• 地盤の専門家神村真による宅地防災の情報発信サイト

前号では、擁壁の危うさについて書きましたが、今回は、前号で書ききれなかった「擁壁」と「水」の話です。

  1. 地下水が擁壁に及ぼす影響
  2. 盛土内部の地下水
  3. まとめ

1.地下水が擁壁に及ぼす影響

 擁壁に作用する力は、擁壁背面から縦壁方向に作用する水平土圧と、底版に作用する鉛直下向きの土圧です。

擁壁の縦壁には排水口を設けることが定められているので、水圧の作用は考慮しません。

しかし、排水口がないとか、排水口が土砂などで目詰まりしていたらどうなるでしょうか?

図-1は、擁壁背面に水圧が作用しない場合と水圧が作用する場合での、擁壁に作用する力を模式的に示したものです。

図-1 地下水位の存在による擁壁に作用する力の変化

設計では、水圧を考慮しないので、水圧が作用すると、擁壁が不安定化します。

擁壁が不安定化すると、前面への「滑動」や「転倒」という現象が現れます。

さて、それでは、なぜ擁壁背面に地下水位が現れるのでしょうか?

2.盛土内部の地下水

例えば、軟弱地盤上に盛土をした場合を考えましょう。

盛土以前の地下水位は、旧地表面よりも下にあります。

ところが、盛土を行うと、盛土内部に地下水が現れることがあります。

これは、盛土による沈下によって、盛土材が地下水位以下に沈みことで、毛細管現象によって、盛土内部に地下水が供給されるためや、降雨によるものです。(図-2左図)

谷地を埋め立てた場所では、もともと水の通り道なので、盛土内部が地下水で満たされることがあります。(図-2右図)

図-2 盛土内部への地下水供給

このような場合、擁壁から確実に排水できる環境を設けておかないと、降雨時に盛土内部の地下水位が上昇し、擁壁に大きな負担を掛けることになります。

なお、宅地造成等規制法施行令第10条には、「擁壁の水抜穴」について、以下の定めがされています。

「壁面の面積三平方メートル以内ごとに少なくとも一個の内径が七・五センチメートル以上の陶管その他これに類する耐水性の材料を用いた水抜穴を設け、かつ、擁壁の裏面の水抜穴の周辺その他必要な場所には、砂利その他の資材を用いて透水層を設けなければならない」

ここで「壁面」とは、地上部を指しますので、擁壁に水抜穴が見られない場合は、要注意と言えるでしょう。

3.まとめ

擁壁は土地に付随するものなので、あまり目が行きません。

しかし、擁壁の性能については、建物以上に注意深く確認する必要があります。

土圧に対して抵抗できる形状であることに加え、水抜きが適切に行える状態になっていることも、とても重要な確認項目です。

しかし、擁壁は、大半が地中にあるため、どのような形状や仕様であるかを知ることは困難です。

このため、擁壁付きの土地を購入する場合は、表面に亀裂がないこと、水抜き穴の有無を確認するとともに、擁壁の設計図書や施工報告書等の写しを取り寄せ、適切な形状であることを確認することをお勧めします。


神村 真



コメント一覧

返信2022年7月29日 4:44 PM

松岡静雄24/

自宅隣の傾斜地が11棟の宅地造成されています、高いところは自宅庭面から8mその他の場所でも5メートル掘り下げて互い違いに組み込むコンクリートブロックで造成地を囲むように擁壁がつくられています。下面から約1メートル更にその上1.5mあたりまでは互い違いに水抜き穴が設置されていますがそれより上の部分にはどこにも水抜き穴がありません。「法規準を見ても3㎡に1個以上の水抜き穴をもうける」とあります。最近はゲリラ豪雨や洪水・土砂崩れのニュースが多いので心配です、どうすれば良いでしょうか良い方法を教えてください。よろしくお願いします。

    返信2022年7月30日 11:14 AM

    神村真25/

    松岡様 コメントありがとうございます。 隣接地に大きな擁壁ができると圧迫感もあり不安を感じますよね。 さて、文面からは高さが2mを超える擁壁のようですので、市役所の 建築指導課などに相談されるのがよいかと思います。 工事から時間が経過してしまうと当事者が分からなくなることがあるので できるだけ速やかに対応されることをお勧めします。 以上 神村

返信2024年2月7日 9:37 AM

みん23/

擁壁の水抜き穴がコンクリで埋められている箇所があり、業者に空けてもらおうと考えているのですが一つ懸念点があります。水抜き穴の位置が低く大雨時には水抜き穴自体が水没する恐れがあるのですが、そのような場合でも水抜き穴は空けておく方がいいでしょうか?

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