スウェーデン式サウンディング試験結果のみから沈下量を予測することがしばしば求められます。
これは、前回のブログで示した告示1113号の記述によるものと考えられます。
“液状化の可能性がある場合や、以下の二条件のうちいずれかを満足する場合は、建物の自重で発生する沈下が建物に有害な影響を及ぼさないことを確認しなければならない”
平成13年国土交通省告示1113号
また、平成12年建設省告示第1653号では、建築物の場合、許容可能な傾斜角は3/1,000未満で、これを超えると何らかの瑕疵の可能性があり、傾斜角が6/1,000を超えると確実に瑕疵が存在すると判断できるとしています。
3/1,000とは、1mに対して3mmの高低差があることです。
さて、スウェーデン式サウンディング試験結果のみから算出した沈下量は、このような高い精度で沈下量を予測できるのでしょうか?
今回は、算出された沈下量を正しく読むために知っておきたいスウェーデン式サウンディング試験の3つの課題についてお伝えします。
“沈下”とは、建物荷重によって地盤が縮むことで、地表面が下がることです。
沈下には、次の二種類があります。
即時沈下の大小は、長期許容支持力度(地盤の強さ)の大小と関係が強く、長期許容支持力度が建物を支持可能な大きさであれば、即時沈下の検討は不要と考えられています。(日本建築学会:小規模建築物基礎設計,p.79)
この「長期許容支持力」は、スウェーデン式サウンディング試験結果から求めることができます。
地下水位より下にある粘性土地盤に建物荷重が伝達されると、粘性土地盤の間隙が収縮する際に、地下水が間隙から逃げ出します。
ところが、粘性土の間隙は狭く、間隙の水は容易に移動できません。
このため、沈下の発生に時間遅れが発生します。
この圧密沈下量の予測のためには、次の4つの項目を把握する必要がありますが、下3つの地層構成についての項目は、スウェーデン式サウンディング試験だけでは確定することができません。
このため、スウェーデン式サウンディング試験では正確な圧密沈下量は予測できないのです。
図-2は、同じ敷地内で実施した、スウェーデン式サウンディング試験の結果と標準貫入試験(ボーリング調査)の結果です。
スウェーデン式サウンディング試験結果では換算N値が3を超える値(グラフで赤破線を超えている部分)を示している深度でも、標準貫入試験結果であるN値はゼロを示しています。
このような差異は、スウェーデン式サウンディング試験の試験方法に起因して発生します。
図-3に、スウェーデン式サウンディング試験に用いるスクリューポイントとロッドと地盤の関係を示します。
地盤がある程度以上の硬さを有していれば、スクリューポイントを貫入させたことで、地盤が押しのけられ、ロッドと地盤が接触することはありません。
このため、試験中に発生する抵抗は、スクリューポイントと地盤のみとなります。
これが正しい試験の状態です。
ところが、地下水位以下の軟弱な地盤では、試験中に地盤がロッドにもたれかかってしまい、ロッドと地盤の間で摩擦が生じます。
スウェーデン式サウンディング試験は、スクリューポイントのみの貫入抵抗を計測する試験方法なので、ロッド周面の摩擦力が加算されてしまうと、地盤の強さを過大評価することになります。
一方、標準貫入試験では、ロッド周面に摩擦力が作用しないような試験方法を採用しています。
このため、二つの試験方法で調査結果が大きく異なることとなります。
日本建築学会は、圧密沈下の検討が必要な地盤として、スウェーデン式サウンディング試験結果であるWswが0.75kN程度以下、標準貫入試験結果であるN値がゼロの地盤を挙げています(小規模建築物基礎設計,p.85)。
このため、スウェーデン式サウンディング試験のみでは、圧密沈下の検討が必要な地層の有無を見逃す可能性があります。
ちなみに、経験豊富な調査技術者であれば、資料調査の段階で、図-2のような試験結果が得られる可能性をあらかじめ想定しています。
沈下量の予測を嫌がる調査技術者もいると思いますが、彼らは、このような調査結果の場合に、沈下量を過小評価する場合があることを知っているので、数値として沈下量を出すことを嫌うのです。
なぜなら、本当は地盤補強が必要なのに、地盤補強が不要なように見えてしまうからです。
以上のことから、スウェーデン式サウンディング試験結果のみでは、沈下量を予測するために必要な条件を確認することができないことが分かりました。
ここでは、仮に沈下量を予測するために必要な条件が分かったとして、スウェーデン式サウンディング試験結果のみで、沈下量を予測できるかどうかを確認してみましょう。
日本建築学会は、沈下量の予測式を示しています。
それぞれの計算式とそこで使われる値の求め方を見ていきましょう。
日本建築学会の小規模建築物基礎設計指針には、以下のような二つの沈下量の計算式が示されています。
