• 地盤の専門家神村真による宅地防災の情報発信サイト

あなたが設計する家は、建てる場所によって既に多くのリスクにさらされています。「どんなリスクにさらされているか?」を事前に気づくことで、リスクを回避したり、受容可能な形にすることが可能になります。

一方、リスクの把握を怠ったことで、不同沈下が発生したり、災害によって大きな被害を受けたりします。

今回は、よくあり造成地の風景に、どんなリスクが隠れているかについて解説したいと思います。

  1. 建てる前に考えておくこと
  2. この土地にはどんなリスクがあるだろうか?
  3. リスクの確認方法と対策方法
  4. まとめ

1.建てる前に考えておくこと

住宅の地盤調査と地盤補強工事を行う会社に勤務していると、「なんで、こんな場所に分譲地を作るのかな?」「なんで、この場所で地盤補強の予算を十分に確保していないんだろう?」と思うことが、しばしばありました。

こういう場合は、建設予定地のリスクが見えていないのです。

消費者が地盤リスクを把握できないことは致し方ないのですが、設計者である建築士や不動産開発をしているあなたが、「リスク」を理解していないことには大きな問題があります。

山地や台地・段丘以外の地形は、多かれ少なかれ雨や川の働きが関係しています。扇状地や谷底平野等は、川の氾濫が生み出した地形です。このため、当然、洪水に遭遇するリスクが付きまといますし、場所によっては軟弱な地盤が堆積しているので、地震時に非常に揺れやすいとか、建物自重で大きな沈下が発生する等のリスクが存在しています。

リスクは、適切に対処しないと大きな損失を伴う被害が発生します。現時点では、このようなリスクの対応に関する適切な対処方法を提案する役割は、住宅の設計者である、あなただけが担っている状況にあります。

本来であれば土地の販売者が、販売の段階でリスクを評価し、販売価格に反映させておくべきなのですが、このようなことが、十分に法整備されていないのが現状なのです。

2.どんなリスクがありますか?

例えば、図⁻1に示すような断面を持つ造成地には、どんなリスクがあると、あなたは考えるでしょうか?

図-1 造成地の断面(模式図)

ざっと思いつくものを羅列しただけでも、以下のような項目が思い当たります。住宅を設計する場合は、土地とその周囲を見回して、以下の項目に関わるリスクは少なくても把握し、住宅の建設コストや維持管理費用にどのような影響をおよぼずかを具体的に考えておく必要があります。

  • 旧地形
  • 切土・盛土
  • 擁壁
  • 谷埋め盛土
  • 冠水・洪水
  • 斜面の安定

なお、このような地形の造成地は、図⁻2のような旧地形を持っていて、住宅にとって多くのリスクを有していることが推測できます。その推測の正しさを、既存の資料を用いて検証していく必要があります。

図-2 図-1に示した造成地模式図の推定断面図(模式図)

3.それぞれのリスクの内容と確認方法

(1)旧地形

旧地形を確認するためには、今までもなんでも紹介している国土地理院の地理院地図が便利です。使用方法等は、過去の記事を参照してください。図⁻2に示したような谷底平野や台地・段丘等、その土地がかつてどのような地形に属していたのかを把握することができます。

【参考になる過去の記事】

(2)切土・盛土

旧地形でも確認可能ですが、比較的規模が大きく、新しい造成地の場合は、造成計画段階で自治体に提出された図面類があるはずです。この図面類の中には、切土部分と盛土部分を色分けした地図が入っているはずですので、この図面を入手できれば、切土と盛土の区分は容易です。

(3)擁壁

擁壁は埋戻し地盤の強さがその他の部分よりも弱い場合が多く、不同沈下の原因になりやすいものです。あるいは、地上高さが2m以下の擁壁の場合、行政機関による審査や検査がないので、いい加減な擁壁が存在している場合があります。

このため、擁壁の形状は擁壁の設計図書で確認し、安定性については同じく設計図書で確認することをお勧めします。

特に、耐震等級3等、通常よりも高い耐震性の住宅を計画する場合は、擁壁の耐震性とのバランスを必ず確認してください。擁壁が想定している地震規模が建物で想定する地震規模より小さい場合は、擁壁による影響を考慮した対策が必要です。

(4)谷埋め盛土

もしもこの造成地が谷を埋め立てた盛土の場合、地震時に滑動する危険性があるかもしれません。個人の住宅で対策をとることができるものではありませんので、保険等、資産の損失を最小化するための対応が求められます。

なお、谷埋め盛土の危険性は比較的簡単に求めることが可能です。

【参考資料】
有限会社太田ジオリサーチ
谷埋め盛土地震時安定解析ソフト【フリーソフト】
谷埋め盛土の安定性を捉えることができる簡単な計算シート
https://www.ohta-geo.co.jp/software/taniume.html

【参考文献】
例えば、太田英樹, 榎田克哉:谷埋め盛土の地震時滑動崩落の安定計算手法, 第3回地盤工学会関東支部研究発表会講演集, pp.27-35, 2006.

(5)冠水・洪水

谷底平野は昔の河川の通り道です。場合によっては、旧河川が暗渠として道路の下を流れているかもしれません。このような場所は今でも雨水の通り道なので、河川の洪水時に冠水する可能性があります。

地震時に暗渠が破損すると大きな被害に発展することも考えられます。 胆振東地震では、旧河道を砂質土で盛土した造成地が、液状化と暗渠の破損で大規模な被害が出ています。

このため、排水施設や暗渠などの存在や、埋戻しに利用された土質についても着目しておくことが望ましいでしょう。

【参考となる資料】
札幌市ホームページ、北海道胆振東部地震における地震被害対策(清田区里塚地区),清田区里塚地区市街地復旧技術検討会議 第1回技術検討会議の配布資料が被害状況を知るうえで役に立ちます。
https://www.city.sapporo.jp/kensetsu/stn/satozuka.html

【参考になる過去の記事】

(6)斜面の安定

斜面の内部には地下水が流れています。通常、この地下水が斜面の安定に大きな影響を及ぼすものではありませんが、豪雨によって斜面内の地下水位が上昇すると、斜面の安定性が低下することになります。これは、地下水位上昇によって、斜面内部の水圧が増加するためです。その影響は、斜面下方ほど大きいので、適切に排水処理を行わないと、斜面崩壊に繋がります。

このため、斜面地の造成地の場合、造成計画段階でのボーリング柱状図に記入された地下水位や、排水施設の内容を確認しておく必要があります。

4.まとめ

あなたは、図⁻1を見たときに、どの程度のリスクを抽出できたでしょうか?

現実の造成地には、私が挙げたリスク以外に、さらに多くのリスクが隠れています。それぞれのリスクの調査方法は、そのリスクによって異なります。SWS試験を行ったからと言って、全てのリスクを把握できるものでは決してありません。

あなたが設計者なら、あなたがリスクを推定し、必要な調査方法を決めて実施しないと、誰も必要なリスクを教えてはくれません。なぜなら、設計者以外に、「知っておくべきリスクが何か」を知らないからです。

どうか、被災した際に「想定外でした」なんて言い訳をする設計者にはならないでください。

神村真



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