• 地盤の専門家神村真による宅地防災の情報発信サイト

10年ほど前、過去の不同沈下事故を100件以上分析する機会を得ました。その結果、「ほぼ全部の案件で、事前に不同沈下リスクが確認できた」ということが分かりました。そうです。不同沈下事故は、あなたやわたしのような立場の人間が、調査結果に示された地盤リスクを見逃したことで発生しているのです。

この結果を踏まえて、私は、最近、こんなことを思うようになりました。

「家は傾くものだ」

でも、消費者のために「家を傾かせてはなりません」。そのために、あなたやわたしが、どのように考え、行動すると良いのかについて考えてみました。

  1. 三つの事故ケース
  2. 不同沈下事故に出会う可能性は結構高い
  3. あなたがとるべき三つの行動
  4. まとめ

1.三つの事故ケース

あなたは不同沈下事故を経験したことがありますか?

あなたが、不同沈下事故の経験者なら、お客様対応、地盤補償会社や瑕疵保険会社への対応など、色々大変だったと思います。二度と事故は起こさないようにしようと誓われたのではないでしょうか?

私の手元には不同沈下事故の案件が、月に数件舞い込んできます。「原因調査について助言して欲しい」、「原因調査の計画を立てて欲しい」、「修復方法を考えて欲しい」そういった相談ですが、それらの相談案件の事故原因を整理すると、以下の三つに分類することが出来ます

  • 調査結果に表れた沈下リスクを見落とした
  • その土地の沈下リスクに適した地盤補強仕様を決められなかった
  • 調査技術の適用限界を超えていた

一つ目は、以前よく目にしました。

SWS試験などの調査結果から、不同沈下リスクが簡単に読み取れるのに、何の対策も取られなかったというものです。「支持力値しか見ていない」、「都合の悪い内容は顧みない」という姿勢が見える、嫌な事故です。最近は、あまり見なくなりました

二つ目が、最近のトレンドです。

沈下リスクは理解していたけれども、その対策方法に問題があったケースです。これは、お客様の印象がとても悪いです。「お金払っているのに、何やっているの?」という印象を与えます。例えば、盛土自重で地盤が沈下しているところに、そのことを考慮しないで地盤対策仕様を決めた。結果として、建物自重ではなく、盛土自重による沈下で住宅が傾いたという事例がこれに当たります。

沈下原因の特定にお金と時間を要しますし、修復工事も高額になる傾向にあります。

三つ目は、二つ目のケースを誘発します。

SWS試験や表面波探査など、全ての地盤調査には欠点や適用限界があります。適用限界を超えた条件で試験が行われ、その結果に基づいて地盤補強仕様を決定したことで、不同沈下発生。というパターンです。

このケースは、「新規盛土による自重沈下の見落とし」や「コンクリート殻など地中障害物の存在の見落とし」などと組み合わさって、顕在化することが多いです。

いずれにしても、不同沈下には理由があります。また、後で見てみると、「なんで、このデータで、このような対応をしたの?」と思えるものがほとんどです。

不同沈下事故の多くは、人がその可能性を見誤っただけのことなのです。

2.不同沈下事故に出会う可能性は結構高い

地盤調査を行って家を建てるようになってから20年以上経過したました。あなたも、最初の頃は、「瑕疵責任10年間は重い。地盤をしっかり見ていこう」と思われたことでしょう。

しかし、10年以上、事故がなければ、「こんなに地盤改良にお金かける必要あるの?」「地盤改良会社に騙されているのでは?」という気持ちが現れてきませんでしたか?

住宅・リフォーム紛争処理支援センターが公開されている事故データ(https://www.chord.or.jp/documents/tokei/index.html)から推定した「新築住宅の不同沈下発生率」は、1万棟に5棟くらいです。この程度の割合なら、着工戸数が年間数百棟なら、あなたが設計している間に不同沈下に出会わない確率は高いかもしれません。

でも、上記の推定値には、「引き渡し前に発生した不同沈下」や「住宅・リフォーム紛争処理支援センターに相談のなかった案件」は含まれていません。それらの数値を加味すれば、新築住宅での不同沈下事故の発生率は、1000棟に一棟くらいまで増えてもおかしくないでしょう。

あなたが、年間に数百棟の設計に関わっているなら、10年に1回以上の頻度で、不同沈下事故に遭遇してもおかしくないわけです。

もしも、あなたが、経済性に重きを置いて、「攻めた」対応をしているなら、不同沈下事故に出会う可能性はさらに高まります。

3.あなたがとるべき三つの行動

とはいうものの、住宅を作ることはビジネスです。経済性は、非常に重要なことです。経済性なくして住宅建設は成り立ちません。

そういう現場で、設計者としてあなたが行うべきことは、「不同沈下事故は起こる」ことを前提に行動することです。

第1の行動は、「不同沈下が起きやすい場所」と「そうでない場所」を仕分けることです。こういう場所の仕分けは、地形から簡単にできます。その方法は、例えば、以下の記事でも紹介しています。

危険性の高い場所では、慎重な対応を取ります。場合によっては、追加調査も行います。リスクの低い地形に一致する物件や、過去に近くで建設を行った経験がある土地では、「攻めた対応」を提案します。

第2の行動は、地盤補償や瑕疵保険で免責になる要素をつぶしておくことです。このことを忘れている設計者が多いのですが、保険には免責項目があります。

例えば、「近接する擁壁の沈下」や「地盤調査後に行った盛土による地盤沈下」に起因した不同沈下は、地盤補償でも瑕疵保険でも補償されません

このような地盤補償や瑕疵保険で手当てできない事柄をしっかり把握しておいて、それらの項目を、住宅の設計段階で、徹底的につぶしておきます。このことが、地盤補償や瑕疵保険をセーフティーネットとして活用するために必要不可欠なことです。

第3の行動は、あなたが、地盤リスクを想定することです。以下の項目について、あなたなりの見解をしっかり持っておきましょう。

  • 敷地内で、支持力(地盤の強度、即時沈下と比例関係にあります)にばらつきがないか
  • 沈下量はどの程度になりそうか
  • 敷地内で推定沈下量に大きな差が出ないか
  • 不安定な斜面や擁壁に近づきすぎてないか
  • 地震時に地盤は安定か
  • 地盤調査結果に大きな誤差がでる可能性がある地形ではないか

この三つ目の行動。この行動ができていないことで、不同沈下が起きていると言っても過言ではありません。

地盤補償会社の担当者は、あなたの物件だけを見ているわけではありません。1日に、10~20件の物件に目を通し、短時間で判断をしていかなければなりません。住宅に対する思い入れも、あなたほどのものはないでしょう。

とはいうものの、あなたも多忙な身の上でしょう。だから、第1の行動が必要になるのです。注意を要する物件を明確にし、地盤をよく見なけれなならない物件については、徹底的に地盤リスクをチェックする。自分の見解と地盤補償会社の見解にずれがある場合は、彼らの見解を再確認し、最適な対応方法を導き出します。

当たり前のことですが、これがなかなか難しいんですよね。でも、第1の行動がしっかりできていれば、あなたの負担はかなり減っているはずです。上記の三つの行動を習慣化し、不同沈下に備えましょう。

4.まとめ

不同沈下の発生は、あなたの経験や知識・技量とは無関係です。

不同沈下の発生は、「あなたの行動」と関係します。

適切な行動を習慣にして、事故とは無縁の家づくりを楽しんで頂きたいです。

神村真



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