• 地盤の専門家神村真による宅地防災の情報発信サイト

9月1日は「防災の日」です。

この機会に木造住宅の耐震性能について考えてみることにしました。

2000年から住宅の性能表示制度が運用されるようになり、耐震等級を表示する制度が始まりました。

耐震等級は1~3まで3段階に分かれていて、何も求めなければ耐震等級1の最低基準で住宅が作られているのが一般的なようです。

私は、この基準に強い違和感を覚えました。

それは、住宅が最低限有すべき耐震基準で考えられている地震力よりも、より大きい地震力を考慮した場合に、耐震等級が上がる制度になっていたからです。

想定する地震力が不十分との考えがあるのであれば、考慮すべき最大の地震力を耐震基準として設定するべきではないでしょうか?

  1. 日本の耐震基準の考え方
  2. 耐震等級から見える真に考えておくべき地震力
  3. 耐震性能の確保に必要なその他の項目
  4. まとめ

1.日本の耐震基準の考え方

国土交通省のウェブサイトには、「住宅・建築物の耐震化について」というページがあります。

国土交通省HP:住宅・建築物の耐震化について
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_fr_000043.html

ここには、日本の耐震基準に関する概念図が示されています。(図-1)

図-1 耐震基準の概念 国土交通省HPより

この図から、日本の耐震基準は、以下の2つの目標性能を有していることが分かります。

  • 震度6強から7クラスの地震(大規模地震)時に働く力に対して「損傷は残るが倒壊しない」こと
  • 震度5強程度の地震(中規模地震)時に働く力に対して「損傷が残らない」こと

つまり、日本の耐震基準は、想定される最大の地震に対しては、倒壊して人が死なないことを旨とするが、より小さい地震に対しては、建物に損傷が生じないことを旨として、設計しなさいということです。

2.耐震等級から見える真に考えておくべき地震力

 「住宅の品質確保の促進等に関する法律」に基づいて、「日本住宅性能表示基準」というものが定められました。

国土交通省:国土交通省告示 日本住宅性能表示基準(PDF)
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/hinkaku/061001hyouji.pdf

この中に、耐震等級の定義が示されています。

その内容を表-1に整理して示します。

表-1 耐震等級の内訳

ここでは、耐震等級には2種類の項目があることが分かります。

これは、先ほど示した耐震基準で想定されている2種類の地震規模に相当するものです。

また、各項目について3つの等級があることが分かります。

建築基準法で定められた地震力を使って設計した場合、等級1になります。

その地震力よりも、1.25倍または1.5倍の地震力を考慮した場合、耐震等級が1つずつ上がっていきます。

さて、私は、ここで非常に大きな違和感を覚えずにはいられません。

国として定めた「設計上考えておくべき地震力」が、等級によって変化するからです。

私は、この性能表示制度を見たとき、ゾッとしました。

耐震性能は、建物の構造上の強さを定める基準ですから、本来、唯一の基準となるはずです。

つまり、基準を満足しない家などないということです。

ところが、住宅の性能表示制度の中では、耐震等級が三段階で示されています。

このことは、「法律で示された基準では、不十分な場合が存在する」ことを暗に示しているのです。

事実、熊本地震では、この耐震等級の差が被害の差となって確認されました。

国土交通省住宅局がまとめた、「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会報告書のポイント」という資料の中に、耐震等級3の木造住宅と建築基準法レベル(耐震等級1)の木造住宅での被害の差が示されています。

国土交通省 住宅局:「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会」報告書のポイント(PDF)
https://www.mlit.go.jp/common/001155087.pdf

図-2 耐震等級3と建築基準法レベル(耐震等級1)の木造住宅での被害の違い
国土交通省資料より

図-2から、耐震等級3の住宅は、その他の住宅よりも明らかに被害が小さいことが分かります。

「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会報告書のポイント」には、熊本地震での木造住宅の被害を建築時期ごとに整理した図が示されています。(図-3)

図-3 建築時期と被害の状況 国土交通省資料より

図-3から、木造住宅の約75%が倒壊または崩壊することはありませんでした。

また、倒壊・崩壊した住宅のうち、約70%は、古い耐震基準に基づく住宅でした。

熊本地震は大規模地震でしたので、現行の耐震基準に基づいて建設された木造住宅の多くは、設計概念通り、倒壊・崩壊を免れていることになります。

しかし、耐震等級1の住宅の約20%は大破または倒壊・崩壊しています。

個人の住宅は、たとえ大規模地震であっても、軽微な補修程度で済む被害でなければ困ります。

このことから、真に考えておくべき地震力は、耐震等級3レベル以上であることが分かります。

3.耐震性能の確保に必要なその他の項目

前出の「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会報告書のポイント」には、住宅の被害の原因として、著しい地盤変状や局所的に大きな揺れがあったことを挙げています。

熊本地震では、被害の大きかった地域を歩くと、間知擁壁が崩壊している光景をよく目にしましたが、擁壁が崩壊することで斜面が崩れて、住宅も傾斜するという被害があったようです。

また、地震のたびに、局所的に大きな揺れが発生した地域があることが報告されます。

これは、地形や土質によって地表面での揺れが大きくなる箇所があるためです。

地盤の崩壊(液状化による被害も同様)によって住宅が被害を受ける場合は耐震等級の高さは役に立ちません。

また、地震の揺れが大きくなる場所では、建築基準法で定められる地震力では、作用する力を過小評価することになるので、高い耐震等級を考慮しておかなければ安全性を確保できません。

局所的な揺れやすさについては、地盤の揺れ方を計測することで把握することが可能です。

防災科学研究所は、地震ハザードステーション(http://www.j-shis.bosai.go.jp/)で、表層地盤の揺れやすさの指標である地盤増幅率のマップを公開しています。

現在、住宅建設のための地盤調査では、擁壁のリスクや局所的な揺れやすさに関する調査は一般的に行われていませんが、これらのことは、耐震等級以上に重要視しておくべき事項です。

なぜなら、擁壁の耐震性能が低かったり想定を超える地震力が入力されたりするのであれば、建物の耐震性能がどんなに高くても、被害を受けざるを得ないからです。

このため、住宅建設時には、一般的なスウェーデン式サウンディング試験のみならず、以下の項目についても調査を行う必要があります。

  • 擁壁がある場合は、擁壁の耐震性能の確認
  • 対象地の揺れやすさの確認
  • 液状化の危険性がある場合は、液状化のための地盤調査

4.まとめ

設計上では、大規模地震時の目標性能を、「倒壊・崩壊しないこと」と定めていますが、このレベルまでダメージを受けた建物は、建て直すしかありません。

住宅は、個人の所有物なので、数十年に渡って住み続けることができなくてはなりません。

このため、木造住宅の目標性能は、大規模地震時であっても、「損傷を修復できること」としておく必要があります。

このようなことを考えれば、耐震等級3でも、不十分かもしれません。

価値ある住宅を建設することを望むならば、地盤の揺れやすさについても適切に調査を行い、想定すべき地震力を定量的に評価し、実際に考慮すべき地震力を設定し、建物の耐力評価を行うことをお勧めします。

それから、液状化の危険性や擁壁の耐震性能もしっかり確認しておかないと、建物だけ丈夫にしても意味がないこともお忘れなく。


神村真

※地盤の揺れやすさについては、地域微動探査協会でサービス提供が予定されています。



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