すると各部でせん断変形(長方形がひし形になるような変形)が発生します。地表面に現れる沈下量は、各部のせん断変形の累積によるものです。地盤が強く・硬い場合は、沈下量は小さくなります。

地盤が強く・硬い状態とは、地盤の支持力が大きい状態を示しますので、即時沈下量は、支持力の大きさと反比例すると考えられています。

つまり、支持力が大きい地盤は強く・硬いので、即時沈下は小さく、支持力が小さい地盤は弱く・軟らかいので、即時沈下は大きい。と考えることができるのです。

擁壁の背面地盤は、埋戻し地盤なので、それ以外の地盤(地山)よりも弱く・軟らかいことが一般的です。このため、擁壁の背面地盤と地山とをまたいで住宅を建設すると、背面地盤での支持力が、地山での支持力よりも小さいために不同沈下が発生することがあります。

SWS試験は、敷地内の4~5測点で計測を行うので、敷地内での長期許容支持力度の分布を確認することが可能です。長期許容支持力度が著しく異なる測点がある場合は、即時沈下による不同沈下の可能性を疑いましょう。

2.圧密沈下

地盤の沈下には二種類あるといいましたが、もう一つの沈下が「圧密沈下」です。

「圧密」とは聞きなれないことばですね。即時沈下は、水はけのよい地盤での沈下でしたが、圧密沈下は、水はけの悪い地盤で発生する沈下のことを指します。

(1)圧密沈下のメカニズム

図⁻2に圧密沈下の仕組みを模式図で示します。

水はけの悪い地下水位以下の地盤に建物荷重を作用させると、基礎底面地盤では、土粒子が移動しようとします。ところが、水はけが悪いので(荷重の作用速度に対して透水性が低いので)、土粒子間の水がすぐに移動できません。土粒子の水は、全く移動できないのではなく、微量ずつ移動するので、土粒子も少しずつ移動していきます。

このため、地表面に荷重が作用しても、すぐには沈下が発生せず、長い時間をかけてゆっくりと基礎が沈下していきます。このような沈下を「圧密沈下」と呼びます。

図⁻2 圧密沈下の仕組み

(2)正規圧密と過圧密

土には記憶があることをご存じでしょうか?

土は今までに受けた力のことを覚えています。これを「履歴」と呼びますが、過去に今受けている力よりも大きな力を受けたことがある状態を「過圧密」、今受けている荷重がこれまで受けた荷重の中で最大である状態を「正規圧密」と呼びます。

図⁻3に、地盤の「間隙」と建物の接地圧によって「地中に発生した応力 p 」との関係図を示します。発生応力 p は、対数表示となります。

地表面に荷重を作用させると、水はけの悪い地下水位以下の粘性土地盤では、間隙が小さくなるので、地表面では沈下が生じます(経路①→②)。この後、地表面に作用させている荷重を一部取り除くと、地中内応力は低下します。しかし、すでに圧縮された間隙の大部分が元に戻る(膨張する)ことはないので、体積が縮んだまま、発生応力p のみ減少します(経路②→➂)。③の状態のときに、地表面に再び荷重を加えても、地中では大きな間隙の変化はなく、発生応力のみが増加します(経路③→②)。しかし、作用させた荷重が、経路①→②までの間に作用させた荷重を超えると、間隙が再び大きく沈下を始めます(経路②→④)。

図⁻3 地中内の圧力変化と間隙の関係

このように、地盤は、経路①→②や②→④のように、初めて受ける圧力に対しては大きな沈下量が発生します(正規圧密沈下)が、これまでに受けたことがある圧力の場合(経路③→②)、初めて経験する圧力の場合よりも、はるかに小さな沈下しか発生しません(過圧密沈下)。

(3)気を付けたい新規盛土

力学の世界では、荷重を作用させた時に、元に戻る変形が生じる状態を「弾性」、元に戻らない変形が生じる状態を「塑性」と呼びます。一般的な設計法である許容応力度法では、「弾性」状態のみを対象として、「塑性」が生じた状態は破壊と同様として扱います。

