2019年10月25日に千葉県千葉市で2名が亡くなる土砂崩れが発生しました。
当時、近くの造成地で色々な調査をしていたので、この災害のことを非常によく記憶しています。
この被災地に限らず、「こういう場所に住宅開発は怖いなあ」と感じることがしばしばです。
こういう、「一見して危険性を感じる土地」は、ほんの少しの地形や災害に関する知識があれば、見抜くことが可能です。
今回は、この土砂災害を振り返りながら、土砂崩れの危険性について考えていきます。
この記事の一部は動画でも解説していますので、そちらもご覧ください。
2019年10月25日の千葉市での降水量の記録を図-1に示します(気象庁記録に基づく)。
未明から降り始めた雨は正午頃にピークを迎え、正午頃には1時間当たり40mmを超える猛烈な雨が降っていたことが分かります。
また、この時点で1日の累計降水量は120mmを超えています。
図-2に、2019年10月の累計降水量の推移を示した。この図から、25日の雨で、1か月の累計降水量が400mmを超えたことが分かります。
図-3には、1966年から2020年までの10月の月間降水量を示します。図から、月間降水量が400mmを超えることは、1960年代から1990年代にかけては1例しかなく、2000年代では4回存在することが分かります。
以上のように、この日の雨は、記録的なものであったことが分かりますが、その記録的な豪雨が、2000年以降、頻繁に発生していることも分かります。
気象庁webサイト:過去の気象データの検索https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index.php
被災地付近の等高線や状況を確認すると、敷地奥に高さ約5mの間知擁壁があり、擁壁天端から台地天端までの標高差は約10mと推測できます。(図-4参照入)
地理院地図で土地条件図を確認すると、被害を受けた住宅は「山地斜面」に位置していて、台地と低地の境界に位置していることが分かります。
このあたりは、台地中に谷筋が何本も見られるように、水が台地を削って谷を作り、谷底に軟らかい土が堆積して低地を作ってます。
このため、台地と低地の境界は、台地の端部が崩壊するので、急な傾斜地を作っています(図-5参照)。
土砂崩れ発生後の報道写真を見ると、被災住宅奥の間知擁壁が確認できるので、崩壊したのは、擁壁よりも上の斜面です。また、報道写真では、崩壊斜面から幾筋からの水の流れが確認できます。
これらのことから、大量の雨によって地表面や地中のミズミチから斜面に多量の水が供給されたことで、斜面崩壊に至ったと考えられます。
私たちは、斜面を見て、その安全性を理解することはできません。
土砂災害の危険性が極めて高い地域では、自治体によって「土砂災害警戒区域」、「土砂災害特別警戒区域」の指定がされますので、住宅用の土地を探しておられる場合は、そのような地域指定がある土地の購入は避けることをお勧めします。
なお、この区域指定は必ずしも完璧ではありません。
上述の千葉市の被災地は、警戒区域指定がされていませんでしたが、災害後の調査では区域指定が必要な地域であったことが分かっています。
このことから、「区域指定されていないので斜面があるけど大丈夫」と考えてはいけないことが分かります。
このため、土砂崩れのリスクについては、以下の点に気を付けることをお勧めします。
上記4項目について、簡単に説明します。
【隣地に斜面があり、その高さが1階窓よりも高い】斜面が崩壊すると1階窓から土砂が浸入してくる可能性があります。斜面高さまたは擁壁高さ以上の離隔を確保して住宅を建設するか、控え擁壁を施工するなど、土砂崩れに備えて下さい。
【隣地ではないが、造成地内に、高さが二階建て住宅を超える斜面がある】土砂崩れのパワーは想像を絶します。斜面から1区画程度離れていても、土砂崩れに巻き込まれる可能性があります。
【高さ2m以上の間知擁壁(ブロック積擁壁)がある】間知擁壁は地震時の安全性が定かではありません。擁壁高さが高いほど、擁壁が倒壊した場合のダメージは大きいので、警戒が必要です。
【間知擁壁の上に、自然斜面が残されている】土地の有効利用を目的として斜面の底部を切土して、そこに間知擁壁を築いた事例を見かけます。千葉市の被災地もこのパターンです。2020年2月に突然崩壊して女子高生の命を奪った事例も同様です。
なお、擁壁や斜面が、自分の敷地内にある場合、それは、ご自身の所有物です。土砂崩れで、斜面下の住宅が大破し、住民が死亡した場合は、所有者の責任になることも記憶しておく必要があります。
土砂崩れは斜面があるから発生します。このリスクを取り除くためには、斜面のない場所に住むことです。
単純なことですが、それが実行されていないので、毎年大雨の後に、命や財産が奪われいます。
日本では、災害に対して手厚い対応がされていますが、そんなことをする前に、人が住める場所を、より制約すべきです。
「売られているから安全な宅地」そんなことは決してありません。
なお、土砂災害の危険性がある宅地でも、被害を軽減する方法は、いくつかあります。建築士は、その土地の持つリスクを把握し、それに応じたプランの提案を頂けますようお願い致します。
神村真