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 住宅分野で多用されている地盤補強工法の一つに、柱状改良工法があります。

この工法を使った地盤改良工事の市場価格(改良業者の売値)は低く、私が地盤改良工事会社にいたころから、利益を出しにくい工事でした。

私は、この低価格化には、大きな問題があると考えています。

今回、次回は、二度にわたって、安い柱状改良工事の問題に触れていきたいと思います。

前編の今回は、柱状改良工法がどのような工事で、どのようなトラブルが起こる可能性があるかについてみていきます。

  1. 柱状改良工法とはどんなものか?
  2. 柱状改良工法で発生するトラブルとその原因
  3. やるべきことをやらないから低価格
  4. まとめ

1.   柱状改良工法とはどんなものか?

まずは、柱状改良工法とはどのようなものか見ていきましょう。

図-1に、使用する設備を示します。

図-1 柱状改良の設備

柱状改良は3つの設備が必要です。

  • スラリープラントと圧送ポンプ
  • 水槽
  • 地盤改良機

スラリープラントは、固化材(セメント系と石灰系があります。主にセメント系が使用されています)と水を所定の濃度になるように練り混ぜる装置です。

練り混ぜた固化材の水溶液(固化材スラリーと呼びます)は、圧送ポンプで地盤改良機に送られます。

地盤改良機は、先端に掘削攪拌ビットを取り付けたロッドを装備しています。

固化材スラリーは、掘削攪拌ビット先端部から噴出します。

掘削攪拌ビットを回転させながら地中に押し込むことで、土と固化材スラリーを攪拌混合し、地中に円柱状の改良体を作ります。

図-2に、柱状改良工法の工事手順を示します。

(i) ダブル施工

(ii)シングル施工

図-2 柱状改良工法の工事手順

柱状改良工法による改良体を作る施工手順には、大きく分けて二種類の決まった手順があります。

一般的な方法は、最初の1往復で固化材スラリーを手早く地中に充填し、二往復目で土と固化材スラリーを十分に攪拌混合する方法です。

二往復するので“ダブル施工”と呼ばれることがあります。

もう一つの手順は、技術審査証明や性能証明といった第三者機関で技術の証明を受けている工法の多くが採用している手順です。

最初の掘削時に固化材スラリーを地中に充填し、引き上げ時に攪拌する方法です。

掘削攪拌ビットが1往復するので、“シングル施工”と呼ばれたりします。

2.   柱状改良工法で発生するトラブルとその原因

 1.で示したように、現場で固化材スラリーを土と攪拌混合して地中に柱状改良体を作る工事では、工場製品と違って以下に挙げるような様々なトラブルが発生します。

ここでは、改良体の品質に関わる“改良体が固まらない”について見ていきましょう。

その他の項目は、後編でお送りします。

  • 改良体が固まらない
  • 固化材スラリーの噴出
  • 改良工事をしたけど沈下した
改良体が固まらない(必要な強度が得られない)

柱状改良工法では、完成した改良体が持っていなければならない強度が決まっています。

ところが、改良体が必要強度に達していない場合があります。

このトラブルの発生原因は、以下の三点です。

  1. 固まりにくい土質
  2. 施工不良
  3. 品質管理の落とし穴
1.固まりにくい土

 以下の土質は、セメント系固化材と相性が悪く、発現強度が一般の土よりも低くなります。

  • 腐植土や高有機質土のように酸性を呈した土
  • 関東ローム層等の火山灰質土

このような特殊な土専用の固化材が販売されているので、これらの土の存在が明らかな場合は、専用の固化材を使用します。

土質に関する固化不良の原因は、事前に配合試験をしないことにあります。

配合試験とは、改良する土を現地で採取し、試験室で固化材と混合し、どのような配合で固化材を添加する必要があるかを確認する試験です。

配合試験は極めて一般的な試験ですが、住宅建設時の地盤改良工事で配合試験を行うことは、ほとんどありません。

2.施工不良

柱状改良工法の基本は、最初に固化材スラリーを均等に充填し、その後、丁寧に攪拌することです。

このため、柱状改良の品質確保に必要な攪拌回数として、“羽根切り回数”を定義し、品質確保に必要な最低限の羽根切り回数が規定されます。

羽根切り回数は、攪拌翼の枚数×1m当たりの掘削攪拌ビットの回転数です。

私が経験した固化不良の事例の多くは、この基本が守られていませんでした。

短時間に多くの改良体を作ることが求められる住宅分野での工事では、改良体一本当たりの施工時間を短くすることが求められるためです。

特に問題になりやすいのは、以下の二点です。

【問題①】引上げ時のスラリー吐出
 掘削攪拌ビットを“引き上げる際”に固化材スラリーを吐出し、この工程の攪拌回数を品質確保のための攪拌回数としてカウントしていること