この視点から考えれば、正規圧密状態の土は、「元に戻らない変形が生じる状態」なので、「設計で扱ってはいけない材料」と言えるでしょう。このため、正規圧密粘土は、何らかの方法で改良したり、地盤補強を施して安定した状態にする必要があります。

SWS試験では正規圧密状態や過圧密状態の区別を正確に行うことができないので、より詳しい地盤調査を行い、地盤の状態を確かめるか、疑わしい地盤(Wswが1kN以下の地盤)があれば、「地盤補強」してください。

ところが、最近は、多少の知識と経験があれば「明らかに正規圧密地盤がある」と考えられる場所で、中途半端な地盤補強しか行わずに住宅を不同沈下させている事例を多く見かけます。

日本の低地の粘性土地盤は地表面付近がやや過圧密な状態にありますが、ここに新規盛土を載せると、過圧密状態から正規圧密状態と移行する可能性が高まります(図⁻3の経路③→②→④)。つまり、多少の荷重増加で大きな沈下が発生しやすい状態になります。

このため、水田跡地等で新規盛土がされている場合は、その盛土が築造されたのはいつ頃かを確認するとともに、SWS試験だけではなく、ボーリング調査、サンプリング及び土質試験を実施し、地盤の特性を正確に把握する必要があるのです。

3.地盤補強の不良

図⁻4は、新規盛土地で発生した不同沈下事故現場でのSWS試験結果とボーリング柱状図を併記したものです。SWS試験結果が、地盤の強さを過大評価している区間があることが分かります。

同地盤でのスウェーデン式サウンディング試験結果と標準貫入試験結果の違い
図⁻4 SWS試験とボーリング柱状図

地盤補強工法の設計段階では、ボーリング柱状図はないので、図⁻4のSWS試験結果を見た地盤補強工法の設計者は、Nswがやや大きくなるGL-5m以深を補強体の先端地盤として選び、改良体の周面抵抗力による建物荷重の支持を計画しました。しかし、ボーリング柱状図から、この地層はN 値が0~1と軟弱層だったのです。このように、SWS試験は、「とても軟弱な地盤」の強さを計測することには適していないのです。

このような「異常な試験結果」の存在に気づく方法はいくつかありますが、その一つを過去にブログ(下の記事)に記載しているので、参考にしてください。

なお、図-4にしめした調査結果からは盛土の存在が確認できます。盛土の築年数は不明ですが、数か月の沈下計測を行うことで、盛土自重による圧密沈下が継続していることを確認できる場合があります。継続的に盛土自重によって沈下が発生している場合についての注意事項については、以下のブログを参照してください。

このように、SWS試験の計測精度の問題と新規盛土による沈下の影響を考慮できなかったことで、不同沈下事故が発生します。ちなみに、近年私が不同沈下原因調査を行った案件の多くがこのパターンです。

このパターンの不同沈下事故の原因は、SWS試験結果の判読者が、過去の事例を共有していないことでもありますが、最大に原因は、地形に応じた必要な地盤調査を計画・実施しなかったことです。

4.まとめ

不同沈下の原因として、即時沈下、圧密沈下、地盤補強の不良の三つを挙げて考察してきました。如何でしたでしょうか?

SWS試験が普及したことで、即時沈下による不同沈下の発生は少なくなったように感じていますが、SWS試験だけでは把握できない圧密沈下に関係する不同沈下は、今でも発生しています。

当然ですね。SWS試験では確認できないのですから。しかし、不思議な案件も飛び込んできます。

先日、基礎施工後の段階で不同沈下が発生したという相談を受けました。地盤補強はしていないそうです。SWS試験結果とボーリング調査結果は、「なぜ、地盤補強を行わなかったのか」と思わせる内容でした。

私は、こういう物件に出会うと感情的になってしまいます。

地盤のリスクを推測できない人は、建築物を設計してはいけません。自分でできないのなら、優秀な地盤調査会社と仲良くなり、いつでも相談できる体制を築くようにして下さい。

神村 真



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