今月は、色々な地盤補強工法の使い方(適用範囲)と補強の仕組みや施工方法から見た設計・施工上の注意事項を整理して示していきます。
今回は、柱状改良工法について。柱状改良工法は、おそらく、住宅分野では最もポピュラーな地盤補強工法でしょう。しかし、住宅分野で行われている柱状改良工事は、一般建築物で行われている柱状改良工事とは似て非なる者です。
なぜなら、住宅分野では、固化材の添加量を決める配合試験も、全長コアによる品質確認も行われていないからです。ここでは、住宅と一般建築物での柱状改良工事の違いを意識しながら、柱状改良工事の適切な利用方法を整理しました。
図-1に、平成13年国土交通省告示第1113号に示された沈下の影響検討が必要な条件を模式図で示します。SWS試験結果であるWswが 図中の条件に当てはまる場合、建物自重による地盤の沈下が建物に及ぼす影響を検討しなければなりません。
しかし、SWS試験だけでは沈下の影響を適切に評価することは難しいので、図-1の地盤条件である場合、地盤補強を行うことが一般的です。
基礎底面から下方に2mの範囲(図-1中の赤色の範囲)のみで、沈下の影響を検討する必要がある場合は、表層改良工法のような「平面地盤補強」が採用されますが、より深部(図ー1中の水色の範囲)で、沈下の影響を検討する必要がある場合、柱状改良工法や鋼管工法等の杭状地盤補強工法が採用されます。
ここで、柱状改良工法は、鋼管に比べると以下のような特徴があります。特に、三つ目の特徴(直径が大きい)によって、柱状改良工法は、鋼管よりも、補強体先端の地盤が比較的弱い場合でも適用できます。
しかし、材料強度が比較的小さいので、補強体先端の地盤の支持力が大きかったとしても、改良体強度を超える荷重を支えることができません。
これらのことから、柱状改良工法は、比較的浅い深度(3~5m程度)に換算N値が4~6程度の「そんなに強くないけど、沈下の可能性が低い地層」がある場合に、高い経済性を発揮します。
なお、セメント系固化材では固まらない土があります。このような土の堆積が明らかな場合は、事前に十分な検討を行う必要があります。
図-2に、杭状地盤補強の支持力成分の模式図を示します。杭状地盤補強は、杭状補強体周辺の「周面抵抗力(摩擦力)」と杭状補強体先端の「先端支持力」によって建物荷重を支持します。
先端支持力は、「地盤の強さ」と「補強体の断面積」に比例します。また、周面抵抗力は、「地盤の強さ」と「補強体の直径」に比例します。このため、杭状地盤補強の支持力は、地盤条件が同じなら、補強体の直径が大きいほどを大きくなります。
柱状改良体は、直径を大きくすることで、比較的弱い地盤でも、補強体の先端地盤として採用することが可能ですが、この場合、以下の点に注意が必要です。
図-3に、同じ場所で実施したSWS試験結果(左)と標準貫入試験結果(右:ボーリング調査結果)を示します。図から、SWS試験結果は、GL-5m付近から Nswが計測されています。この場合、換算N値は3以上となりますが、標準貫入試験結果では、N値は0から1が連続しています。
このSWS試験結果は、谷底平野等、腐植土が堆積しているような場所でよく見る特徴的な調査結果ですが、そのことを知らない技術者は、この「偽の回転層( Nsw>0の層)」を改良体の先端層とすることがあります。この場合、支持力不足で不同沈下を起こすこととなります。
(2)のような場所で新規盛土がされている場合で、地盤補強工事時点で、盛土自重による圧密沈下が完了していないことがあります。
この場合、補強体の周面には、盛土自重による周辺地盤の沈下による「負の摩擦力」が作用します(図-4参照)。この力は非常に大きく、設計時に外力として考慮しておかないと、柱状改良体が周辺地盤と一緒に沈下してしまうことになります。
私が、住宅分野での柱状改良の利用の中で最も気に入らない点は、品質管理がお粗末なことです。
一般建築物で柱状改良を行うと、多くの場合、ボーリング調査による土質確認と事前配合試験結果に基づいて固化材の配合量を決め、施工後には、改良体から全長コア(写真-1)を抜き出して、改良体の「出来」と強度確認を行います。
「住宅分野では上記検討を、一つもやりません」
なぜでしょう?「お金がかかるので、消費者に悪い」とでもいうのでしょうか?
