「複合地盤補強」という言葉があるのか分からないのですが、ここでは、「杭状補強体」と「基礎底面以深地盤」のそれぞれの支持力を考慮して、建物を支える地盤補強工法のことを、このように呼ぶことにしたいと思います。
私が2006年に住宅業界に入ったとき、住宅分野で用いられている「複合地盤補強」工法は、片手で数えるほどもなかったと思います。この工法では、杭状地盤補強なのに、「地盤の支持力」を考慮するという点が、通常の杭状地盤補強と異なる点です。
今回は、複合地盤について解説していきたいと思います。
「複合地盤補強工法」での支持力成分を、図-1に整理して示しました。
図に示すようにこの工法では、杭状補強体の支持力と地盤の支持力の両方を活用して建物を支えます。
柱状改良工法の場合、くい基礎と違って、補強体先端地盤があまり硬くないので、柱状改良体だけに荷重が作用するのではなく、地盤にも荷重が伝わると考えて、改良体に作用する荷重を算出します。
通常、改良体は地盤よりもはるかに硬く、先端地盤は改良体周辺地盤よりも硬い地層を選択します。このため、基礎底面の地盤よりも改良体頭部に応力が集中するので、地盤の支持力を考慮することはありません。
しかし、住宅の地盤補強では、改良体の先端地盤が、改良体周辺や基礎直下地盤に比べて差が小さい場合があります。この場合、改良体への応力集中が小さく、地盤にも建物荷重が作用することになります。
このような場合、建物を支える力として、改良体の支持力だけではなく、地盤の支持力も考慮した方が、より合理的だと言えます。但し、建物荷重を積極的に伝達させる地盤が圧密沈下しないことを考慮しておく必要があります。
なお、このような支持力特性は、改良体先端地盤の強さに起因するものなので、柱状改良体に限らず、鋼管や砕石補強体等、あらゆる杭状補強体に当てはめることが可能です。
ただし、補強体の先端地盤が極端に硬い場合、複合地盤としての特性を示さないことが考えられます。このため、複合地盤の支持力算定式を作る際には、様々な条件での載荷試験を行い、複合地盤として支持力が期待できる適用範囲を特定しています。
複合地盤補強は、「特別なもの」として扱われがちですが、杭状補強体のみで建物荷重を支持する方法と大きな違いはありません。しかし、杭状補強体だけで建物荷重を支えているわけではないので、ちょっとした注意が必要になります。
設計段階での注意点を以下に示します。
複合地盤補強では、基礎直下地盤に建物荷重を伝えるので、基礎直下地盤が沈下する可能性があります。実際には、杭状補強体が、変位を抑制するのですが、その傾向は補強体先端地盤の硬さによって変化します。
このため、建物荷重によって基礎直下地盤の沈下量を予測し、不同沈下が生じないことを確認しておくこと必要がありますます。
多くの複合地盤補強工法で、基礎直下や補強体周辺地盤について、様々な条件が設定されてますが、この条件は、基礎底面地盤での沈下が大きなものにならない条件でもあります。
通常の杭状地盤補強工法でもありうることですが、補強体の長さによっては、補強体先端地盤以深に建物荷重が伝わります。この建物荷重による地中内の応力増加によって補強体先端地盤以深の地層で沈下が発生する可能性があります。
このため、補強体先端地盤以深で、建物に影響を及ぼすような沈下が発生しないことを確認する必要があります。
また、この沈下する可能性がある地層の層厚が敷地内で変化している場合、不同沈下が発生する可能性が高まりますので、その点についても注意が必要です。
どの工法でも共通のことですが、新規盛土による圧密沈下が進行中の敷地では、補強していても不同沈下が生じます。
私のブログで頻繁に取り上げる「おかしなSWS試験結果(本来、弱い地層が連続してるはずなのに、やや強い地層が堆積しているように見える試験結果)」の場合、複合地盤補強を採用すると不同沈下する可能性が大幅に高まります。
これは、「おかしなSWS試験結果」では、地盤強度が不十分な地層を、杭状補強体の先端地盤として選定する可能性があるためです。
複合地盤補強は、特別な地盤補強工法ではなく、杭状地盤補強工法の「特殊な使い方」に過ぎません。特別に沈下に対して強いわけでもないので、過大な期待は禁物です。
但し、杭状補強体のみで建物荷重を支持するわけではないので、通常の杭状地盤補強工法よりは、適用可能な範囲は拡大する可能性があります。
上手に使えば地盤補強工事の経済性を高める可能性もあります。
神村真