【問題②】引上げ時の速度超過
 引上げ工程での引き上げ速度が回転速度に対して速すぎること

【問題①】引上げ時のスラリー吐出

図-3 掘削撹拌ビットの例

掘削攪拌ビットの形状を図-3に示します。

固化材スラリーの出口は、掘削攪拌ビットの最低部に位置しています。

このため、引上げ工程で充填された固化材スラリーは、土と攪拌されることはありません。

それだけではなく、すでに貫入時に固化材スラリーを攪拌混合した土の中に固化材スラリーが取り残された状態となるので、貫入時の攪拌混合の効果さえ失われてしまいます。

この影響は、粘性が強く攪拌が難しい土で顕在化します。

【問題②】引上げ速度の超過

図-4 引上げ速度の影響

掘削攪拌ビットの多くは、攪拌翼として板材を使用しています。

これは、引上げ工程で攪拌した改良体を下向きに押し付ける効果を期待しているからです。

引き上げ時の掘削攪拌装置の軌跡が水平面となす角度Aが、攪拌翼の取り付け角度Bよりも小さければ、改良体を下向きに押す力は生まれますが、AがBよりも大きくなると、改良土を上方に持ち上げる力が生まれます。

この力は、改良体を不均質にすることになります。

3.品質管理の落とし穴

住宅分野以外では、配合試験を行い、事前に適切な固化材の種類や量を決めることをお話しましたが、住宅分野と住宅分野以外での大きな違いがもう一つあります。

それは、完成した改良体の強度検査方法です。

住宅分野以外の地盤改良工事では、完成した改良体から、ボーリングマシンを使って、“全長コア”を採取します。

写真-1に示す棒状のものが、改良体から採取された全長コアです。

写真-1 全長コアの例

このコアを採取することで、改良体が深度方向に均質であることを確認することができます。

また、必要な深度区間から試験体を切り出し、強度確認をすることが可能です。

一方、住宅分野では、施工直後のまだ固まらない改良体から改良土を採取し、これを地上で専用容器(モールド)に詰めて強度確認用のサンプルを作ります。

このサンプルは、“全長コア”に対して“モールドコア”などと呼ばれます。

この方法だと、改良体の深度方向の様子を確認することができません。

また、モールドコアの直径は5cm、高さは10cmしかないので、試験体内に小石などが混入すると試験結果に影響を及ぼすため、異物を丁寧に除去します。

これでは、改良体の本当の強度を確認することは困難です。

先に述べた第三者機関で技術の証明を受けている工法では、“全長コア”と“モールドコア”での強度比較を行い、”モールドコア“による品質管理方法を設定しています。

住宅業界で、柱状改良工事が安い原因は、本来行うべき、“配合試験”と“全長コアによる品質検査”を行っていないためです。

全長コアを採取しないことは、完成した改良体が本当に所定の品質を有していることを確認できないことですので、非常に大きな問題です。

3.   やるべきことをやらないから低価格

柱状改良体の設計で支持力の次に大切なことは、設計基準強度を決めることです。

現場で、設計基準強度を満足するために、どのような配合で固化材と水と土を混ぜるべきかを決めるための試験が“配合試験”です。

配合試験結果と改良体の強度の“ばらつき”から、施工する改良体が設計基準強度を満足できることを予測します。

改良体の強度の“ばらつき”は、“全長コア”を見ることで確認できます。

※強度の“ばらつき”は、同一土質から採取した“全長コア”から切り出した試験体25本以上の強度から求めます。ここでは、全長コアの状態を確認することで、強度のばらつきがないことを定性的に確認できることを示しています。

住宅分野では、設計基準強度を設定・確認する上で最も重要な二つの項目を実施しません。実施しなくなった理由は分かりませんが、施工した改良体の品質が全く確認できない状況にあるというのが現状です。

自社で、柱状改良工法の性能証明や審査証明を取得している地盤改良業者は、この状況を理解しているので、自社で施工基準や品質管理基準を策定し、品質の劣化が生じないように管理していますが、最終的に自社で施工した改良体の品質を確認できないことに変わりはありません。

このように、安さにはワケがあるのです。

4.まとめ

柱状改良工法は、直径や長さの変更が比較的自由で、汎用性の高い工法です。

このため、市場で重宝されてきた工法ですが、一定レベル以上の品質の改良体を築造することは非常に難しいものです。

「建物が軽いから、住宅以外の業界で行われているような厳しい管理は不要。」との声を聴きますが、その考え方はおかしいと思います。

改良体の強度や支持力は、建築士の指示した荷重に対して決定します。このため、安全に対する余裕度は、住宅以外の建築物と比べても差異はないはずです。このため、管理はやはり厳しく行うべきです。

考え方の違いかもしれませんが、現場で築造したものについては、品質検査を行うべきです。

そして、その記録を残すべきです。

住宅は、現場一品生産ですので、出来上がったものの品質を定量的に評価することが困難でした。

しかし近年、微動計測技術によって、住宅の耐震性能を診断する技術の実用化が進められています。

柱状改良工法も、現場一品生産です。

このため、住宅以外の分野では、柱状改良工法を適用する場合、事前配合試験と全長コア採取による品質検査が不可欠とされています。

土の中の様子を確認することは容易ではありませんし、建物と違って補修も簡単にできないからです。

住宅分野では、なぜかこのような品質管理方法が適用されません。

私は、住宅が長きに渡って価値を維持し続けるためには、「作ったものの品質を適切な方法で検査する」という製造業ではあたり前のことを徹底することだと考えています。

工事費用は、そのような“あたり前のこと”が実施できていることを前提に決めるものではないでしょうか?


神村真



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