• 地盤の専門家神村真による宅地防災の情報発信サイト

私は10年間ほど地盤改良会社に勤務したのち、今の仕事を始めたのですが、業界から少し離れて、「あーすればよいのにな」「こうしなければならなかったな」とシミジミと反省する日々を送っています。

柱状改良工法は、住宅分野では非常に人気のある地盤補強工事の方法ですが、施工管理については、より厳格なものになっていかなければならないと考えています。なぜなら、現状の施工管理の状態では、「地盤改良工事の適切さを証明することができない」場合があると考えられるからです。

このことから、私は、三つのことに留意した施工管理が必要だと考えています。今回は、その三つのことについて解説していきます。

  1. 施工管理結果を確認していますか?
  2. 施工管理基準の実効性は?
  3. 必要な工事費用の根拠は?
  4. まとめ

1.施工管理結果を確認していますか?

あなたは、柱状改良工事の施工報告書を見たことがありますか?見たことがあるなら、その工事は、正しく施工されたことを確認できる内容だったでしょうか?

私は職業柄、住宅の地盤改良工事の施工報告書をよく見るのですが、非常に簡素なものが多く、施工管理結果を確認できる報告書に出会ったことがありません。

この状態、問題ないのでしょうか?。

地盤改良業者は、地盤改良工事を請け負うので、工事に対して瑕疵担保責任が発生します。このため、責任を全うするために十分な対応を行ったことを示す必要があり、そのためには、以下の三つのことを行う必要があります。

  • 「実効性があると考えられる」施工管理基準に従って施工を行うこと
  • その事実を記録として残すころ
  • 施工した柱状改良体の「品質」を定量的に示すこと

このことから、地盤改良業者は、工事前に、適用する施工管理基準を発注者に承認してもらい、これをひたすら順守していくしかありません。一方、発注者である建築士は、適切に工事が行われたことを確認し、施主に報告する必要があります。

このため、発注者は、成果品である報告書に、施工管理内容を振り返ることができる情報を記載するように求める必要があるのです。

図-1に、第三者機関で技術審査を受けた柱状改良工法の施工管理帳票の一例を示します。左のグラフは、横軸を時間とした場合の①施工深度、➁固化材スラリーの積算流量、③施工中のオーガーモーターのトルク値をそれぞれ示したものです。右側の表には、施工深度1m区間ごとの①掘削撹拌装置の回転数、➁固化材スラリー積算流量、③トルク値の最大値がそれぞれ示されています。そして、この表の一番右の列には、適切な施工が行われたことを確認した〇印がつけられています。

図⁻1 柱状改良工法での施工帳票の一例

柱状改良工事の施工報告書には、施工管理基準に加えて、図⁻1のような管理帳票を掲載し、施工管理基準通りの施工が実施されたことうを振り返ることができるようにしておかなければならないのです。

もっとも、現在はデジタル化が進んでいます。細かい施工データまで紙で印刷していては資源も無駄使いです。施工管理結果については、デジタルデータを保管することでよいと思います。

2.施工管理基準の実効性は?

実効性が定かではない施工管理基準が、世間では横行しています。

柱状改良工法の場合、羽根切回数という掘削撹拌翼の撹拌回数に関する数値のみを施工管理基準として、この基準を満足していればよいと考えている人が意外に多いようです。残念ながら、柱状改良工法は、そんなに単純なものではありません。

図⁻2に、柱状改良工法で作る改良体の強度(現場強度)とそれを決めるために行う配合試験結果(室内強度)の頻度分布を示した模式図です。

図⁻2 室内強度と現場強度の頻度分布の関係 

現場強度は、正規分布という分布をしていて、室内強度(工事前に固化材添加量を決定するために行った室内試験結果)よりも小さい値を示します。柱状改良体の基準強度Fcの設定方法は、現場強度が正規分布し、土質が同じなら、常に同一の分布になることを前提にしています。

