• 地盤の専門家神村真による宅地防災の情報発信サイト

最近の法改正と言えば、民法や建築士法の改正が目立ちますが、2020年は、不動産取引時の水害リスクの説明義務や災害ハザードリアの居住についての法律も大きく動き始めています。

今回は、不動産取引に関係する法律の今後の動きと、法改正によって生まれる新しい価値についてお話していきます。

  1. 水害リスクの説明義務
  2. 都市再生特別措置法の一部改正
  3. 消費者に求められること
  4. 法改正によって生まれる新しい価値

1.水害リスクの説明義務

現在、洪水や浸水のリスクについては宅地建物取引業法上の説明義務はありません 。

しかし近年、台風や大雨による甚大な洪水・浸水被害が発生していることなどから、不動産取引の際に水害リスクの説明を求める声が高まっています。

国土交通省は、2019年7月26日に不動産事業者の団体に対し、
“不動産取引時のハザードマップを活用した水害リスクの情報提供について(依頼)”
という文書を通じて、水害に関する情報を消費者に開示することを求めていました。

そして今年、令和2年1月27日の予算委員会で公明党の國重徹氏の質問、

「水害リスクの情報についても重要事項説明に加える、そのための法令上の措置をとる、これをぜひ進めていただきたいと思いますけれども、いかがでしょうか。」

これに対して赤羽大臣は、以下のように発言しました。

「水害リスクに係る説明を不動産取引上の重要事項説明として義務づけるという方向でしっかりと進めてまいります。」

防災の観点から、非常に大きな発言であったと私は思います。

不動産取引時の重要事項説明に、水害リスクに係る説明が追加される日も近いかもしれません。

2. 都市再生特別措置法の一部改正

令和2年2月27日には、「都市再生特別措置法の一部を改正する法律」が閣議決定されました。

この法律が成立すると、次の三つのことが行われます。

  • 災害ハザードエリアにおける新規立地の抑制
  • 災害ハザードエリアからの移転の促進
  • 災害ハザードエリアを踏まえた防災まちづくり

法案では、災害ハザードエリアをレッドゾーンとイエローゾーンに区分しています。

レッドゾーンは、災害危険区域(崖崩れ、出水等)、土砂災害特別警戒区域、地すべり防止区域、急傾斜地崩壊危険区域で、イエローゾーンは、レッドゾーン以外の災害ハザードエリア(浸水ハザードエリア等)です。

レッドゾーンでは、新規の居住も、居住の継続も制約される可能性があります。

1.に示した赤羽大臣の発言は、このような法整備からも裏付けられます。

3.消費者に求められること

法改正が行われることで、自分が住む場所が災害時に何らかのリスクを持つことを、住む前に知ることになります。

この情報から、消費者が考えなければならないことは、以下の三点です。

  • ハザードマップに示された災害の内容
  • ハザードマップから考えられるリスクに対処する必要性の有無
  • リスクに対処する方法の有無

1つずつ解説していきます。

ハザードマップに示された災害の内容

 洪水ハザードマップの場合、一級・二級河川の洪水時の浸水区域と深さのみが記載されているものが多いと思います。

都市部では、降雨量に対して排水能力が追いつかずに冠水する“内水氾濫”が多く発生しており、河川洪水の情報よりも内水氾濫の情報の方が、より重要である場合があります。

また、液状化についてのハザードマップの場合、危険度の予測範囲が広く、対象地の本当の危険が分からないものもあります。

つまり、ハザードマップだけでは、よくわからないことが多いのです。

このため、消費者は、業者任せにせず、自分が居住を希望する地域のハザードをできる限り詳しく調べる必要があります。

ハザードマップから考えられるリスクに対処する必要性の有無

 洪水リスクを例に考えてみましょう。

賃貸住宅の場合、比較的近くの安全な地域(例えば実家など)への避難が容易な人にとっては、あまり大きなリスクではありません。

家財は失う可能性がありますが、火災保険の水害オプションを用いれば、多くの家財は再購入が可能です。

パソコンなどのデータについても、日ごろからクラウドで保存する習慣をつけていれば、データ紛失のリスクも低減できます。

しかし、持ち家の場合は、状況が変わるはずです。

洪水によって自宅が流失した場合、再建の費用は保険で賄えるのか?再建期間中の住まいの問題はどうするか?

水が引いた後の後片付けも大変です。

持ち家の場合、洪水リスクは簡単に受容できるものではなさそうです。


このように、リスクに対して対処する必要がない場合とある場合があります。

このことは、各人の生活の状況によって大きく変化します。

同じハザードエリアでも、発生するリスクは、各人異なるのです。

リスクに対処する方法の有無

 リスクの中には対処できるものと対処できないものがあります。

液状化による被害が典型的です。

 自分の家は、液状化対策を行い、万全の体制をとっていても、その住宅の周辺の上下水道が液状化被害を受ければ、結果として被災します。

このように、外部からやってくるリスクは、自分たちでは対処できません。

同様に、対策方法は存在するけれども、その方法を採用することは、経済的に難しいという場合もあります。


以上のことから、消費者は①どんなリスクがあるのか?②そのリスクは受容可能か?③受容不可能なリスクに対処する方法はあるのか?という、三つのことを考える必要があります。

4.法改正によって生まれる新しい価値

消費者は、リスクについて先述した三つのことを考える必要があります。

しかし、一般の方々にとって、災害リスクを考えることは不慣れなことですから、サポートする人が必要です。

私は、不動産業者や工務店の方に、この役割を担って頂きたいと考えています。

10年以上前から、不動産業者や工務店の営業の方は、ファイナンシャルプランニングの勉強をよくされているように感じます。

その知識は、災害リスクを考慮した住宅ローンの返済プランの提案に役立ちます。

このことは、不動産業者や工務店の方々に与えられた、新しい価値ではないでしょうか。

1.や2.で示したように、不動産の売買契約時に、これまで以上に災害ハザードエリアに関する説明が求められるようになります。

また、都市再生特別措置法は、高度成長期からバブル期までに拡大した都市圏を、これからの人口減少に見合った効率の良い都市に変えていくための法律なので、地方自治体が作る立地適正化計画(都市計画)によっては、イエローゾーンでも居住誘導地域から外されることが考えられます。

事業者は、このような各地域での実情を理解して、消費者に情報を伝達する必要があります。

このような、地域ごとのハザードに関する知識や住む人それぞれのリスクを抽出できる力と、ファイナンシャルプランニングの知識が融合すれば、不動産業者や工務店の営業の方々は、消費者にとって必要不可欠な存在になるのではないでしょうか?


法律の改正や考え方の変化は、新しい価値を生み出します。

不動産業者様や工務店の営業窓口の方達が、ファイナンシャルプランナーとして、災害リスクコンサルタントをすることは、消費者にとっては新しい価値だと思います。

また、災害リスクを考える機会が増えることが、災害に強い強靭な地域を作り出す原動力になるのではないでしょうか?


神村真



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