• 地盤の専門家神村真による宅地防災の情報発信サイト

歴史は繰り返すと言いますが、人間が知っている歴史にだけ注意を向けていては、「想定外」のことに対応できません。災害で大きな被害が出る時は、いつも「想定外」という言葉が使われますが、人間が記録してきた情報は、せいぜい100年くらいの情報です。

たったそれだけの情報から、人生最大の投資となる住宅の建設地を決めますか?

私がお勧めしたいのは、「災害に遭うことを想定しておく」ことです。

  1. 災害に出会いやすい場所
  2. 災害に出会う可能性
  3. 災害に備える
  4. まとめ

1.災害に出会いやすい場所

災害に出会いやすい場所と出会いにくい場所があります。

この話は、何度となく取り上げているのですが、新たに災害で苦しむ人をみたくないので、何度も書きます。

水田に盛土した場所や川や湖の近くの土地は、低コストで購入できる場合が多いですが、洪水による浸水の可能性が高いという特徴があります。また、そういう場所は、地震に対しても弱い場合があります。ちなみに洪水で冠水すると場所によっては数日は水が引きません。写真1のような状態が何日か続きます。

2015年9月関東・東北豪雨の洪水被害の写真
写真1 平成27年9月関東・東北豪雨時に冠水した街並み

水田の下には比較的水はけのよい砂質土層が堆積している場合が多く、この地層が地震の揺れで液状化する可能性があります。また、厚い軟弱層は、地震の揺れを増幅し、住宅を倒壊させるかもしれません。

写真2 東日本大震災時に液状化によって地中に埋没してしまったアパート

一方、高台の土地は、水害に遭うリスクが、低地よりもはるかに低いものです。

ところが、最近は、豪雨時に、下水道などの排水施設があふれることで、洪水が発生することがあります。このため、高台だと安心していても、周囲よりも少し低い地域では豪雨時に冠水することがあります。特に、道路面よりも低い位置に駐車場を設けてる場合は注意が必要です。

また、「高台だ」だと思っていても、昔は谷だった(低地だった)場所(谷埋め盛土)も多く存在します。こういう場所は、地震時に谷を埋め立てた地盤が滑り出して、宅地に大きな被害を与えます。

とはいうものの、谷埋め盛土等の高台の中の人工地形を除けば、高台で災害に遭遇する可能性は、低地で災害に遭遇する可能性に比べればはるかに低いと言えます。

写真3 東日本大震災時に谷埋め盛土の滑動によって発生した宅地の被害状況

2.災害に出会う可能性

災害の中ではも水害には注意が必要です。

日本では、6月~7月にかけて梅雨の大雨、8月~10月にかけては台風による大雨が多いシーズンとなります。1年の半分くらいは「水害に出会う可能性が高まる時期」だということです。

「水害」は、河川や下水道の氾濫だけではありません。「崖崩れ」や「土石流」も雨によって引き起こされます。

このため、河川近傍やその周辺の低地だけではなく、崖地、高低差の激しい造成宅地、扇状地に拓かれた造成宅地等は、水害リスクが高いと考えておく必要があります。

こういう地域では、1年の半分は、災害に遭遇する危険性が高い状態にあると考えておかなければなりません。

地震についてはどうでしょう?

日本では、年中、どこかで地震が起きています。東日本大震災や熊本、胆振東地震等、住宅に大きな被害が出る地震は、数年に1度は発生しています。日本中で「地震が起きない場所」なんてものはありません。ただし、地震に因る被害を受けにくい場所はあります。

低地は、液状化や地震動の増幅等、地震の被害を受ける可能性が高い地形です。台地・段丘や山地は、地震の影響を受けにくい場所ですが、崖の近くのような高低差の大きい場所、谷埋め盛土のように、人の手が加わった場所は、被害を受ける可能性があると考えておく必要があります。

写真4 熊本地震で崩壊した擁壁の様子

3.災害に備える

私は、「避難する必要がないようにする」ことが重要だと考えています。

お年寄り、小さい子供さん、ペットがいる世帯は、避難所で長期間生活することはかなり難しいと思います。こういう方は、自宅で過ごせるように備えることをお勧めします。それができない場合は、被災時に、身を寄せることが出来る場所を確保し、その場所にどうやっていくか?ということを考えておくと良いでしょう。

地域が被災した場合に、自宅で過ごすためにはどうしたらよいかですが、第一歩として、災害の影響をあまり受けない土地を手に入れることです

その次に、災害に強い家を建てることです。

ご両親から譲り受けた土地が冠水する地域にある場合、自治体が発行するハザードマップで、浸水深を確認してください。その水深よりも上に居室が来るように住宅を建設してください。そうすることで、避難所での生活を最短にすることが可能になります。ただし、河川近傍の土地の場合、堤防を越えた水の流れで家が流されてしまうことがあります。これに対抗するためには、盛土をすることで、浸水深よりも土地を高くするということが考えられますが、個人の資金では困難な場合が多いです。このような土地にお住まいの方は、災害に遭う可能性がより低い地域への移動も考慮された方が良いかもしれません。

地震に対しては、今のところ性能表示制度での耐震等級3の住宅を作ることが、地震に強い家を造る近道です。この時、注意したいのは、地震によって地盤が崩壊しても、家が倒壊しないようにしておくことです。耐震等級3の家を造っても、写真4のように住宅に近接する擁壁が倒壊してしまっては、住宅も被害を受けざるを得ないでしょう

耐震等級3の住宅ではない場合、微動計測技術を利用して住宅の固有周期を計測しておき、必要に応じて、耐震補強することをお勧めします。また、地震後にも固有周期を計測し、固有周期が大きく変化していないことを確認しましょう。固有周期が大きく変化している場合、構造上主要な部材が破損している可能性がありますので、直ちに補修をするようにしましょう。

4.まとめ

60歳代の前半。退職間近で、災害によって家を失うことを考えてみてください。

老後は、自宅で生活することを想定して、老後資金を考えていた人にとっては、致命的な痛手ですよね?晩年に住宅を失った場合、老後の生活設計は完全に破綻します。

逆に言えば、家を失わなければ、大きな人生設計の狂いはないとも考えられます。

あなたが、大地震や大水害に遭わない可能性はゼロではありません。今、住宅建設用地を探しているなら、「『もしも』なんて生きているうちには来ない」と楽観的に考えるのではなく、「『もしも』の出来事は、明日来るかもしれない」と考えて、土地選びや住宅の構造について考えてください。

あなたの今の決断は、数十年後の人生に繋がっていることを忘れないでください。

神村真



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