そろそろ梅雨入りの話題が出始めていますね。
前回は、液状化リスクに関する考え方について書きましたが、今回は、低地での洪水に関わるリスクについて考えてみました。
生きている間に災害にあう可能性は人のよらず50%です。
しかし、損害を被る可能性は、人によって変わります。
リスクを適切に評価し、対策をとっている人の損害はおそらく僅かでしょうが、運を天に任せている人の損害は甚大なものになるでしょう。
低地に損害をもたらす災害は、洪水(高潮含む)、土砂災害、地震(津波含む)とほぼ全ての自然災害が含まれます。
低地は非常にリスクの高い地域なので、何もしなければ生きている間に何らかの損害を被ることになります。
特に、我が国では6月から10月には“雨季”が到来しますので、降雨に関係する洪水のリスクは、その他のものより高いと言えます。
土砂災害も雨に関係しますが、洪水よりもさらに立地条件に強く左右されるので、今回は洪水に絞ってお話をします。
私自身も「大きな川が氾濫するわけない」と、どこかで考えていますが、そんなことはありません。
2019年の台風19号による豪雨の際には、国管理河川の12か所、県管理河川の128か所で堤防が決壊しています。
出典:国土交通省,第1回 気候変動を踏まえた水害対策検討小委員会 配布資料
【資料6】令和元年台風第19号による被害(PDF形式:19.2MB)
“低地に家を建てる”ことは、災害によって大きな損害を受ける可能性がある行為です。
このことを、私を含めて現代人は忘れがちです。
これは、国が毎年多くの予算をつぎ込んで防災設備の強靭化を図っていった効果を、我々が享受してきたためですが、そのイメージは今でも当てはまるのでしょうか?
図-2は、防災白書に示された防災関連予算の推移です。
1997年頃~2011年まで防災関連予算は、減額の一途をたどっています。
2013年以降、防災関連予算は急激に回復しますが、大半は東日本大震災後の災害復旧のための予算です。
このことは、防災関連施設への投資は、この30年間は、あまりなされて来なかったことを示しています。
ところが、この30年の間に豪雨の発生頻度は増加しています。
低地に住むリスクは上がっていると考えた方が妥当でしょう。
出典:内閣府ホームページ(http://www.bousai.go.jp/kaigirep/hakusho/h31/honbun/3b_6s_33_00.html )
低地に住むにはそれなりの覚悟が必要です。
覚悟するためには、どのような損害が生じるかを知る必要があります。
以下に、洪水で発生する被害を列挙してみました。
低地に自宅を建設するということは、このようなリスク(損害)を受け入れるということです。
なお、火災保険とその特約や地震保険に加入していればリスクは担保できるのでしょうか?
答えはノーです。
各種保険は失った住宅や家財道具を100%カバーできるものではありません。
保険加入時には、その内容をよく確認し、カバーされないリスクを十分に理解し、災害遭遇時の資金調達方法についてシミュレーションしておくことが大切です。
低地に住宅を建設する場合、保険料や個人での準備費用も含め、どの程度の投資を行うか(どの程度の予算で住宅を建設するか)を熟考する必要があります。
ご自分で考えることが難しい場合は、ファイナンシャルプランナーなどに相談するとよいでしょう。
ファイナンシャルプランナーの清水香さんの著者『どんな災害でもお金とくらしを守る』(小学館)は、災害とお金のことが分かりやすく書かれています。
生まれ育った町だったり、子供の学校のことだったり、毎日の通勤のことを考えると、利便性の高い低地はやはり魅力的です。
私も、今は低地に住んでいます。
便利です。
しかし、そこに家を建てるのなら、以下のことを検討してください。
浸水深が1m程度までなら、地盤のかさ上げと基礎の高さで、床上浸水を回避できる可能性があります。
万が一逃げ遅れても、浸水深以上に階数があれば、上階に移動することで助かる可能性が残ります。
また、貴重品を浸水深以上の階に置いておくのも有効です。
水害や津波の被災者の声に、『写真類を失ったことが残念だった』というものがあります。
大事な思い出の写真は浸水深以上の階に保管しておくとよいでしょう。
床下浸水程度の洪水時に、基礎内部に泥を入れてしまいます。
設備を後付けする際に基礎に穴をあけることがありますが、開口部の処理には、十分に配慮しましょう。
洪水の際に、泥水が基礎下を洗い流すことで、住宅が傾斜することがあります。
セメント系固化材による柱状改良工法や鋼管を用いた工法で地盤補強しておけば、基礎下が洗い流されても、住宅が傾斜することは避けられます。
ソフト面では、避難ルールを決めておきましょう。
豪雨の可能性が報道された場合、行うべき行動を事前に定めておきます。
そして、このルールを徹底します。
以下に、ルール作りの検討項目例を挙げます。
ルール作りの第一は、避難開始の条件です。
浸水深が2階天井まで到達するような地域では、警戒レベル3で避難開始を判断することを勧めます。
ご家族やペットのことを考えると、避難所暮らしが難しい人は、浸水範囲以外の宿泊施設(ペットと暮らしている人はペット用の宿泊施設も)を3か所程度リストアップしておきます。
年に何度か防災訓練を兼ねてこれらの施設を利用し、便利のよい場所を調べておくことをお勧めします。
「お父さん以外の家族は避難開始。お父さんは出張中。」という状況は起こりえます。
こういう場合に家族で共通の連絡方法を定めておきましょう。
インターネットの通信アプリやSNSアプリが有効でしょうが、通信環境が悪化した場合を考えて、災害用伝言ダイヤル(171)の使い方も確認しておきましょう。
小さい子供がいる世帯やペットと暮らしている人は、少なくても1日分の着替えやミルク等、必要なものを一式、いつでも持ち出せるようにしておきましょう。
大人と自分で行動できる子供については、2日分程度の着替えを用意しましょう。
その他のものは、浸水範囲外であれば、雨が上がればなんとかなります。
これらの準備品は、洪水リスクが高まる6月までに賞味期限等をチェックし、商品を入れ替える等、雨のシーズン前に準備しておきます。
なお、長嶋修氏とさくら事務所の皆様の『災害に強い住宅選び』(日経プレミアムシリーズ)には、浸水地域でのリスクが、より具体的に書かれています。
低地で住宅探しをしている方は、一度読まれることをお勧めします。
防災関連施設(ダムや堤防や下水道)は、想定される最大降雨に対して設計されています。
このため、想定している降雨よりも多くの雨が降ると、防災関連施設は容量不足となり、洪水が発生します。
我が国では、雨量について数字での記録が始まったのは明治以降で、約150年分の情報しかありません。
気候は非常に長いスパンで変化します。
記録されていない豪雨がいつ発生するかは誰にもわかりません。
そんな環境下で、低地に住宅を建設するためには、しっかりしたリスク管理が必要です。
今回は、最近刊行された2冊の書籍を紹介させて頂きました。
リスク管理に役立つ情報が満載ですので、是非一読下さい。
住宅の建設は、消費者にとっては最大のイベントです。住宅は住み始めたあともいろいろとお金のかかるものですので、投資対効果をよく考えて、災害によって損をしないようにしたいものですね。
神村真