• 地盤の専門家神村真による宅地防災の情報発信サイト

今回は高台の話です。

高台の造成地は、水害には無縁で地震にも強そうな印象を受けます。

ところが、高台の造成地の中には、かつての谷筋を埋め立ている箇所や斜面に擁壁を建てて盛土している箇所なども含まれます。

このような箇所(盛土造成地)の中には、地震時に大きく変動するものがあります。

国土交通省は、このような危険な盛土造成地のことを「大規模盛土造成地」として、全自治体に、その存在を公表することを指示し、2020年3月にようやく全自治体での公表が達成されました。

また、7月15日には、大規模盛土造成地マップ情報が、ハザードマップポータルサイト (国土交通省運営サイト)に提供されることも公表されました。

国土交通省 報道発表資料 令和2年7月15日
https://www.mlit.go.jp/report/press/toshi06_hh_000057.html

ハザードマップポータルサイトには、順次データが追加されています。

ハザードマップポータルサイト内 重ねるハザードマップ
大規模盛土造成地の情報

この「大規模盛土造成地」とはどのようなものなのでしょうか。

  1. 大規模盛土造成地とは?
  2. どんな問題を抱えている地形なのか?
  3. 大規模盛土造成地マップの公開の実態
  4. まとめ

1.大規模盛土造成地とは?

 国土交通省が公開している、大規模盛土造成地の滑動崩落対策推進ガイドライン及び同解説の中に、大規模盛土造成地の概念図として図-1が示されています。

(i)谷埋め盛土

(ii)腹付け盛土

図-1 大規模盛土造成地(国土交通省ガイドラインより引用)

【画像引用元】
国土交通省:大規模盛土造成地の滑動崩落対策推進ガイドライン及び同解説について
https://www.mlit.go.jp/toshi/toshi_tobou_tk_000015.html

(i)は、谷を埋め立てた谷埋め盛土型、(ii)は、斜面の下端に擁壁を設けて盛土を行った腹付け盛土型です。

大規模盛土造成地は、この図に示された条件(谷埋め盛土の場合、面積が3,000m2以上、腹付け盛土の場合、高さ5m以上の擁壁に、元の斜面傾斜が20度以上)にマッチする盛土のことです。

2.どんな被害が出るのか?

写真-1 盛土の滑動の様子

 写真-1は、2011年11月に撮影した仙台市某所の状況です。

地面の一部が抜け出すように移動しています。

このように、大規模盛土造成地は、ある条件を満足すると、地震時に変動し、宅地に大きなダメージを与えます。

国土交通省は、

「東日本大震災で滑動崩落の被害を受けた宅地の多くは1970年代以前に造成されており、宅地造成等規制法等の改正により技術基準を強化した2006年以降に造成された宅地においては被害が発生していない」

国土交通省:大規模盛土造成地の滑動崩落対策について
https://www.mlit.go.jp/toshi/toshi_tobou_fr_000004.html

ことから、抽出された大規模盛土造成地について、住民との合意がとれ次第、改正後の技術基準に準じた耐震補強工事や集団移転を進める予定です。

3.なぜ大規模盛土造成地は地震時に動くのか?

なぜ、地震時に盛土が動くのか。

谷埋め盛土、腹付け盛土、それぞれについて考えてみます。

谷埋め盛土はなぜ動くか?

これは、もとの地形と地下水が影響しています。

谷は、もともと水の通り道なので、谷埋め盛土の底面付近には地下水が流れています。

この地下水の存在によって、地震時に盛土底部が強度低下します。(盛土が砂質土の場合、液状化する可能性もあります)

谷底は傾斜していますから、盛土底部に低強度領域が生まれると、盛土は「すべり台の上に置かれた物体」のような状態となり、滑動します。

盛土の「滑動」に対する抵抗力は、谷の旧斜面と盛土との間に働く摩擦抵抗力です。

盛土が薄く、幅が広い場合は、滑動に対する抵抗力に占める盛土底面での抵抗力の割合が大きいため、滑動しやすいと考えられています。

【参考文献】
釜井俊孝:阪神淡路大震災から15年を経て~わかったこと、わからなかったこと~斜面災害編, 自然災害科学, Vol.29, No.1, pp.3-15, 2010.

腹付け盛土はなぜ動くのか?

腹付け盛土は、盛土底面と旧地表面との摩擦抵抗力と、擁壁によって安定が保たれています。

谷埋め盛土と同様に、盛土底面での抵抗力が低下すると、擁壁だけでは盛土の重さを支えることができなくなり滑動します。

腹付け盛土の場合、擁壁の排水に問題があると、豪雨によっても同様の滑動が生じる可能性があります。

4.まとめ

 高台の造成地は、大部分が台地や山地を平たんにした場所なので、水害や地震による被害は少ないものです。

しかし、よく見るとより大きい造成地を生み出すために、切り取った土で谷を埋めている部分が必ず存在します。

先に述べたように、2006年に改定された法律に則って計画された盛土造成地では、東日本大震災時にも滑動は生じていなかったようですが、もっと古い盛土造成地では被害が生じています。

大規模盛土造成地は震度6以上の地震で滑動したケースが多いようです。

震度6程度の地震は、我が国では頻繁に発生しています。

大規模盛土造成地は公表されていますので、お目当ての土地が、公表リストに含まれていないか確認してください。

また、大規模盛土造成地に指定されていない盛土造成地も多くあると思われます。

万全を期すなら、旧地形や造成時期の確認もお忘れなく。


神村真



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