前号では、擁壁の危うさについて書きましたが、今回は、前号で書ききれなかった「擁壁」と「水」の話です。
擁壁に作用する力は、擁壁背面から縦壁方向に作用する水平土圧と、底版に作用する鉛直下向きの土圧です。
擁壁の縦壁には排水口を設けることが定められているので、水圧の作用は考慮しません。
しかし、排水口がないとか、排水口が土砂などで目詰まりしていたらどうなるでしょうか?
図-1は、擁壁背面に水圧が作用しない場合と水圧が作用する場合での、擁壁に作用する力を模式的に示したものです。
設計では、水圧を考慮しないので、水圧が作用すると、擁壁が不安定化します。
擁壁が不安定化すると、前面への「滑動」や「転倒」という現象が現れます。
さて、それでは、なぜ擁壁背面に地下水位が現れるのでしょうか?
例えば、軟弱地盤上に盛土をした場合を考えましょう。
盛土以前の地下水位は、旧地表面よりも下にあります。
ところが、盛土を行うと、盛土内部に地下水が現れることがあります。
これは、盛土による沈下によって、盛土材が地下水位以下に沈みことで、毛細管現象によって、盛土内部に地下水が供給されるためや、降雨によるものです。(図-2左図)
谷地を埋め立てた場所では、もともと水の通り道なので、盛土内部が地下水で満たされることがあります。(図-2右図)
このような場合、擁壁から確実に排水できる環境を設けておかないと、降雨時に盛土内部の地下水位が上昇し、擁壁に大きな負担を掛けることになります。
なお、宅地造成等規制法施行令第10条には、「擁壁の水抜穴」について、以下の定めがされています。
「壁面の面積三平方メートル以内ごとに少なくとも一個の内径が七・五センチメートル以上の陶管その他これに類する耐水性の材料を用いた水抜穴を設け、かつ、擁壁の裏面の水抜穴の周辺その他必要な場所には、砂利その他の資材を用いて透水層を設けなければならない」
ここで「壁面」とは、地上部を指しますので、擁壁に水抜穴が見られない場合は、要注意と言えるでしょう。
擁壁は土地に付随するものなので、あまり目が行きません。
しかし、擁壁の性能については、建物以上に注意深く確認する必要があります。
土圧に対して抵抗できる形状であることに加え、水抜きが適切に行える状態になっていることも、とても重要な確認項目です。
しかし、擁壁は、大半が地中にあるため、どのような形状や仕様であるかを知ることは困難です。
このため、擁壁付きの土地を購入する場合は、表面に亀裂がないこと、水抜き穴の有無を確認するとともに、擁壁の設計図書や施工報告書等の写しを取り寄せ、適切な形状であることを確認することをお勧めします。
神村 真