先日、建物の振動についての調査に出向きました。
自分で、一般社団法人地域微動探査協会が推奨する計測機を用いて、住宅と交通振動の計測と極小微動アレイによる地盤のせん断波速度の計測を行いました。
計測から計測結果の解析を行いながら、住宅のための地盤調査では、建物を安全に支えることだけではなく、交通振動についても計測する必要があることを強く感じました。
今日は、この振動計測の概要と、この調査を通して気づいた住宅の地盤調査における交通振動計測の重要性について書きたいと思います。
今回、調査に伺った住宅は、幹線道路から50m程度離れた場所任建っています。
前面道路の交通量は少ないのですが、2階の寝室で就寝中に、「眠りを妨げるほどの振動」をしばしば感じるとのことでした。
地域微動探査協会からお借りした速度計は、4台で1セットです。
4台の速度計に内蔵された時計の時刻を同期させた後、それぞれを、2階、1階、玄関前、前面道路に配置し、振動を記録しました。
図-1は計測結果の一例です。
上2つの記録は、平面方向(x、y軸方向)の振動、下の記録は鉛直方向(z軸方向)の振動です。
計測中、私は前面道路付近にいたのですが、前面道路を通過する車両は数分に1台程度(いずれも乗用車)でしたが、50m離れた幹線道路では大型車を含む車両が頻繁に通行していました。
計測記録には、10~30秒に1回は振動が記録されており、50m離れた幹線道路での交通振動が入力されていることが分かります。
図-2は、交通振動が記録された時間に建物2階で記録された加速度(z軸方向)の時刻歴です。
加速度は、2gal程度が頻繁に記録され、瞬間的に5galに到達しています。
この加速度は、加速度振動レベルに換算すると66~74dBに相当します。
この振動レベルは、寝ている人が目覚めることがある程度の大きなものでした(表-1参照)。
表-1 加速度振動レベルと現象
【出典】広島県HP:騒音振動規制の概要https://www.pref.hiroshima.lg.jp/site/eco/e-e2-gaiyo-index.html
なぜ、住宅は50mも離れた道路を車が通るたびに振動するのでしょう。
物体の振動が顕著になるときは、与えられた振動と物体が「共振」していることが多いものです。
近年の木造住宅の固有周期は0.1秒~0.2秒程度ですので、交通振動の中に、これらの周期帯の振動が多く含まれていると、建物が交通振動と共振すると考えられます。
このため、前面道路で計測した振動にどのような周期の振動が含まれているかを確認することにしました。
図-3は、速度応答スペクトルというもので、どの周期の振動が特に強いかを示したものです。
図中でピークとなる周波数を「卓越周期」と呼びます。
図-3に、交通振動(計測開始から570秒から630秒で記録された交通振動)と交通振動が記録されていない時間帯に建物2階で計測した振動での速度応答スペクトルを示しました。
図から、交通振動と建物での卓越周期が、ぴったり一致していることが分かります。
なお、住宅の卓越周期は、「固有周期」と呼びます。
このことから、調査対象となった住宅では、交通振動の卓越周期と住宅の固有周期が一致する場合があり、この時に、大きな振動が生じるものと考えることができます。
対象建物の地盤は、表層部分のみを固化処理し、軟弱な地盤を一部残しています。
軟弱な地盤は、振動を遠くまで伝播させるので、50m離れた道路から振動が伝えられたものと考えられます。
住宅建設の際に、道路からの振動によって住民が苦しめられる可能性があることを考える設計者は少ないのではないでしょうか?
ましてや、幹線道路から少し離れた場所であれば、交通振動のことに気を遣う理由を見つけることは難しいでしょう。
しかし、私は、今回の調査を行って、比較的交通量の多い幹線道路の近くに住宅を建設する場合は、交通振動の卓越周期を確認しておく必要があると感じました。
特に、比較的地盤が軟弱ではあるけれども、地形や地歴から判断して、軽微な地盤補強のみで対応可能と判断されるような調査結果の場合、交通振動に注意を払う必要があると思います。
今回使用した地域微動探査協会の推奨する計測器は、「極小微動アレイ」という特殊な計測器の配置を採用することで、計測結果を用いて地盤のせん断波速度の深度分布を確認することが可能です。
このせん断波速度は、N値に換算することが可能なので、SWS試験と同等の地盤調査結果を得ることが可能です。
つまり、この計測器を使えば、地盤調査と交通振動の2種類の計測を行うことが可能なのです。
今回の住宅振動の原因調査を通して、住宅の設計における交通振動の特性把握の重要性を痛感しました。
ご紹介した地域微動探査協会の計測器があれば、比較的簡単に振動計測と地盤調査が可能です。
ご興味がある方は、当方までお問合せ下さい。
神村真