「どこに家を建てるか」でお悩みの方は多いと思います。
この時「どこが便利か」ということが重要になりがちですが、もう一つ、「どこが安全か」ということを思い返していただきたいのです。
建物の「安全」「安心」には、多くの方が関心を示しますが、その前に「どこが安全か」を大切にすることをお勧めします。
今回は「どこが安全か」を考えていくときに重要になる「地形」のお話をします。
狩猟が中心だったといわれる縄文時代の住居跡だけではなく、稲作中心の生活をしていた弥生時代の集落も比較的高台にあります。
古代には、大規模な治山治水工事を行うほどの為政者はいないので、村単位で安全を考えると、水害リスクのある低地には住めなかったのでしょう。
その後、日本全国を支配するような権力者が現れると、食料増産のために治山治水工事や新田開発が行われるようになり、人々の生活圏が、より河川に近づきます。
それでも、少しでも標高の高い場所に集落を形成し、コメの貯蔵庫は盛土してかさ上げするなどの対策が取られていました。
江戸期になると新田開発や都市開発はさらに進化し、もともと海だった場所を陸地にするような大規模な工事が行われるようになりました。
人々の生活圏はさら広がりましたが、それを可能にしたのは、河川の付け替えや河川堤防の築造などの大規模治水事業でした。
現代でも河川の浚渫や堤防のかさ上げ、放水路や地下遊水地の建設など、日々、水害リスクを軽減するための公共工事が行われています。
このような工事の恩恵として、人々の居住地は拡大をし続け、居住地と労働地を近づけることができ、利便性が向上していったわけですが、これらの工事は、すべてのリスクを取り除いたわけではありません。
特に現在の災害対策構造物は、せいぜい明治時代以降の150年程度の期間に記録された情報をもとに設計されたものでしかありません。
そこには、古文書や石碑に残された情報は関与していないので、150年間ほどの過去の記録を超える現象が発生すると、対策は役に立たなくなります。
その証拠に、大きな洪水が起こった場所には、過去にも洪水に見舞われたことが古文書などに記録されているケースが多々あります。
土石流災害が発生した沢筋に残された小さな祠や、津波が来たことを記す石碑など、災害の記録は至る所に見られます。
このように、多くの住宅が建設されているからとか、建築許可が下りたから安心できるわけではないのです。
本当の安心を得るためには、自ら情報を収集し、その場所にあるリスクを見極めて、そのリスクをどのように受容するかを考える必要があります。
家と土地は、個人の所有物です。
所有物がどのような危険にさらされているかは、各人が理解しておくべき事柄で、誰かがどうにかしてくれることではありません。
以前も述べましたが、私はこのようなリスク評価や適切な対策に関するコンサルティングこそ、土地売買や建築のプロフェッショナルである、宅建士や建築士が持つべき新しい価値だと考えています。
地形を確認する方法の代表的な方法は地形図を見ることですが、見慣れない人には少し難しいかもしれません。
大都市圏では、国土地理院が「土地条件図」という地形区分図を公開しています。
ここでは、地形の調べ方と、私の考える地形と災害に対する安心感の関係を示します。
まず、国土地理院が提供する地理院地図というサービスサイトに行きます。
左上の“地図”をクリックすると、地図の種類メニューが表示されます。
(下図と表示が違う場合は、上中央部の“初期表示”ボタンを押すと図と同じ表示になります)
次に、“土地の成り立ち・土地利用”→“土地条件図”を選択
“数値地図25000(土地条件)”を選択すると、右の地図のネズミ色で塗られた地域で土地条件図を見ることができます。
※ネズミ色の着色がない地域では、土地条件図を見ることができません。
調べたい地域(ネズミ色の着色地域)を画面中央に持ってきて画面を拡大、または、住所を検索すると、土地条件図が表示されます。
土地条件図を初めて見る人には、この色の違いが意味することが分からないと思います。
その場合は、数値地図25000(土地条件)右の“!”マークをクリックすると凡例が表示されます。
私の考える、 各地形と災害に対する安心感の関係を 表-1に示します。
土地条件図とこの表を照らし合わせると、お目当ての地域の災害に対する安心感を、ざっくりとですが把握することができると思います。
表-1 地形と災害に対する安心感の関係
各地形の成り立ちや災害との関連性については、機会をみつけてお話していきます。
ここでは、お目当ての地域の地形と災害との関係を確認する方法をマスターしてください。
また、土地条件図が作られていない地域の地形確認方法についても、後日紹介いたします。
では、宅地に適した地形はどんな地形でしょうか。
それを考えるには、地形と地盤の関係を知っておくことが重要です。
私は、「地盤」は構造物をささえるための一材料だと考えています。
「地盤」は、建築で扱われるその他の材料に比べて、多様性に富む点が最大の特徴です。
「地盤」は、岩や土・水・空気で作られていますが、場所によって、岩や土の種類、水や空気の割合がさまざまに変化します。
また、地層といって、様々な時代の土が幾重にも重なっているので、深度方向にも材料の性質が様々に変化します。
つまり、とても不均質な材料なのです。
この不均質な材料が、住宅を長年に渡って安全に支えることができるか。
このことを慎重に考えておかなければなりません。
先ほど挙げた、岩や土・水・空気のうち、「地盤」の性質に大きな影響を及ぼすものの一つが「岩や土の種類」です。
この「岩や土の種類」が変わると、土の性質は大きく変わります。
そしてその種類は、「地形」によって変化します。
表-2に、地形と土質の関係に加えて、その土の強度や沈下の可能性の一般的な見解を私が整理し、宅地としての適性を評価したものを示します。
住宅分野で多用される地盤調査方法であるスウェーデン式サウンディング試験は、土質を調べることができません。
このため、住宅建設のための地盤調査では、地形を知ることが非常に重要になります。
表-2 地形と宅地としての適性
2.で示した表-1や3.で示した表-2から、地形によって宅地の適性に大きな差があることが分かります。
土地条件図と様々なハザードマップを合わせて見れば、さらにその傾向が把握できます。
さて、私は宅地としての適性が低いなら、住まない方がよいと言っているのではありません。
適性が低くても、リスク対策が適切に取られていれば「安心」を得ることは可能です。
しかし、実際に確認していくと気づくことですが、宅地としての適正が低い場合、安心を得るためにとるべき対策が多く、全てのリスクに対処するためには非常に多くの費用が必要になります。
それでは、どうやって「安心」を確保するのか?
答えは「分別」することです。
「分別」するということは、リスクを受容可能なものと不可能なものに分けることです。
以前にも書きましたが、全てのリスクを受容可能な状態にすれば「安心」を手に入れられます。
リスクを受容可能な状態にする方法を考えるのが、不動産業者や建築士の役割です。
宅地の耐震性などに関しては、私たち土木系技術者もお役に立てることが多々あります。
毎回同じ話で恐縮ですが、私は住宅分野では、このような災害に対するソリューションの提供を行うことは、新しい価値だと思います。
建築と土木の技術者が手を取り合うことで、住宅が時代を超えて存在するインフラになる。
それが、本来あるべき姿だと、私は考えています。
神村真