私は、「品質が分からない改良体を地中に残すこと」の方が問題だと思います。まともなものを作ることにお金を掛けさせないなんて、異常です。
私は、10年ほど、住宅の地盤改良業者に勤務していたので、この「異常な状態」が普通に見えていました。しかし、この状態は明らかに「異常」です。
「柱状改良工法の工事費が安い」と言われる理由は、このような「行うべきこと」を行ってないからです。国土交通省は、「住宅は社会資本として扱うべきもの」と考えているようですので、こういうことについても、法整備を進めてもらいたいものです。
図-5に、柱状改良工法の施工工程の一例を示します。
柱状改良工法では、改良体の強度が設計で設定した強度以上になることと、改良体内の強度のばらつきが、想定範囲内に収めるために、深度1m区間での攪拌回数や固化材スラリー(固化材の水溶液)の充填量を一定の値以上になるように施工します。
一定の値以上と書きましたが、基準値を大きく超える施工は、経済性に影響を及ぼすので、施工機械のオペレーターは、基準値とほぼ等しい値で施工を行うことが求められます。
所定の品質を満足する改良体を作るために、施工機械のオペレーターは、以下の項目を同時に調整しています。
想像してください。地盤の強さは深度方向に変化しています。硬い地層に達すると、掘削攪拌装置の昇降速度が遅くなります。硬い層から軟らかい層に移動すれば、回転抵抗が急激に小さくなるので、それまでの攪拌速度では攪拌回数が大きくなりすぎます。このような深度1m区間での攪拌回数を調整すると同時に、固化材スラリーの吐出量も調整します。恐ろしく大変な制御だと思いませんか?施工機械のオペレーターは、この制御を、写真-2に示す施工管理装置の小さなモニターを見ながら行っているのです。
施工機械によって、回転速度の調整が無段階にできないもの、固化材スラリーの流量調整が容易にできないもの、流量調整できてもタイムラグがあるものなど、各項目の制御可能な精度には差があります。
固化材スラリーの濃度は、固化材添加量を確保する上で非常に重要な項目です。写真-3は、固化材スラリーの密度を計測するための道具(「棹はかり」です)です。左側の器の中に固化材スラリーを満たし、棹がバランスする箇所に、右側のオモリを移動させ、棹に書かれた数値を読み取ります。
写真のように容器の周りにスラリーが付着していては、固化材スラリーの密度を正確に計測できないので、容器はきれいに拭ってから、計測します。
スラリープラントで混錬された固化材スラリーは、工事開始前と工事中に何度か、この器具で密度計測を行い、固化材スラリーが所定の濃度であることを確認します。
現場での固化材充填量の妥当性を確認するためには、この固化材スラリーの密度と施工中の固化材吐出量の記録が必要です。しかし、住宅分野で、この密度管理はあまり実施されていません。配合試験と全長コアにより品質検査に加えて、この密度計測も現場で徹底してもらいたいものです。
住宅分野で柱状改良工法をさようした場合、品質検査方法に採用されるのがモールドコア法です。この方法は、写真-4に示すモールドコアを用いて、改良体の強度確認を行う方法です。所定深度や改良体頭部から採取した改良土をモールドに詰めて、7日養生した後に一軸圧縮強さを計測します。
この検査方法は、実際に作られた改良体から抜き出した全長コアの強度とモールドコアの強度比較データが十分にある場合は、運用に障害はありません。しかし、全長コア強度との比較実績が全くない場合、モールドコア強度が、実際の改良体の強度を適切に評価できているを保証できません。
実際に、全長コアの強度とモールドコアの強度を比較すると、モールドコア強度が全長コア強度よりも大きくなることが多く、このことを考慮した強度低減を行わないと、改良体強度を過大評価することがあります。特に固化しづらい土を含む現場では、強度を過大評価する可能性が高まります。
モールドコア強度が設計基準強度に対して十分に大きな値の場合は問題ありませんが、モールドコア強度が設計基準強度と大差がない場合は、改良体強度について確認することが望ましいと、私は考えています。
柱状改良工法は、「安くて融通の利く便利な工法」と巷では考えられているようですが、この工法の開発に何度も関わった私から見れば、この工法を安く発注する人の気が知れません。
施工機械のオペレーターには高い技能が求められるし、配合試験や品質検査等、結構面倒な作業を行わないと、適切な品質の改良体は作れないし、その品質を保証することもできません。
それなのに、巷では 「安くて融通の利く便利な工法」としてもてはやされています。
これは、配合試験も品質検査も適切な施工管理も行わない場合の柱状改良工法の姿です。本当の姿ではありません。しかし、この「偽の姿」が住宅分野では「標準」として扱われています。
なぜなら、高額な地盤補強工事は、消費者には「ウケが悪い」からです。
何かがおかしいと思いませんか?
神村真