• 地盤の専門家神村真による宅地防災の情報発信サイト

「地盤改良費が高いから安くして!」「もっと安くならないの?」「オタク高いから・・・」

工務店の方が何気なく発している言葉で、地盤改良会社は非常に傷ついています。消費者からの強いプレッシャーがあることも理解しますが、あまり業者を責めないでくださいね。

ところで、高い地盤改良工事費を抜本的に下げることができるのは、「建築士だ」ってご存じですか?

  1. 不思議な習慣
  2. 杭配置と構造計算
  3. 構造計算に基づく杭配置を
  4. まとめ

1.不思議な商慣習

住宅のための地盤改良(地盤補強)をすることになると、地盤改良業者が、地盤補強体(杭)の配置計画をします。

私が、住宅の地盤改良業者に入社したのは2006年頃ですが、この商習慣は今でも続いています。土木分野で構造物設計の経験がある私にとっては、この商習慣が非常に「不思議」でした。

地盤改良の計画は、地盤調査の直後に行うのですが、この時点で基礎伏図(基礎の立ち上がり部や人通口がどこにあるのかを示した図)がない場合があります。このため、地盤改良業者は、1階の平面図を見ながら杭の配置を考えます。1階の平面図から、柱位置を予想して、基礎の立ち上がり部分がどこを通るかを考えながら杭配置をしているんです。

地盤改良工事の数日前に杭伏せ図が届き、それに合わせて配置を多少調整し工事に着手する。こんなことが日常的に行われているのです。

発注者は、なぜ地盤改良業者に、こんな努力を強いるのでしょう?そもそも、杭の配置計画は、基礎の寸法や鉄筋量を知らないでできるものなのでしょうか?

答えは「否」。「できませ」。より正確に言えば、基礎の寸法や鉄筋量を考えることなく、「経済的な杭の配置計画」を行うことは不可能です。

2.杭配置と構造計算

図‐1は、杭が配置されていない場合に、基礎に作用する力の模式図です。

基礎は、柱から伝わる建物の重さによって地盤に押し付けられて、その反力として上向きの等分布荷重を受けます。

図‐2は、杭を配置した場合に基礎に作用する力の模式図です。建物の重さは、杭が負担しますので、地盤に伝わる力は激減します。このため、図-1で考えた基礎底面に働く上向きの等分布荷重を考える必要はなくなります。また、基礎は、二本の杭に支持された「単純梁」と考えることができるので、二本の杭で数本の柱から伝わる荷重を負担することが可能です(三本以上の杭に支持された「連続梁」と考えても問題ありません)。

図-1 杭がない場合に基礎に働く力
図‐2 杭がある場合に基礎に働く力

このように、杭を配置すると、基礎に働く力は、全く異なるものになるのです。

このため、地盤調査前に基礎仕様を決めていたのであれば、杭で地盤補強することが決まった時点で、基礎の構造計算をやり直さなければなりません。それほどの大きな差なのですが、実際には、改良業者は、基礎寸法や配筋仕様が決まっていない状態で、1階の平面図から杭配置を決めています。

地盤改良会社は、「杭が配置されることを想定していない基礎に杭を配置することで、基礎に構造上の不具合が生じる可能性があること」をある程度理解しています。このため、杭の配置計画時には、基礎に負担がかからないように、例えば、以下のような配慮をします。

  • 主要な柱が配置されそうな位置には必ず杭を配置する
  • 杭の打設間隔が1~1.25間(約1.8~2.3m)間隔よりも大きくならないようにする

このため、柱の下には杭を配置しなければならなくなり、非常に非効率な杭配置になります。その結果、配置した改良体本数は、建物を支持するために必要な本数を超える場合が現れます。

3.構造計算に基づく杭配置を

軟弱な地盤が厚い場合、杭の長さLが長くなります。

この時、2.で示したような基礎仕様を考慮せずに杭配置をすると、杭の本数が多く、長さも長いことで、地盤改良費用が非常に高額になります。

こういう場合、工務店は、より安い改良工事手法を探したり、薄い根拠で「地盤改良不要です」と言ってくれるサービスを探したりしがちですが、自分でできることがあります

基礎の構造計算を行うことです。

自分が設計した基礎と柱配置に対して、杭の打設間隔をどの程度広げられるかを、構造面から検討するのです。

主鉄筋をワンサイズ上げるとか、1本増やすなど、当初計画よりも基礎を補強することも加えると、杭の本数は大幅に減ります。

基礎の補強は、基礎の工事費用が増加するので、改良工事費の減額との関係を見ながら実施の要否を考える必要があります。また、杭の本数を減らしていくと杭1本当たりの負担荷重が増加します。このため、対象地の地盤調査結果から杭1本で確保できる支持力の範囲を、地盤改良業者に教えてもらう必要があります。

地盤改良会社に、基礎伏図も渡さずに、改良工事費用の提出を無理強いするような商慣習は辞めて、建築士が、構造計算結果に基づいて杭配置を決めてあげましょう。そうすることで、地盤改良業者の負担も減り、感謝されるでしょう。

なお、SWS試験で調査する深度はせいぜい地表面から下方に10mです。杭の本数を少なくすると、杭1本当たりの負担荷重が増えるので、比較的硬い地層が必要になりますが、SWS試験での調査範囲にこのような地盤がない場合があります。

こういう場合は、杭先端地盤が弱いことを前提にした上記とは別の検討が必要になりますが、こちらも構造計算を利用した合理的な杭配置ができます。この手法については別の機会にお話ししましょう。

4.まとめ

住宅の設計では、構造計算を行わないことが、非常に多いと聞きます。

何故でしょう?

私が、次に家を建てる時、構造計算を行わない工務店には絶対依頼しません。

自分自身で家を建ててみて・仕事柄多くの住宅に関わってきて、痛切に思う「実感」です。根拠を示せない工務店には仕事を依頼したくありません。

これから、家造りを学ぼうとする方は、苦手意識を持たずに、構造力学を使いこなせるように腕を磨かれることを強くお勧めします。

神村真



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