• 地盤の専門家神村真による宅地防災の情報発信サイト

地震による震害や液状化による不同沈下は、地盤補強等の方法で対策をとることが可能です。

しかし、大雨による河川の氾濫や内水氾濫、土砂崩れ、土石流などの水災害は、個人での対応が難しいことが多いと思います。

また、これらの災害は、地形と雨が発生原因なので、遭遇する頻度が極めて高い災害だと言えます。

また、土砂崩れ、土石流は、地震時にも起こる可能性がある点にも注意が必要です。

今回は、そんな水災害リスクにどのように対処していけばよいかについて考えたい思います。

  1. 水災害の種類と遭遇頻度
  2. 水災害リスクを受容できない理由
  3. 水災害リスクを受容するための対策
  4. まとめ

1. 水災害の種類と遭遇頻度

水災害には、河川の氾濫と内水氾濫、斜面の崩壊(土砂崩れ)、土石流があります。

「河川氾濫」では、河川が溢れて「低地」が冠水し、「内水氾濫」では、下水道や排水溝等を流下する雨水が施設の許容量を超えることで「低地」が冠水します。

「土砂崩れ」は、通常は安定している「斜面」が、雨によって地下水位が上昇したり、地表面付近の土砂が多量の水を含むことで不安定化し、崩壊するものです。

図-1 土砂崩れのメカニズム

「土石流」は、「渓流」に沿った斜面が豪雨時に崩壊するなどして渓流に集積された岩、木や土砂などが、河川水と一緒になって下流に流下する現象です。

「扇状地」は、繰返し発生した「土石流」によって作り出された地形です。

各水災害の発生する地形は、「低地」、「斜面」、「扇状地」で、いずれの地形でも、大雨が降れば、災害が発生する可能性が高まります。

国土交通省は、「水害レポート」という水害に関する1年間の報告書を発行していますが、水災害が発生しなかった年は、多分ないと思います。

つまり、水災害は、「地形が該当していれば、毎年発生する可能性がある」ということです。

【参考資料】国土交通省 水害レポート
https://www.mlit.go.jp/river/pamphlet_jirei/suigai_report/index.html

もちろん、堤防や排水施設の整備が進み、洪水による冠水が発生する雨量を大きく設定できている地域もあると思いますし、砂防ダムの整備によって土砂災害の可能性が低下している地域もあります。

また、危険な斜面は、様々な対策がなされてもいます。

しかし、災害対策施設の計画容量は、150年間ほどの記録に基づくものですので、それを超える雨量が記録されることは、ゼロではありません。

また、対策施設の劣化が進んでいれば、対策施設として十分な機能を果たせないこともあり得ます。

このような点から、水災害は、その遭遇頻度がその他の災害にくらべて桁違いに高いと考えておくことが望ましいでしょう。

2. 水災害リスクを受容できない理由

水災害のうち、洪水、土砂崩れ、土石流は、人の命を奪います。

例えば、2018年7月に発生した岡山県倉敷市真備町の洪水では、51名の方がお亡くなりになりましたが、そのうち42名の方は1階で亡くなられていたそうです。

【参考資料】朝日新聞DEGITAL:犠牲51人、8割超が1階部分で発見 真備町の豪雨被害, 2018年8月8日 17時12分
https://www.asahi.com/articles/ASL885F8LL81PTIL00L.html

また、土砂崩れや土石流については、住民が、その危険性を知らない可能性があります。

土砂災害警戒区域(イエローゾーン)、土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)に指定されていれば、不動産の売買時の重要事項説明でそのことについて説明を受けますし、建築制限があるので、土地の購入や住宅の建て替えなどの際に、災害リスクを知ることになります。

また、このような地域では、自治会で防災訓練を定期的に行ってると思います。

ところが、このような区域指定がされていない危険な箇所は、多く存在します。

例えば、2014年8月の広島市での大規模な土砂災害発生地域は、このような区域指定を受けていませんでした。

広島市での甚大な災害の発生後、区域指定の迅速化は進められていますが、規模の小さい斜面などは指定されない可能性もありますので注意が必要です。

岡山県倉敷市でも、広島県広島市でも、災害と地形との関係についての知識があれば、水災害に遭うことを予測することは、難しいことではなかったと思います。

ところが、何年も、何十年も、災害に遭う経験がないと、人は、災害の可能性を忘れてしまいます。

岡山県倉敷市真備町では、過去に大規模場浸水被害が発生していますし(図-2参照)、広島県広島市安佐南区八木地区(2014年の土砂災害での被害が大きかった地域の一つ)には、土石流災害を想起させる伝説が伝えられていたと言います。

図-2 岡山県倉敷市真備町での大規模な洪水の履歴

このように、水災害の発生地域は、地形と降雨によって定められているのです。

【参考資料】 国土交通省 第1回 大規模広域豪雨を踏まえた水災害対策検討小委員会 、資料2 平成30年7月豪雨における被害等の概要 平成30年9月28日 p.56 https://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/shaseishin/kasenbunkakai/shouiinkai/daikibokouikigouu/1/index.html