私は、柱状改良工法の開発を行う過程で、「現場強度の分布が正規分布しない」ということにしばしば悩まされました。考案した掘削撹拌翼の形状を考慮して、改良体強度の分布が安定する回転速度と施工速度の関係を見つけるために、何度も試験施工と品質確認試験を繰り返す必要がありました。実効性のある施工管理基準は、そのようにして設定されているのです。「本に書いてある通りに施工すれば目標の品質を満足する改良体が出来上がる」というような単純なものではありません。

第三者機関で技術審査を受けた柱状改良工法は、定めた施工管理基準に従うことで、目標とする強度のばらつき(変動係数)を達成することが確認、証明されています。地盤補強工事に柱状改良工法を採用するのであれば、第三者機関で技術審査を行った工法を利用することをお勧めします。

3.必要な工事費用の根拠は?

地盤改良会社の工事見積書を見ることが、たまにあるのですが、工事見積書を見ても、なぜこの工事がこの金額になるのか分からない見積書をよく目にします。こんな感じです。

〇〇工事 一式 ¥〇〇〇,〇〇〇

この見積書でなぜ発注判断ができるんだろう?と、いつも不思議に感じていました。

地盤改良業者は、自社で1日何mの改良体を作ることができて、そのために必要となる費用がどの程度かを熟知していますので、設計で定められた工事仕様から、必要となる工事日数を割り出し、工事費を積算しています。

1日の施工量は、施工管理基準によって決まるので、各社の施工管理基準に従って工事費用は変化しているはずです。

ここで問題になるのは、施工管理基準の実効性です。実効性のある施工管理基準に基づく工事は、恐らく実効性のない施工管理基準に基づく工事よりも、1日の施工量が少ないはずです。工事を受注できる条件が工事価格のみの場合、高い精度で工事をしている業者が不利になります。

これは、発注者にとって不幸なことです。

工務店が、優良な工事会社に工事を発注する機会を失わないためには、以下の三点について情報を収集し、関係の確認を行うことです。そうすると、どの企業が高い品質を提供しながら、高い生産性も実現しているのかが分かるはずです。

  • 各社の施工管理基準の内容と実効性
  • 各社の1日施工量と施工管理基準の関係
  • 各社の見積額における人件費の内訳や間接費の割合

施工管理基準の内容は、地盤改良会社に求めれば関係書類を提供してくれるはずです。施工管理機銃の実効性は、第三者機関で技術審査を受けた工法しか示すことができないと思います。

1日施工数量は、施工管理基準から推測することができるので、提出された施工管理基準と1日施工数量の関係を確認することでも、施工管理基準が適切に運用されていることを確認することが可能です。

高い技能を持った作業員を雇用している企業の人件費は割高ですし、施工管理に力を入れている企業は、間接費率が大きくなっているはずです。これらのことは、工事やその後の対応などを見ていると分かると思いますが、そのような「仕事のしやすさ」や「安心感」のようなものも、見積書に反映されているはずです。

上記の3点を精査することは、地盤改良業者の「姿勢」を精査するものでもあります。一社一社を丁寧に評価して頂きたいものです。

4.まとめ

地盤改良業者にいた私から見ると、仕事を丸投げする工務店も多くおられたように思います。地盤補強工事は、工務店が大切にする「家」を支える地盤を作る仕事で、消費者へのアピール材料にもなりえるものだと思います。もう少し関心を持っていただければ幸いです。

また、地盤改良業者も、見られていないからと言って褒められない仕事をしていませんか?地盤改良工事の上に「誰かの家」が建てられます。あなたの提案、あなたの工事で、災害時に救われる家族があるかもしれません。あなたの仕事が工務店選定の一つになることもあり得るのです。

地盤改良工事が広く普及したのは、2000年の住宅の品確法制定以降のことです。20年以上前には、住宅の下に杭を施工することが一般的ではなかったなんて本当に驚きです。

これからの20年は、どんな地盤補強工事が行われたか?という「品質」にフォーカスが当たるような時代になっていくのではないかと、私は考えています。

神村真



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