先週は、熊本県、福岡県、岐阜県で集中豪雨による河川氾濫等、大規模な水害が発生しました。
毎年繰り返される災害と失われる命をテレビで見ながら、自分には何ができるのかと考えています。
今回は、公開されている情報を使って、「お住まいの地域で降る、危険な雨を見分ける方法」について書いていきたいと思います。
ニュースで、1時間当たりの降雨量がいくらだとか、24時間降雨量がいくらだとかという言葉を耳にしますが、この降雨量は、いったいどのような雨なのか分かりますか?
気象庁は、“雨と風(雨と風の階級表)”というリーフレットを発行しています。
気象庁|リーフレット「雨と風(雨と風の階級表)」
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/books/amekaze/amekaze_index.html
このリーフレットを見ると、
1時間雨量が
10~20mmで“やや強い雨”、
20~30mmで“強い雨”、
30~50mmで“激しい雨”、
50~80mmで“非常に激しい雨”、
80mmを超えると“猛烈な雨”、
としています。
人の受けるイメージとして、30mmを超えると「バケツをひっくりかえしたように降る」とありますので、1時間当たり30mmを超える雨が降っていると、相当な降り方だと言えるでしょう。
このリーフレットで注目したいのは、“屋外の様子”です。
1時間雨量20mmを超えると、「地面一面に水たまりができる」とあり、30mmを超えると「道路が川のようになる」とあります。
このことからも、1時間当たり30mmの雨というのは、浸水被害の発生を予見させます。
地形やハザードマップをみて浸水の可能性を確認することが重要ですが、自分が住んでいる地域のどこで浸水被害が出ているのかを知ることは、浸水の可能性をよりリアルに知る方法でもあります。
河川氾濫の場合、河川の管理者が過去の洪水情報を公開しています。
例えば、九州の球磨川の場合、国土交通省九州地方整備局八代河川国道事務所が、洪水履歴を公開しています。
過去の洪水|国土交通省九州地方整備局 八代河川国道事務所HP内
http://www.qsr.mlit.go.jp/yatusiro/river/kouzui/index.html
一級河川以外の河川でも、県や市が何らかの情報を公開していることが多いので、インターネットで検索することをお勧めします。
市区町村の名称や河川の名称に加えて、“水害”、“洪水”というキーワードで検索するとよいでしょう。
どのあたりが浸水しそうかということが分かると、次に確認したくなるのが、どの程度の雨で浸水するのか?ということです。
細かい浸水履歴を丁寧に公開している自治体はまだあまりありませんが、東京都世田谷区のように、平成元年からの浸水発生個所を公開している自治体もあります。
浸水確認箇所一覧|世田谷区HP内
https://www.city.setagaya.lg.jp/mokuji/kurashi/005/003/003/d00020100.html
先日、雨水浸透施設の設置個所選定のため現地調査に赴いた品川区でも、浸水履歴の公開を行っていますが、品川区の場合、〇丁目までの公開にとどまっています。
実際に浸水履歴のあった地域を歩いて分かりましたが、〇丁目までの表示では、具体的に“どこ”で浸水したのかを確認することはできません。
災害に関わる情報の公開は、不動産価値に影響を及ぼすため慎重に取り扱われてきましたが、そのようなことを自治体がしているので、被害が繰り返されるように感じました。
全自治体が浸水履歴の詳細な情報公開と集積を始めることを期待したいです。
さて、細かい場所までは分からなくても、新聞記事などを検索すると、自分の住む町で発生した洪水の発生年月日を追いかけることができます。
この年月日が分かれば、気象庁の「過去の気象データ検索」というサイトを利用して、その時、どの程度の雨が降っていたかを知ることができます。
過去の気象データ検索|気象庁HP
https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/
このデータから、過去の降雨情報を収集して、洪水が発生した降雨量が、どの程度異常かを知ることもできます。
例えば、1995年~2019年までの世田谷区の10月の月間降雨量を整理すると図-1のようなグラフを作ることができます。
同時に、世田谷区が公開している浸水履歴情報から、この期間に発生した浸水履歴を調べたものが表-1です。
この表から、各浸水被害での月間降雨量は350mmを超えています。
図表から、過去25年間で、350mmを超える回数は5回ありますので、浸水する可能性のある雨は、頻繁に降っていると言えるでしょう。
表-1 世田谷区の10月の浸水履歴
世田谷区の浸水履歴情報をもう少し細かく見てみましょう。
図-2、図-3は、平成元年から令和元年までの浸水履歴情報を整理したものです。
図-2は、浸水被害があった日の最大降雨量、図-3は、浸水被害があった期間の総雨量について整理したものです。
これらの図から、最大雨量・総雨量ともに20mmを超えると浸水被害が急激に増加することが分かります。
このことは、世田谷区では20mm/hの雨が1時間降り続けると、どこかで何らかの浸水被害が発生すると考えることができます。
ここで示した浸水被害は、様々なものを含みます。
床上浸水のみに限定すると、最大降雨量30mm/hを超えると、総雨量では40mmを超えると、被害件数が急増する傾向を示します。
このように、公開情報を利用するとお住まいの地域で、どの程度の雨に注意すればよいのかを判断する基準を設けることが可能になります。
河川の氾濫については、より広域な情報収集が必要ですが、公開情報を使って自分の判断基準を作っておくことはとても重要なことです。
天気予報では、毎日連続映像で、明日はどの程度の雨が降り、それはどの程度の期間続くのか、という情報を提供してくれています。
しかし、この情報があっても、水害の現場では逃げ遅れる方がおられます。
これは、地域ごとの判断基準が明確ではないからだと思われたので、公開情報を使った判断基準の設定方法について考えてみました。
1日降雨量や月間降雨量の頻度分布図は、今降っている雨が、どの程度危険なのかの目安にもなると思いますので、一度、気象庁の検索サイトで調べてみてください。
自分の身を守るのは自分です。
自分で情報を集め、考えて、判断基準を設定することをお勧めします。
神村真