5月は軟弱地盤対策の特集をしてきました。
私自身、地盤補強工法の開発に長く関わってきたので、既存の地盤補強工法の問題点は熟知しているつもりでしたが、見落としていることもあり、頭の中が整理された1か月でした。
今回は、地盤補強工法の性能をどのように担保するのか?支持力や補強体の品質以外に必要な新しい性能はないのか?等、これらの軟弱地盤対策に求められる事柄について考えていきます。
地盤保証という商品は、保証会社が定めたルールで設計し、施工された地盤補強で、不同沈下が発生した場合、その修復費用を補償するというものです。
このような商品は、不同沈下が発生した場合には重宝する商品ではありますが、施工した地盤補強の本当の性能を保証しているわけではありません。
例えば、私が地盤補強された中古住宅を購入するなら、地盤補強について以下の情報を欲しいと考えるはずです。
地盤保証会社は、これらのことを審査したうえで、地盤保証を発行していると思うので、地盤保証が付与されていれば、それだけで良いように思いますが、先日のブログでもご紹介したように、①、②は確認されていない可能性が高い上に、③、④についても、第三者機関で技術審査を受けた工法を除くと、証明できない可能性が高いと考えられます。
つまり、地盤保証は、補強された地盤の基本的な性能を十分確認することはできないけれども、自社の基準に従って設計・施工されていれば、不同沈下被害を補償するという商品と考えることができます。
ちっとも合理的ではありません。
上記のことをもう少し分かりやすく表現すれば、地盤補強された地盤の上に建つ住宅は、「たまたま安全」なだけかもしれません。
設計において、「たまたま安全」ということは許されることではありません。
どの程度の確率で安全なのか、このことを分かる範囲で確認しておく必要があります。
少なくとも、以下の事項について、一つ一つ回答が得られない地盤補強は、「たまたま安全」なだけで、外力に対する安全性が全く評価できません。
建物荷重は、短期荷重なのか?長期荷重なのか?短期荷重なら、どの程度の規模の地震を想定していて、どのように計算したのか?
補強体頭部での反力は、柱の軸力から打設間隔に応じて算出されたものか?また、それらの力に対して基礎の安全性は確保されているのか?
支持力式は、何に基づいて決められたのか?再現性のある式なのか?計算された支持力は、短期許容支持力なのか?長期許容支持力なのか?
どのように計測されたのか?そしてその妥当性は?
これらの事柄を保証できないことが、なぜダメなのでしょうか?
建築基準法の耐震基準が1980年に大きく改定されたように、住宅に求められる性能が大きく変化することが起こり得ます。
現在では、築年数によって、その建物の耐震性能を大雑把に区分していますが、構造計算の内容によっては、築年数が古くても新耐震と同程度の耐震性能を有している建物のもあるかもしれません。
住宅の性能が向上し、中古住宅市場が成熟すると、住宅の価値は、このような定量的に評価できるものに変化していくと考えられます。
少なくても私は、定量的に評価できる項目からしか、中古住宅の価値を評価することができません。
上記の①~④の項目を明らかにすることは、比較的簡単です。①、②については、構造計算を行えば明確に答えることが可能ですし、③、④については、第三者機関によって技術審査を受けた工法を使用すれば、回答することが可能です。
住宅の性能が向上し、その性能が表示され記録に残されるようになると、古い建物でも解体せずに使用されることが一般的になると思います。このことによって、建物のデザインも、奇抜なものではなく、機能美を持った、長く愛されるものに変わっていくと思われます。そこに、「日本らしいな」と思えるような統一感が生まれてくると良いですねえ。
しかし、建物はいつかその寿命を全うし、解体しなければならない時が来ます。この時、地中に埋設された補強体が問題になります。
先に述べたように、補強体の性能が明らかであれば、そこに作用可能な荷重が分かるので、同様の規模の建物であれば再利用可能です。しかし、多くの場合、建物の解体と同時に補強体の撤去も必要になることが想定できます。
地盤補強体の撤去は、なかなかの難工事です。
特に現場造成する柱状改良体の撤去費用は、施工時よりも高くなることが一般的です。特に、補強体撤去後の埋戻しを高品質で実施することが難しく、撤去工事後に、撤去跡の埋戻しが不十分で、これに起因して地表面が陥没する等の問題が発生する可能性もあります。
私は、一般建築物の建設現場に残された「杭撤去跡」が原因で、新設の杭の建設費用が倍増した案件に関与したことがあります。
現在の土地の所有者と工事業者は、杭撤去工事が杜撰であったために工事費用が倍増したとして、土地の販売者に巨額の損害賠償請求をしていました。
このようなことから、今後の地盤補強工法では、撤去の容易さや埋戻しの確実さのような新たな性能が求められるようになると考えられます。
現在の多くの住宅で、地盤補強の設計と建物の設計の不一致が生まれています。
この不一致は、住宅の構造計算が行われないことに起因しています。
また、ここでは取り上げませんでしたが、液状化の危険度予測や沈下量の定量的評価等、地盤の性能を定量的に評価しないことが慣例化していることにも問題があります。
さらに、住宅は最大の個人資産であるはずですが、性能が定かではない地盤補強工法が広く利用されつづけていることも問題です。
これらのことは、「その建物が長期的に安定していることを証明できない」ということに繋がっていきます。
建築士の皆様、あなたが作っているのは、「未来に残る国民のストック」ですか?それとも、30年後にはこの世からなくなるものですか?
「未来に残る国民のストック」が日に日に増えていきますように。
神村真