• 地盤の専門家神村真による宅地防災の情報発信サイト

2020年4月からブログを書き始めて、来年で3年目に突入しますが、ちょうど年末なので、今月は、住宅の地盤について、総括のようなことをしたいと思います。私が、「今後こういう点に注目されるとよいだろうなあ」とか「こういうことを考えてないと地震の時ヤバいなあ」といったような「感想」を、地盤調査や地盤補強について書いていこうと思います。

最初は地盤調査について。次の三点については、来年はもっと注目してもらいたいなあ。と感じています。

  1. 圧密沈下発生を推定する
  2. 斜面・擁壁近傍の住宅の安定性を考える
  3. 宅地ごとに必要な地震力を設定する
  4. まとめ

1.圧密沈下の発生を”正確に”予想する

圧密沈下するのは粘性土地盤です。この圧密沈下には、二種類あって、一つは大きな沈下量が生じる「正規圧密」。もう一つは、あまり大きな沈下が発生しない「過圧密」です。注意しないといけないのは「正規圧密」です。それぞれの違いは、以下のブログ記事を参照してください。

【参考になるブログ記事】過圧密と正規圧密の違いを解説しています。

SWS試験では、「正規圧密」と「過圧密」の違いを見分けることが難しいのです。正規圧密の地層は柔らかく、SWS試験が貫入抵抗力を過大評価する場合が多いためです。しかし、この正規圧密と過圧密の違いは、地盤の水分量に関する定数を知ることで、おおむね把握することが可能です。その定数とは以下の三つです。

  • 自然含水比
  • 液性限界
  • 塑性限界

含水比は、土の塊の中に含まれる「土の重さ」に対する「水の重さ」の割合です。液性限界は、粘性土として存在できる最大含水比、塑性限界は、粘性土であるために必要な最小含水比です。「粘性土の含水比」が液性限界を超えると、土は液体のようになり、塑性限界を下回ると、パサパサの状態になります。

図-1は、自然含水比と液性限界・塑性限界の関係を示したものです。
自然含水比が、液性限界に近いほど、その土は正規圧密に近づきます。また、新しい土ほど圧密が進んでいないので、液性限界が大きい点にも注意が必要です。液性限界が100%を超えるような土は、「若く」注意が必要です。一方、地表面に近く過圧密状態にある粘性土は、液性限界と塑性限界の差(塑性指数)が比較的小さく、自然含水比は液性限界よりも小さい値を示します。

このように、三つの定数の大小関係から、正規圧密粘土を見出すことが可能です。

図-1 含水比、液制限界、塑性限界

水田跡地の新規盛土下の地盤は、ほぼ間違いなく正規圧密ですので、上記のような調査をするまでもありませんが、沈下の危険性を定量的に示すためには、自然含水比、液性限界、塑性限界を確認しておくことは、良い手段だと言えます。

土試料の採取と含水比等のデータ収集を継続し、少しずつデータベースを充実していけば、数年後には、自社の営業範囲内の土質情報が充実し、試験をしなくてもリスク評価を行えるようになるでしょう。

【SWS試験の異常値に関するブログ記事】

2.斜面・擁壁近傍の住宅の安定性を考える

斜面や擁壁の近傍では、水平地盤と同じ支持力を期待することはできません。図-2は、極限支持力(地盤が支えることのできる最大荷重)発揮時に地中に発達する破壊面の模式図です。

水平地盤の場合、破壊面が左右対称に拡大していくのですが、基礎の近くに傾斜がある場合は、斜面側で、地盤の強度が下がるので(上に土がなくなるので・・・)、斜面側にだけ破壊面が発達します(破壊の進展は水の流れに似ています。強い方ではなく弱い方・弱い場所に、破壊は進行していきます)。

このため、斜面近くでの極限支持力は、水平地盤での極限支持力よりも低下します。

図-2 斜面の存在は破壊形態を変える

住宅の場合、この影響を検討することは、ほぼありません。危険が指摘されている斜面の場合は、斜面崩壊の可能性を考えて、図-3のような対応を求められることはあると思いますが、造成地内の斜面上に家を建てる場合には、支持力低減を行うことはまずないでしょう。

図-3 擁壁倒壊を想定した地盤対策の一例

これは、斜面側に庭を配置するため、基礎と斜面との離隔が十分に取られていることが多いからかもしれません。しかし、斜面ではなく擁壁の場合はどうででょう?擁壁から1mも離れずに建設された住宅はしばしば目にします。

地上高さが2mを超える擁壁の場合、行政のチェックが入るので、擁壁上の地盤に建物荷重として等分布荷重を考慮して設計が行われていると思いますが、地上高さが2m以下の擁壁では、そのようなチェックが入らないので、建物荷重を考慮していない擁壁があるかもしれません。

このような擁壁に建物荷重による土圧を作用させると擁壁が不安定化しかねないので、建物荷重は、図-3のように擁壁が倒壊しても建物荷重を支持できようにしておく必要があります。

また、斜面の盛土造成地では、盛土内部に地下水位が形成されてしまうことが多く、大雨の時に盛土を不安定化させている可能性があります。このような造成地を開発する業者の方は、排水設備を充実されることをお勧めします。特に、斜面最下部で水圧が最大になるので、この部分から確実に排水されるように設備設計されることをお勧めします。

3.宅地ごとに必要な地震力を設定する

図-4に、熊本地震(2016年)の益城町での木造住宅の被害発生地域と地形の関係を表したものです。この図から、倒壊率が20%を超える地域(赤色で囲まれた地域)は、いくつかの特定に地形(主に段丘面4と5、沖積低地)に位置していることが分かります。

図-4 熊本地震で住宅の倒壊が多かった地域(赤枠)と地形の関係

【参考文献】山田真澄(2017):2016 年熊本地震で益城町に現れた震災の島とその生成要因の考察,日本地震工学会論文集

これは、断層の影響に加えて、地形によって地震動の増幅が大きくなったためだと考えられています。

現在、建物に作用すると考える地震力は、地形によらず一定の値を使用しています。しかし、上記のことは、敷地ごとに、地震動の増幅の程度を把握しておく必要があることを意味しています

限界耐力計算の場合、 「地盤種別」や「建物の固有周期」に応じて 地震力算出時に用いる水平加速度の増幅率を算出します。

通常の許容応力度法では、加速度増幅率の具体的な検討方法は決められていませんが、地盤の固有周期から地盤種別を特定し、建物の固有周期から加速度増幅率を決定できれば、地震に対する安全性を合理的に向上させることが可能です。

なお、ローム台地のように、建物を支持する能力の高い地盤では、水平加速度の増幅は不要(=耐震等級を上げる必要はない)という考えもあるようですが、工学的基盤面と呼ばれる硬い地層から見れば、ローム層もやはり振動を増幅させる地層の一種です。熊本地震でも、沖積低地と呼ばれる軟弱地盤の堆積する地域だけではなく、沖積低地よりも古い地層である「段丘」でも倒壊被害が出ていたことからも、「ロームだから安心」とは必ずしも言えないのではないでしょうか?

4.まとめ

以上、現時点で、私が必要だと考えている三つの項目を取り上げました。

ここで取り上げた項目は、しっかり押さえておかないと大地震時に様々な問題を引き起こす可能性があるのではないかなあ?と考えています。

いずれも、従来からお伝えしていることですが、少しずつでも、考え方が浸透すればと思いますので、来年も、いろんな角度から、これらのことについて情報発信していきたいと思います。

神村真



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