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工場生産された 「鋼管」は、品質のばらつきが小さく、高強度なので、杭状補強体として申し分のない材料です。でも、材料費が高いことから住宅分野では柱状改良工法よりは利用範囲が狭いように思います。

この構図、本当に正しいのでしょうか?

住宅分野で柱状改良工法を用いる場合、配合試験や全長コアによる品質検査等、本来やるべき管理項目が省略されています。このように「本来やるべきことをやらないことで工事費を抑えた工法」と、「既に品質が保証されている材料を用いる工法」を同列に比較することに、大した意味はありません。

とはいうものの、鋼管工法も、やるべきことをやらないと、色々な問題に遭遇します。ここでは、設計・施工に注目して、鋼管工法を採用する場合に考慮すべき事項をまとめて示しました。

  1. 使い方
  2. 地盤補強の仕組みと注意点
  3. 施工方法と注意点
  4. まとめ

1.使い方

鋼管工法の適用範囲は、柱状改良工法と同様と考えて問題ありません。詳細は、下に示すブログ記事や動画を参照してください。

鋼管を用いる地盤補強は、土質を選ばないという点で、柱状改良工法よりも適用範囲が広く、施工も比較的容易であるという点で非常に優れた工法です。しかし、材料費が他工法よりも高いため、高額な工事と考えられがちです。

しかし、住宅分野では、柱状改良工法を行うにあたって配合試験を行わないし、全長コアによる品質確認を行わないので、工事後に所定の品質が確保されていないというリスクが非常に高いことをご存じでしょうか?

このリスクを考慮すれば、「鋼管工法の工事費用が高い」という考えは緩和されるはずです。

しかし、残念ながら、現実には柱状改良工法では配合試験も全長コアによる品質確認も行われていません。このため、鋼管工法は、以下の条件を満足する場合に、柱状改良工法に対して経済優位性を発揮することができます。

  • 軟弱地盤が厚く、先端支持地盤の出現深度が地表面から6~10mを超える
  • セメント系固化材では固化することが難しい土が堆積していることが明らかな場合
  • 先端地盤の換算N値が10程度と大きい場合

柱状改良工法の配合試験や全長コアによる品質管理については、以下のブログや動画を参照ください。

2.地盤補強の仕組みと注意点

(1)地盤補強の仕組み

図-1に、鋼管の支持力成分の模式図を示します。鋼管の支持力(先端支持力)と鋼管周面と地盤との間に発生する周面抵抗力(周面摩擦力)の合計が、「地盤による補強体の支持力」になります。

一方、鋼管強度からも補強体に作用可能な荷重が決まります。これを「材料強度による補強体の支持力」と呼ぶことにします。

図-1 鋼管工法の支持力成分

鋼管の「材料強度による補強体の支持力」は、柱状改良よりも大きいので、大きな先端支持力を確保できる地盤があれば、鋼管本数を最小限に抑えるように基礎設計を行えば、かなり効率的な地盤補強を実現することが可能です。

(2)設計上の注意点

図-1中に、二種類の鋼管を示しましたが、一つは、「ただの鋼管(素管と呼んだりします)」、もう一つは、鋼管先端に「先端翼」を付けたもの(先端翼付き鋼管と呼びます)です。

先端翼付き鋼管は、鋼管の直径が小さくても大きな先端支持力を確保することが可能です。しかし、施工中に鋼管周辺地盤を乱すので、周面抵抗力は素管よりも低下することがあります。使用する工法の技術基準を必ず確認してください。

なお、鋼管は錆びます。このため、材料厚さを考える場合には、腐食シロを確保する必要があります。今後、住宅の供用期間は、非常に長くなることが想定されるので、腐食シロは、想定する供用期間に合わせて選定する必要があります。

この他、2本以上の鋼管を接続する場合に、溶接継手を選択する場合は、JIS規格に準じた溶接を行うことで継手ごとの許容応力度の低減をする必要がなくなります。機械式継手を使う場合は、その性能が第三者機関で審査されたものを使用してください。

3.施工方法と注意点

(1)施工方法

鋼管の施工は非常に簡単です。図-2に示すように、鋼管頭部に施工機械で圧入力を作用させて押し込むか(圧入)、鋼管頭部に圧入力と回転力を作用させて(回転圧入)、鋼管を地中に埋設します。

図-2 鋼管の施工手順

先端翼付きの鋼管の場合、回転圧入しか選択肢はありません。通常、先端翼には傾斜がついているので、この傾斜に沿って鋼管が地中に入っていくように、回転速度と押込み速度を調整すると、小さな抵抗で鋼管を埋設することが可能です。

(2)施工上の注意点

先端地盤が砂礫層等の硬い地層の場合、鋼管を所定深度に到達させるために、大きな回転トルクを作用させる必要があります。このような場合、鋼管頭部で局所的な座屈が発生したり、鋼管が破断する場合があります。

このため、使用する施工機械の最大値が作用しても鋼管頭部が破損しないように、事前に、鋼管頭部強度について検討しておく必要があります。以下の論文は古い論文ですが、鋼管の半径と板厚から、施工中の鋼管座屈を防ぐための設計基準強度の低減方法等が示されています。鋼管の材質や板厚の検討を行う場合に参考にしてください。

【参考資料】 岸田英明、高野昭信:鋼管ぐいの座屈と端部補強,日本建築学会論文報告集,vol.213, pp29-38, 1973.

また、杭状地盤補強に共通することですが、鋼管の場合、先端支持力が主な支持力となることが多いので、鋼管の先端が確実に所定の地層に到達したことを確認する必要があります。

鋼管先端が所定の地層に到達していなかったことで不同沈下が発生することもありますので、事前に先端地盤(支持層)の出現深度が敷地内で変化していることが分かっている場合は、特に注意が必要です(図-3参照)。

図-3 鋼管の着底管理

この他、鋼管工法特有の問題としては、溶接の問題があります。溶接は、天候、気温、風によって溶接精度が低下するので、現場環境に応じた養生を行う必要があることに注意してください。

4.まとめ

鋼管工法は、施工や地盤条件によって補強体の品質が左右されないという点で、大変優れた工法です。

しかし、腐食シロを適切に考慮しなければ、地盤補強工法としての機能が、将来に失われる可能性がある点、施工中に鋼管を破損してしまう可能性がある点等、問題も当然あります。

また、鋼管の販売価格が常に変動している点も、住まいづくりの標準的な工法として取り扱いにくい点でもあります。

建築士は、工法選定時には、工事費用だけではなく、自社の協力会社の施工能力、現場の土質等も踏まえ、安定した品質を適当な価格で確保可能な工法を選択する必要があります。

神村真



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