$S=\dfrac {C_{c}\cdot H}{1+e_{0}}\log \left( 1+\dfrac {\Delta \sigma }{P_{c}}\right) $・・・式(1)
$S=m_{v}\cdot \Delta \sigma \cdot H $ ・・・式(2)
ざっくりとしたそれぞれの記号の意味は、下図の通りです。
式に書かれると難しく感じますが、次の3つの項目が分かれば、どちらの式も使用できるということです。
それぞれの式に、3つの項目が確認できますね。(式(2)では、”土の重さ”を考える必要がないので、式中に”土の重さ”は現れません)
この2つの式は、並べて書かれているので、まったく同じ意味の式と思われがちですが、使える土の種類が違います。
式(1)は、“正規圧密”の粘性土を対象とした式です。
式(2)は、“正規圧密”の粘性土でも“過圧密”の粘性土でも適用できる式です。
ここで、“正規圧密”と“過圧密”について簡単に説明します。
圧密沈下が生じる地層のことを圧密対象層とか圧密層と呼びます。
この圧密対象層は大きく分けて次の2種類に分類されます。
現在の荷重レベルを経験済みの圧密対象層。
建物荷重によって大きな沈下が発生する可能性は少ない。
現在の荷重レベルを初めて経験した圧密対象層。
沈下は終了している。
建物荷重によって大きな沈下が発生する可能性がある。
過圧密は「経験豊富なベテラン社員」、正規圧密は「入社後1年目の新米社員」のようにイメージしてください。
「ベテラン社員」はストレスを感じることなく多くの業務をこなすことができますが、「新米社員」に多くの仕事を任せると強いストレスを感じて辞めてしまうかもしれません。
土も人と同じように、経験したことには対応できますが、未経験のことには対応できず沈下するのです。
この二種類の圧密を区別する方法については、より多くの紙面が必要になるので別の機会に書きたいと思います。
小規模建築物基礎設計指針には、先ほど示した二つの式に登場する地盤定数の決定方法が示されています。
図-5に、式(1)と式(2)で使用する“土の縮みやすさ”に関する係数を求めるための式を示しました。
式(1-1)、式(1-2)から、式(1)を使うためには、”自然含水比”が必要であることが分かります。
この”自然含水比”を知るには、スウェーデン式サウンディング試験結果だけではなく、土質試験の実施が必要です。
土質試験は、圧密対象層から土を採取してきて、実験室で行う試験です。
式(2)の中の$m_{v}$を求めるためには、二種類の式が用意されています。
式(2-1)は、正規圧密でも過圧密でも使える式。
式(2-2)は、過圧密で使える式です。
式(2-1)は”自然含水比”が必要ですが、式(2-2)はスウェーデン式サウンディング試験結果のみで使用可能です。
さて、表-1に、これらの式を整理して示しました。
表-1 式(1)(2)の適用条件
この表から、スウェーデン式サウンディング試験結果のみで沈下量の予測が可能なものは、過圧密の地盤だけであることが分かります。
正規圧密地盤の沈下量を求めるためには、土質試験の実施が欠かせないのです。
このように、スウェーデン式サウンディング試験結果のみを利用して算出できる沈下量は、限られたケースにおいてだけなのです。
小規模建築物基礎設計指針(p.81)では、ほとんどの沖積層(完新統地層)はわずかに過圧密の状態にあると記しています。
わずかに過圧密であれば、接地圧を小さくすることで、過圧密状態を維持して、発生沈下量を小さく抑えることが可能です。
このため、式(2)と式(2-2)を使ってスウェーデン式サウンディング試験結果のみから圧密沈下量を予測することが可能です。
ただし、これは自然状態でのお話です。
近年開発されている新しい造成宅地は、沖積層が堆積する水田跡地に盛土した場所が多いのですが、この場合、わずかに過圧密だった沖積層は正規圧密になっていると考えられます(図-6参照)。
このことからも、スウェーデン式サウンディング試験結果のみで沈下量を予測できる場所は、非常に限定的であることが分かります。
このように、スウェーデン式サウンディング試験結果のみでは、圧密沈下量を“正確”に予測することは不可能です。
ところが、この5年から10年くらいの間に、沈下量の計算を求められるケースが増えてきたように感じます。
実務の世界では、今回の内容のような沈下量推定の難しさを理解した上で、敷地内での沈下量に大きなばらつきがないことを一般の方にもわかるようにするために、スウェーデン式サウンディング試験結果のみから沈下量を算出しています。
この方法は、不同沈下事故を回避するためには有効です。
しかし、この程度の確認であれば、経験豊富な調査技術者は、敷地内の各測点でのスウェーデン式サウンディング試験結果を比較することで容易に判断することができます。
計算結果(推測・予測)は参考であって、試験結果(事実)の考察が第一にあるべきだと、私は考えています。
皆様、数字には惑わされぬようにお気を付けください。
神村真