私は、「スクリューウエイト貫入試験しかしない地盤調査」は、そろそろ終わらせた方が良いと考えています。
スクリューウエイト貫入試験(SWS試験と呼びます)では、地盤の性能を明確に示すことができない場合が多いからです。
あなたは、地盤調査結果の判定に関して第三者意見を求めたことはありますか?
「地盤改良」という判定結果の出た地盤報告書を、別の地盤補償会社に見せると「改良不要」になったりするサービスです。
あのサービスを利用した時、「地盤補償会社によって、見解が変わるのは何故かな?」と感じませんでしたか?
見解が変わる理由は、評価の対象になる地盤調査結果があまりにも情報量が少ないためです。このように少ない情報では、それを見る側の基準の違いで、評価結果が様々に変化します。
今回は、住宅地盤の評価には、SWS試験よりも、さらに詳しい情報の収集が、本来必要なんですよ。
というお話です。
地盤改良の要否を最終的に決めるのは、地盤補償会社の担当者さんです。
地盤調査会社の担当者さんが判断をして、地盤補償会社の担当者さんが承認するという体制がとられている場合が多いです。
この地盤調査結果から、地盤改良の要否を判定することは、以下の観点から見ても、とても大変です。地盤の性能を判定している人は、少ない情報なのに、その精度にも問題ある中、大切な住宅を支える地盤の性能を評価しているのです。
「改ざん」は残念ながらゼロではありません。詳しい話は、以下の動画でご確認ください。
地盤調査結果の判定をする人が大変なのは、判定できる人が少ないので、一人の担当者が負担する案件が非常に多いことも要因の一つです。このことは、優秀な技術者を育成したり、判定技術の習熟度を上げる妨げにもなっています。
今のまま地盤調査や地盤補償の単価が上がらないと、数年で地盤補償事業は成り立たなくなると思いますが、AIによる自動判定に切り替わっていくのでしょう。
しかし、機械学習をしたとしても、学習のベースがSWS試験結果に基づく判定結果なので、評価結果の「正しさ」はあいまいなままです。SWS試験は、地盤の性能を評価するために最も重要な「土質」の情報を得ることができないからです。
いくら優秀な人材や優秀なAIアプリでも、このような環境では、「適切な評価」を行うことは「不可能」です。結果として「安全側の評価」を行うことになります。このため、地盤補償会社間の調査結果の評価の差は、「各事業者の安全に対する感度の違い」でしかないのです。
現在の地盤の性能評価は、「建物自重を安全に支えることができるのか?」ということに力点を置いています。
これは、これでとても重要なことなのですが、SWS試験結果に重点を置くあまり、基礎直下の地盤に意識が集中しすぎています。住宅を支える地盤の安定性は、基礎直下以外の部分も大きな影響を及ぼします。例えば、以下の項目は、地盤の性能評価を行うときには、十分に注意が必要な項目です。
地盤調査会社や地盤補償会社の多くは、このような、地盤の性能評価を左右する項目に着目しています。この人たちの判定結果は、総じて保守的です。個人の住宅といえども、将来、既存住宅市場に流通する可能性がある「ストック」ですし、地盤調査で十分な情報を取得していなのですから、保守的に評価して当然です。これは、企業の「善意」なのです。
しかし、「支出を下げたい」、「地盤補強に〇〇円は高すぎる」という消費者の「心」は、「保守的な評価(企業の善意)」を受け入れてくれません。
そこで登場するのが「第三者の声」です。
しかし、この「第三者」は、真っ当な第三者ではないのではありませんか?
その「第三者」は、彼らの判定結果に基づき、彼らの地盤補償を購入するように提案していませんか?
真の第三者は、ある会社が出した判定結果を評価することに費用を払うように求めるはずです(少なくとも私はそうしています)。
ですから、「うち地盤補償を使ってくれんるなら、地盤改良要りませんよ」というものは、「第三者」ではありません。地盤補償会社の競合が営業しているだけです。
私は、「第三者」を求める消費者の心理を責める気持ちはありません。むしろ、地盤調査会社の善意として、保守的な評価を行っていることを、消費者に伝えられない業者の説明力の不足が問題だと感じます。
しかし、この説明力の低さは、地盤調査を発注する工務店の「地盤に対する意識の低さ」に由来すると、私は感じています。
「住宅は個人の資産で建設するものなので、一般建築物と同じように地盤調査に何十万円もかけられない」
私は、住宅業界に入ってきてから、この言葉を何度も何度も耳にしました。
その考え方は正しいでしょうか?
私の専門は土質力学(地盤工学)と構造力学ですが、一度自宅を建設し、またいつか家を建てるかもしれない消費者でもあります。
その観点から見ると、地盤調査にお金を掛けない今の家造りは、「住宅が本来有すべき性能を確保することを放棄してしまった」ように見えます。
SWS試験は、以下の地盤リスクを適切に評価できません。また、多くの場合、住宅に隣接する擁壁の安定性や斜面の安定性は、確認さえされていません。
私が次に家を建てるなら、ボーリング調査に土質試験は必ず実施しますし、微動探査結果に基づいて地盤種別の判定も行い、その結果に基づいいて、構造計算もします。さらに、擁壁や斜面の安全性についても、合理的な説明を求めます。
当然、費用は掛かりますが、数十年家族が住む家です。地盤調査や構造計算に要する費用は、居住年数で割り算すれば、多くても1年間で1、2万円のことですし、これが、構造物を設計する本来の姿です。
私自身、最初の家造りの時(2002年から2004年くらいのこと)には、知識がなかったので、多くのことを工務店にお任せしていました。地盤調査の内容には無頓着で、工務店が勧めた地盤補強工法の適否は結局よく分かりませんでしたが、「地盤補償がつく」ということで工事を進めました。
しかし、これではいけません。
地盤は、評価するのが難しい材料です。SWS試験結果に基づく判定結果の間違いは、不同沈下事故や地震時の住宅被害状況が教えてくれますが、「正しさ」や「適切さ」を評価することは困難です。また、地震時の住宅の被害状況を地盤から見て検証した事例は非常に少ないのが実態です。
一方、私が見てきた不同沈下事故は、ボーリング調査と土質試験を行うことで防げたものばかりです。地震についても、地盤の揺れ方を事前に詳しく調べて、それに基づいて建物の設計ができていれば、倒壊を防げた事例は多くあるのではないかと思います。
あなたが、本気で、安心で安全な家を造ろうと思うなら、地盤調査の方法から見直す必要があると、私は考えます。
2006年に、公共事業の地盤業界から住宅地盤の業界に移り住んでから、約15年が過ぎましたが、技術的な進歩は微々たるもののように感じます。
最初の5年ほどは、住宅の瑕疵担保法の成立等、ダイナミックな動きがありましたが、東日本大震災を経験しても液状化判定が可能な地盤調査の義務化は行われなかったし、四号特例の撤廃は、この先も難しそうです。
気密や断熱、構造ばかりよくなっても、足元の地盤の性能評価があやふやなままでは、住宅のストック化なんてできないのではないかなあ?などと落ち込みます。
しかし、消費者の住宅性能への関心は、断熱・気密から構造にまで到達してきたので、あと20年もしたら、地盤に目が向くようになるかなあ?と楽観視しています。
神村真