【参考資料】土木情報サービス いさぼうネット:コラム46 広島安佐南区・八木地区の災害伝説と大正15年(1926)災害
https://isabou.net/knowhow/colum-rekishi/colum46.asp

水災害の遭遇頻度が高い地形に家を建てるということは、毎年、そのリスクにさらされ、定住期間中に、複数回大きな被害を受ける「可能性」があるということです。

岡山県倉敷市真備町のように、大きな洪水が、昭和47年、昭和51年と立て続けに発生し、以降は大規模な洪水の記録がありません。

洪水後に様々な対策がなされたためだと思います。

ところが、2018年に再び大規模な洪水が発生しています。

このことは、人が考える対策にはやはり限界があることを示しています。

家は、人々の暮らしを守り、豊かにする場所です。

経済的ダメージを受ける可能性が高い場所に、「生まれてこの方、洪水なんて起こっていない」という薄い根拠で家を建てるべきではないのです。

3. 水災害リスクを受容するための対策

洪水が頻発する地域や土石流被害を受けた経験のある地域に、何らかの理由で住み続けなければならない方は多いと思います。

水災害リスクは、人命に関わるリスクですが、大雨が降ることを予測することが可能なので、事前に避難することで費用を掛けずに回避することが可能です。

しかし、水災害による経済的なダメージは甚大です。

近年の高気密高断熱住宅の場合、気密性が高いので侵入した水の排水は困難ですし、石膏ボードで構造体が覆われているので、木造住宅では、水没した木材がなかなか乾燥しません。

このため、冠水した階の壁面は全面撤去し、乾燥を待たなければなりません。

断熱材も再利用できない状態になるものが多いでしょう。

このように、避難によって人命を失うことを避けられても、資産の損害や時間、本来得られるはずだった平穏な環境の損失は甚大なものになるので、この点についても対策が必要です。

近年の豪雨災害の激甚化によって、自治体では洪水に関するハザードマップの整備の充実を図っています。

ハザードマップには、どの程度の高さまで浸水するかということが明記されていますので、洪水対策として、住宅の嵩上げを行うことをお勧めします。

図-2に示すように、洪水時の浸水対策としては、基礎底面が想定浸水深より高くなるように盛土を行うとか、浸水深以深を鉄骨造として、居室を設けない等の対策をとることで、経済的損失を最小限に抑えることが可能です。

図-3 浸水地域での事前対策

自家用車を所有している場合は、水没する可能性があるので、豪雨の際には事前に車を高台に避難させるといった対策が必要でしょう。

一方、土砂崩れに対しては、図-3に示すような対策が考えられます。

図-4 土砂崩れに対する事前対策

土砂崩れに対しては、検討対象となる住宅が、斜面の上にあるか、下にあるかで考えることが変わります。

検討対象住宅が斜面の上にある場合、この住宅のオーナーが、斜面のオーナーでもあることがほとんどです。

この場合、オーナーは、住宅だけではなく、斜面が崩壊し他人に被害を与えないように配慮する必要があります。

この場合、斜面を一部削って、コンクリート擁壁とすることが最適な対策ですが、多くの建設費が必要になります。

斜面の安定性が比較的高い場合は、斜面をある程度残しながら、斜面の表面を石積み擁壁(間知擁壁)で覆い、安全性を向上させることも可能です。

間知擁壁は、コンクリート擁壁より幾分建設コストを抑えられるでしょう。

間知擁壁を採用する場合、斜面の崩壊リスクは消せないので、基礎底面が安息角ラインの下側になるようにしておく必要があります。

検討対象住宅が斜面の下にある場合は、斜面の崩壊によって、土砂が住宅に押し寄せてくることを想定しておく必要があります。

このため、斜面側に崩れた土砂をせき止める擁壁を設ける、斜面側の壁面に窓を設けない、1階に居室を設けない、土砂崩れを設計外力として住宅の構造計算を実施する等の対策が必要です。

なお、斜面下での対策は、土石流に対しても有効ですが、土石流によって運ばれてくる岩や木、土砂の量は、想像を超えるものですので、大きな被害の発生を想定し、保険や修復費用の積立等、経済的な対策を充実させておかなければなりません。

4. まとめ

水災害は、人命だけではなく資産を大きく傷つけます。

場合によっては、再起できないほどのダメージを受けることもあり得ます。

十分な対策を講じても、損害を受容できる程度まで軽減できない場合は、その場所から離れることを検討に加えて頂きたいと思います。

父祖伝来の地は、離れがたきものでしょうが、家族の命を危険にさらし続けることが、父祖伝来の地を守ることより大切だとは、私には思えません。

なお、近年は土地の有効利用と称して斜面に擁壁を立てて宅地化した事例を見かけますが、こちらも、防災上の安全性という観点では高いリスクがあると言わざるを得ません。

現在、日本では人口が急激に減少しており、防災や公共サービス提供の観点から、都市機能を防災上安全な地域に集中させる必要があります。

災害の復旧・復興には膨大な税金が必要になるためです。

税金を無駄に使わないためにも、災害に遭遇しやすい地域での住まい方について、一人ひとりが考えていく必要があると思いますし、行政にあっては、より積極的に災害に対する強靭化のための施策整備をして頂きたいものです。

以上

神村真



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