• 地盤の専門家神村真による宅地防災の情報発信サイト

あなたは、自分が設計した住宅で行われた地盤改良工事の施工データを細かく見ていますか?
また、その情報を自分で管理していますか?

中古住宅市場が活性化すると、これまで見えないものとされてきた、地中の情報が重要になってくるかもしれませんよ。

今日は、地中に埋もれてしまう柱状改良体の品質とについてのお話です。

  1. 柱状改良工事の方法
  2. 設計の基本
  3. 施工管理の実態
  4. まとめ

1.柱状改良工事の方法

柱状改良工事は、図-1に示すような方法で、セメントや石灰を主成分とする固化材の水溶液(固化材スラリー)を地中に充填し、土と撹拌混合することで、柱状の改良体を作り上げる工事です。

古くから、土木分野で、地盤強度を増加させることを目的として利用されてきた工法でしたが、建築分野では、品質管理技術の向上によって、杭のように単体で建物荷重を支持するために使用されるようになっています。

図-2は、地中に固化材スラリーを充填させながら、固化材スラリーと土を攪拌混合させるための装置の一例です。

柱状改良シングル施工のイラスト
図-1 柱状改良体の施工工程の一例(シングル施工)
図-2 掘削攪拌装置

2.設計の基本

設計では、地盤の抵抗力によってもたらされる改良体1本あたりの支持力(家を支える力)を明らかにするとともに、改良体頭部に作用する力に対して、改良体が壊れないことを確認する必要があります。

この検討の結果、改良体に必要とされる強度が明らかになれば、これを実現するための固化材量を決める必要があります。

目標強度を達成できる固化材量を決めるためには、工事前に改良対象となる土を採取し、様々な固化材量と水分量の組み合わせに対して強度試験を行います。これを「配合試験」と呼びます。

ところで、配合試験結果に基づいて、配合量を決定するためには、以下の二つの条件が必要になります。

  • 作った改良体の強度が正規分布する
  • 正規分布の標準偏差が明らかになっている

全く均質な改良体を作ることは不可能です。このため、設計では、改良体の強度は、「図-3のような正規分布になる」として、「達成すべき最小強度(設計基準強度)」を定めます。この設計基準強度が意味あるものとするためには、改良体強度は正規分布しなければなりません。また、平均強度が明らかな場合に、強度分布がどのような正規分布になるかを知るためには、強度の標準偏差σ(ばらつきの程度)も明らかでなければならないのです。

図-3 改良体の強度分布と配合試験での強度分布の模式図

この二つの条件を満足する改良体だけが、設計によって必要強度を定義し、それに基づく品質管理が可能になるのです。

3.施工管理の実態

この二つの条件のうち、一つ目の条件を満足することは、かなりハードルの高いことです。

今、住宅分野で作られている改良体の多くは、二つの条件を満足していません

作った改良体の強度が正規分布することを確認するためには、出来上がった改良体から25本程度のコアを抜きとって強度試験をする必要があります。また、いつでも、どこでも、同様の強度分布をすることを確認する、再現性の確認も必要です。

こういう品質の確認を行っているのは、建設技術審査証明や建築技術性能証明のような、第三者による技術審査を行った工法だけです。

「現在、住宅分野で作られている改良体の多くは、第三者による技術審査を受けていません。」

このことは、「家の下に作られた改良体のほとんどが、品質不明の改良体である」ことを意味します。

あなたが、柱状改良体の品質の重要性にお気づきなら、上記の第三者機関の技術審査を受けた工法を利用することを強くお勧めします。

技術審査を受けた工法では、深度区間1mごとに攪拌回数や固化材スラリーの充填量を管理します。施工速度にも制約があります。ここまで丁寧に施工を行わないと、強度が正規分布する改良体を作ることができないのです。

さて、あなたは、柱状改良工事終了後に、どのような報告書を受け取っていますか?そこには、改良体1本1本の施工記録や、深度区間1mごとの管理結果は示されていますか?市場に出回っている柱状改良工事が安いのは、そのような管理に要する手間を省いているからなんですよ。

4.まとめ

柱状改良工事は地業の一環として扱われますが、実際は、くい基礎と類似の物で、改良体の配置によって、基礎に作用する応力も変化します。

住宅が資産として価値を発揮するためには、各部の品質が担保されていることが重要になります。今は、「建築士が設計していればOKということにしよう」という事になっていますが、中古住宅市場の成熟に伴って、このような考えは失われていくでしょう。「建築士が設計した」ということは、まったく合理的な証拠にはならないですよね。

中古住宅市場では、長期にわたって品質を証明することが問われると思いますが、そのためには、品質をいつでも再確認できる必要があります。そのためには、「どんな資格を持った人が設計したか」ということには価値がありません。「なにが」、「どこに」、「どのように」という、記録が残っていることが、価値になります。

近い将来、Webで中古住宅の売買が容易にできるようになると、「○○工務店の家は高く転売できる」という評価が、新築の受注を後押しすることになると、私は考えています。

この時、あなたが設計した家の価値を高めるのは、「データ」です。特に、地中に埋もれてしまう地盤改良工事に関する情報は、家を支える最も重要な情報として扱われるでしょう。そこが明らかにならないと、その家が長期的に安定であることを確認できないのですから!

現在建築されている住宅のほとんどで、柱状改良工事の施工記録が適切に管理はされていません。地層構成を確認することもできないスクリューウエイト貫入試験だけで地盤を評価しているような状況ですので、やむを得ないことですが・・・

あなたが、今から地盤や地盤改良工事の品質に着目し、適切な管理を始めれば、今、建築している住宅の将来価値は他社を圧倒するものになるでしょう。そして、それが、新築受注を後支えしてくれるはずです。

「地盤」と「地盤改良」
見えないものを見ようとする努力が、「価値」を生み出すのではないでしょうか。

以上

神村真



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