4月から始めたブログも、今年最後の記事になりました。
今年の第4四半期(私たちの会社は12月が決算月です)は、微動探査、交通振動計測、鋼管の強度試験等、盛りだくさんの内容だったので、本当にあっという間に年末になってしまったような状況です。
今年最後の記事は、鋼管の腐食や継手のことについて書きたいと思います。
住宅分野では、鋼管を用いた地盤補強工法は、材料費が高いことで敬遠されがちです。
しかし、鋼管は、柱状改良工法で地中に作る改良体に比べて、補強材としての性能が段違いに高いのです。
まず、鋼管の基準強度は非常に大きい。
JIS規格のSTK400という鋼管の基準強度は235N/mm2(235,000kN/m2)で、柱状改良体の設計基準強度は600~1,000kN/m2です。
また、鋼管の長期許容応力度を算出するための安全率は1.5ですが、改良体の場合、3です。
ここで、各材料での長期許容耐力は、以下のように求めることができます。
(長期許容耐力)=1/(安全率)×(基準強度)×(断面積)
この式から、求まる材料の耐力を表-1に示します。
表-1から、鋼管の材料強度から求まる耐力が非常に大きく、鋼管が小さい断面積でも、大きな力を支えることができることが分かります。
表-1 材料と長期許容耐力
さらに、鋼管は工場製品なので、品質のばらつきが非常に小さいです。
柱状改良体は、現場生産なので、想定外の土質によって期待した強度が確保できないこともあります。
また、柱状改良体は、施工機械によって施工可能な深度が、ある程度制限されます。
戸建て住宅の敷地内で使用する施工機械であれば、8m程度が最大長です。
一方、鋼管は、比較的小さな機械でも、長さ15m程度の鋼管を施工することも可能です。
こんなに良い材料なのですが、「鉄」という材料の単価が高いため、鋼管を用いた地盤改良工事費用は、その他の工事費用に比べて高額になりがちです。
このため、優れた工法ではありますが、敬遠されがちなのです。
工事費が高額になるのは、鋼管の配置計画を基礎の強度を考慮して厳格に実施していないこととも関係があります。
鋼管を用いて建物を支持する場合、鋼管の強度を活かすように、鋼管本数を最小限に絞り込む必要があります。
鋼管の支持力は、地盤強度から求まる支持力(「鋼管先端での支持力(先端支持力)」と「鋼管周面での摩擦力(周面抵抗力)」の和)と「鋼管強度から求まる支持力」のうち、どちらか小さい方が採用されます。
一方、鋼管の配置を考える場合、基礎の安全性を考慮する必要があります。
これは、鋼管が基礎の支点となるので、ある支点間隔を超えると、基礎が建物の重さを支えきれなくなるためです(図-1参照)。
しかし残念なことに、住宅分野での地盤改良の発注から設計・施工の流れの中で、基礎仕様から鋼管の打設間隔を厳格に精査している建築士は、非常に少ないようです。
構造計算をしていれば、柱から基礎に伝わる力を知ることができるので、鋼管の最適配置を考えることが可能です。
しかし、構造計算していない工務店では、適切な鋼管の配置計画はできないのです。
しかも、一般に、鋼管の配置計画を考えるのは、地盤改良会社(鋼管を地中に埋設する会社)です。
彼らの多くは建築士事務所ではないので、慣例で定められた最大施工間隔を守りながら、配置計画を行っています。
このことは、鋼管だけではなく、柱状改良体でも同様のことが言えます。
鋼管は材料単価が高いですが、材料強度が高い。
この特性を生かして経済設計を行うためには、構造計算が不可欠になるのです。
鋼管の強度を最大限に活かしたいところですが、それを妨げるものとして、以下の3つが挙げられます。
鋼管は鉄ですので、水と空気に触れていると錆びます。
地中には少なからず水と空気があるので、鋼管は次第に腐食していきます。
いくつかの腐食状態の調査結果から、100年に1mm程度(片面)腐食されるという予測データがあることから、建築分野では、鋼管厚さが1mm薄くなった状態でも材料強度が不足しないように、鋼管厚さを選定します。
【参考文献】
国土交通省:平成13年告示1113号, 第1項第八号
日本建築学会:小規模建築物基礎設計指針, pp.187-188, 2008.
鋼管杭・鋼矢板技術協会:鋼管杭 ―その設計と施工―, pp.537-569, 2009.
この問題には異論もあるのですが、細長くなると座屈の可能性があることから、鋼管の細長比(長さ÷直径)が100を超えると、材料強度を低減することとされています。
【参考文献】
日本建築学会:小規模建築物基礎設計指針, pp.187-188, 2008.
通常鋼管は、流通段階での制約から長さ6mのものが多く流通しています。
このため、6mを超える鋼管を施工する場合は、複数の鋼管を継ぎ足すことになります。
鋼管の継ぎ足し部分を継手と呼びます。
継手強度が母材(鋼管)よりも低いと、この部分から鋼管が壊れていきます。
このため、特別に強度等の品質確認ができていない継手を用いる場合は、継手部分での強度低減を求められます。
先日、鋼管の圧縮と曲げ試験を行いましたが、継手部の強度が鋼管よりも低い場合、鋼管だけの場合よりもはるかに小さい荷重で、継手部が破壊に至ります。
最近では、強度などの審査を受けた継手も販売されているので、これらの継手を使えば、効率的に鋼管を使用することが可能です。
また、JIS規格に応じた溶接ができれば、溶接継手でも強度低減を行う必要はありません。
鋼管を活用する場合は、このようなことにも気を使いたいものです。
【参考文献】
国土交通省:平成13年告示1113号, 第1項第八号
「鋼管は高い」と言われますが、私は、材料自体の品質が保証されているという点で、柱状改良工法に比べれば、非常に「信頼性の高い工法」で、必ずしも無駄に高いわけではないと考えています。
特に、柱状改良工法が施工後7日間は、品質確認結果が出せないため、次工程に進めないのに対して、鋼管を用いる工法は、施工直後から次工程に着手できる点は、非常に大きな利点だと思います。
あ、それから、工事によって残土が発生しない点も良いですね。
柱状改良工事で発生する残土は産業廃棄物ですので、処理にお金がかかります。
このように、鋼管を用いる工法は、非常によい工法です。
ただし、鋼管を用いる場合は、基礎の構造設計とリンクさせて、最適な配置を考えていくことが経済性を向上させるうえで重要になってきます。
「鋼管は高いから使わない」と考えず、安定した品質の鋼管を活用するために、「基礎の構造設計で経済性を高められないか」という視点で一度考えてみることをお勧めします。
計算してみると、意外に打設間隔を飛ばせたりするものです。
お試しあれ。
神村真