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住宅分野以外の調査では、ボーリング調査(地層構成を確認するための調査)が重要視されていて、住宅分野では重要視されていない。なぜでしょう?

住宅以外の構造物では、地盤調査として、SWS試験を主に利用することは稀です。その他の分野では、SWS試験は、ボーリング調査(標準貫入試験)を補足する試験方法として利用されます。

これは、住宅分野では、20年ほど前までは、地盤調査も行わずに家を建てることが普通だったことに起因していると考えられます。

2000年に住宅の品確法が施行されたことで、10年に瑕疵担保責任期間が生まれました。この瑕疵担保責任が伴う10年間に何事もなく過ごすためには地盤調査が不可欠です。しかし、地盤調査をしていない業界に、いきなり他業界では常識な地盤調査方法を持ち込むことは難しい。そんなことが考えられた結果、SWS試験という簡易な調査方法が導入されることになったのではないかと、私は推測しています。

あと10年もすれば、もう少し地盤調査の重要性が理解されて、その他の業界と同様の地盤調査が行われるようになると、私は信じていますが、さて、どうなることでしょうか?

今回は、「普通の地盤調査」に移行していくための足掛かりとして、「土質確認」について考えたいと思います。

  1. 「土を見る」ことの重要性
  2. SWS試験孔を用いる場合の注意点
  3. 土試料採取の方法
  4. まとめ

1.「土を見る」ことの重要性

図⁻1に示すように、軟弱な地盤でSWS試験を実施すると、ロッド周面が土と接触することで、貫入抵抗が生まれるので、地盤の強度を適切に評価することができなくなることが知られています。

図⁻1 SWS試験が異常値を出す原因(模式図)

図⁻2は、下平ら(2017)が、「ロッド周面に接触する土の影響を受けずに、ロッドを回転できる特殊なSWS試験装置を用いて計測したSWS試験結果(黒塗りのプロット)」と「従来のSWS試験装置による試験結果(白抜きのプロット)」の比較結果です。両者を比較すると、ロッドの周面抵抗を無視できる装置での試験結果は、従来のSWS試験装置による試験結果よりも、貫入抵抗が小さくなっています。

図⁻2 ロッド周面の抵抗力がSWS試験結果に及ぼす影響

参考文献)
下平祐司, 廣瀬達也, 大島昭彦:二重管式スウェーデン式サウンディングの開発と貫入抵抗値の考察, GBRC, Vol.42, No.4, pp.31-37, 2017.10.  https://www.gbrc.or.jp/assets/documents/gbrc/GBRC170_832.pdf

平成13年国土交通省告示1113号の記述に従えば、白抜きのプロット(従来のSWS試験装置を用いた試験結果)は、地表面からGL-10mまでWswが1kN未満になる深度が確認されておらず、建物自重による沈下の影響検討を行う必要がないと判断できますが、ロッド周面の抵抗力をカットした試験装置での計測結果は、GL-2m以深からWswが1kN未満の地層が連続しており、建物自重による沈下の影響検討が必要な地盤であることが分かります。

私が不同沈下事故の原因調査に入る敷地でも同様の傾向を見ることが多く、このような「試験方法の特性」を知らない人にとっては、軟弱な地盤が、多少良い地盤に見えてしまいます。

SWS試験結果が異常な値であることを知るためには、やはり、土を確認することが重要だと言えます。SWS試験中に孔壁が崩壊し、ロッドと地盤が接触するような土は、水分を多く含む粘性土だと考えられるからです。

また、SWS試験では、即時沈下や過圧密状態の粘性土地盤の圧密沈下量を予測することが可能だと考えられるので、正規圧密状態の粘性土(水分が多く、弱い粘性土)を見つけることができれば、建物自重による地盤の沈下リスクを把握できると考えられます。そのためにも、「土質確認」は、とても意味のあることなのです。

【参考となるブログ記事】

2.SWS試験孔を用いる場合の注意点

現在、市場に流通している、SWS試験孔を用いた土の採取装置には、様々なものがあるようですが、その多くは、SWS試験実施後の試験孔を用いるタイプのものです。このタイプの採取機では、どうしても、採取深度以外の深度の土が混ざります。図⁻3に、SWS試験中に起こる、土の移動現象の模式図を示します。

図⁻3 SWS試験孔内での土の移動と土試料採取の問題点

図に示すように、スクリューポイントの通過によって、土が孔壁に擦り付けられます。このため、SWS試験孔を使用する土採取方法では、別の深度の土が取り込まれることになります。

このため、孔壁崩壊が生じるような軟弱な地盤を対象に土質確認を行う場合は、所定深度より少し上までSWS試験で貫入し、一旦、スクリューポイントとロッドを引き上げた後、サンプラーを試験孔に挿入し、所定深度までサンプラーを押し込むことをお勧めします。

このような前処理をすることで、孔壁崩壊やスクリューポイントの引上げによる乱れの影響を多少緩和することが可能になります。

3.土試料採取の効用

一般建築物や土木構造物の建設に関わる地盤調査では、ボーリング調査を行うことが一般的で、調査結果に基づいて、必ず土質柱状図を作ります。土質柱状図は、標準貫入試験という土の強度確認試験結果(N値という地盤強度の指標が得られる)と必ず一対で表示されます。

ですから、住宅以外の建物や土木分野の地盤調査をしている人は、土を見て、それがどのような土質であるかを判断する能力を持っています。一方、住宅分野の地盤調査に関わる人の中には、土質に関する知識が少ない人がいます。SWS試験では土質確認を行うことが稀だからです。

SWS試験と土質確認を組み合わせると、SWS試験だけでは分からなかったことが見えてきます。その結果、図⁻1や図⁻2で示した「おかしな試験結果」が現れた場合でも、土質確認結果から、適切な評価ができるようになるはずです。

また、土質が分かると、SWS試験結果で確認された地盤の強弱と土質の関係が見えてきます。その結果、推定地層断面図というものが描けるようになります(図⁻4参照)。

図⁻4 多点計測と土質確認結果に基づく地層推定の概要

推定地層断面図を描けるようになると、SWS試験の強みである「多点計測」が活きてきます。逆に言うと、推定値雄断面図を描かないのであれば、「多点計測」の強みは全く活かされていないと言えるでしょう。

推定地層断面図を描くと、敷地内での地盤の強弱が、「自然に堆積した地層構成」によるものなのか、「人工的な何か」なのかが推測できたり、軟弱な地層の層厚が敷地内で変化していることを知ることができたり、不同沈下リスクを読み解くための貴重な情報を得ることができるようになります。

4.まとめ

「土の種類を目で見て確認すること」は、地盤調査の中では「基本」です。しかし、SWS試験を中心に発達してきた住宅のための地盤調査では、「土を見ること」は普通のことではありません。

住宅の品確法が制定されて20年が過ぎ、瑕疵担保履行法が施行されてから10年が過ぎています。当時は、地盤調査を行うことが一般的ではない市場で、どのように地盤調査を普及させるかが、第一命題だったと思います。その観点に立てば、SWS試験は最適です。

現在では、法律がうまく機能し、SWS試験による地盤調査が一般化しました。私は、住宅での地盤調査を特別扱いする時間を、そろそろ終わりにすべきではないかと考えています。その足掛かりが「土質の確認」です。この「ひと手間」で、不同沈下事故が、本当に珍しい現象にできる可能性があります。

地盤改良業者の老舗や大手ハウスメーカーの中には、何年も前から土の採取を標準的に実施している企業があります。しかし、まだまだ一般的ではありません。何十年も住まう住宅です。そろそろ、ちょっとだけ進歩した地盤調査をはじめませんか?

神村真



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