• 地盤の専門家神村真による宅地防災の情報発信サイト

私は工業高専に通っていたので、10代の頃(1980年代の後半)から、埋立地などで、地下水位以下の砂質土地盤が、地震時に「液状化」するということは知っていました。でも、具体的にどんなことが起こるかということを目の当たりにしたのは、1995年の兵庫県南部地震でのことでした。

また、液状化被害を受けた建物の修復に直接関与するようになったのは、さらに後の2011年東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)でのことでした。

私は、この地震の後、全国で液状化に関する解説をして回りましたが、液状化についての正しい知識を持たない人が多いことに驚かされました。また、震災後数年で、液状化についての危機意識が急激に薄れていくことにも驚かされました。

残念ながら、液状化の危険度は時間経過とともに低下するものではありません。今でも、危険な箇所は危険なまま残されているはずです。今回は、この液状化の危険度の測り方について解説したいと思います。

  1. 液状化とは何か?
  2. 液状化しやすい土
  3. 液状化の危険度の予測
  4. まとめ

1.液状化とは何か?

土の「液状化」現象とは、読んで字の如しで、土が水のように振舞う現象です。

地震によって地盤が左右にゆすられると、土の粒子の配列が変わって、土の密度が高くなります。あふれそうになった貯金箱を、ゆさゆさ揺さぶると、もう少し小銭が入るようになったりしますよね?あの原理です。

粒子径が比較的大きくて、水の移動が比較的容易な土の場合、このような地震による「地盤の体積変化」は、特に問題もなく行われます(もちろん、地表面に家が建っていれば大変なことになりますが…)。

図-1 液状化の発生原因の模式図

それでは、地下水以下の比較的粒子径の小さな砂が主成分の地層では、どうでしょう?

土粒子は、図-1の下図に示すように、地震力が作用することで、正方形の配置からひし形の配置に「変化」したいわけですが、地下水位以下で、比較的粒子径が小さい砂が主体の地盤では、この「変化」が実は簡単ではありません。

土粒子と土粒子の間(間隙)が狭いと、地震動発生中に、水が自由に行きできなくなります。水が自由に移動できないと、振動によって体積変化しようとしている土粒子が、間隙内の水(間隙水)を、グイグイと押すことになります。ところが、水は「非圧縮性流体」なので、土粒子からグイグイと押されても体積が小さくなりません(縮みません)。このため、間隙水の水圧は、周囲の土粒子がグイグイ押す力とつりあうように上昇します。この増加した水圧を過剰間隙水圧と呼びます。

図-2は、過剰間隙水圧が発生する過程を模式図で示したものです。粒子間に過剰間隙水圧に抵抗できる力が作用していなければ、粒子間のつながりは弱まって、地盤はやがて水のように振舞うようになります。

これが、液状化現象です。

図⁻2 地震時の地下水位以下での砂地盤の動き

粘性土が液状化しないのは、土粒子間に電気的または科学的な結合力が働いているので、過剰間隙水圧が増加しても、土粒子の骨格構造を維持できるためです。一方、砂質土では、土粒子間に特殊な結合力が働いていないので、条件が整っていれば、容易に液状化するのです。

2.液状化しやすい土

先ほどお話したように、液状化するのは、「地下水位以下」にある「砂」です。

簡単ですね。では、「砂」って何でしょう?

「砂」や「粘土」は、通常は、粒子の大きさ(粒子径)で定義されます。図-3は、いろいろな土の粒度分布(どの大きさの土粒子がどのような割合で含まれるかを示したもの)を示したグラフです。

「砂」は、粒子径が0.075㎜から2㎜までの粒子の集まりのことです。「粘土」は、粒子径が0.005㎜以下の粒子の集まりのことです。砂と粘土の間にある土のことを「シルト」と呼びます。ちなみに、砂よりも粒子径が小さい粒子の集まりを「細粒分(さいりゅうぶん)」と呼びます。

図⁻3 粒度分析結果の一例

さて、この細粒分は粘性土を特徴づける粒子なのですが、実は砂っぽい性質のものも含まれます。粘性土のネバネバは粘土鉱物などに由来する特殊な土粒子間の結合力に由来しますが、砂を構成する鉱物では、このような力はありません。

このため、土の粒子径だけを見ていても土の性質を把握することはできません。粒子径から見れば細粒分なのでベタベタしているのかと思いき、サラサラとした砂のような土も存在するのです。

このように、粒子径だけでは区分できない「隠れた砂」を見つけ出す試験が「液性限界試験」と「塑性限界試験」です。それぞれの試験から得られる「液性限界」と「塑性限界」は、土が「土らしい状態」でいられる限界の水分量を表します。両者の差を「塑性限界」と呼び、この値が大きいほど、粘土っぽく、小さいほど砂っぽいと判断します。

塑性指数が大きいということは、その土が含むことができる水分量が多いことを意味します。粘土は、土粒子の間隙が大きく、多くの水分を含むことができるので、塑性指数が大きくなります。一方、砂質土は、粘土のように水分を多く含むことができないので、塑性指数は小さくなります。

自然状態で堆積した砂質土の場合、塑性指数の小さい砂は粘土と一緒に堆積することになると思いますが、埋立地では少し事情が異なります。

埋立地を作るためは、取扱いのしやすさから主に砂質土を利用します。また、これを埋立地に送るために大量の水を混ぜてポンプで圧送し、対象地に撒きだします。この時、土の噴き出し口近くには、粒子の大きいものが堆積し、吹き出し口から遠くに粒子の小さい土が送り届けられます。結果として、粘土成分を多く含まない、粒子径の小さい砂が堆積する場所が出来上がります。

このため、埋立地の中には、砂の性質を持っているけど粒子径の小さいもの=「塑性指数の低い細粒分」が堆積している場所ができるのです。このような場所では、液状化が発生する可能性が高まります。

3.液状化の危険度の予測

1.でお話したように、液状化の発生原因は、以下の4つの項目で表されます。

  • ① 地震
  • ② 地震で揺すられたことで地盤の体積が小さくなろうとすること
  • ③ 地下水位以下
  • ④ 砂っぽい土

「① 地震」は、地盤から見れば「外力」です。地盤に作用する力ですね。これに対して、「② 地震で揺すられることで地盤の体積が小さくなろうとすること」とは、「外力によって地盤が変形してしまう」こと を意味します。つまり、作用力に対して地盤が弱い(変形しやすい)ということです。

残りの「③ 地下水位以下」と「④ 砂っぽい土」は、液状化が発生するためにはなくてはならない条件です。水がなければ液状化は発生しませんし、砂っぽい土=サラサラした粘着力の小さい土でなければ、やはり液状化は発生しません。

以上のことを整理すると、液状化の発生は、「地下水位以下の砂っぽい土」が、作用する地震力に対して、「変形しやすく」、「発生する水圧に耐える強度を持たない」ときに発生するといえます。

ですから、地下水位以下の砂っぽい土が、「地震によって地盤に作用する力
L」に対して十分な「土の強さR 」を持っているか否かを調べることで、「液状化するか/しないか」を知ることができるということです。

このため、一般には、深度1mごとに、土質と土の強さを調べて、「液状化に対する安全率FL」を次式で計算します。

FL=(土の液状化に対する抵抗力R )÷(地震力 L )=R/L

なお、「土の液状化に対する抵抗力」は、SWS試験や標準貫入試験(ボーリング調査と併用される試験)結果から求めることができます。また、「地震力」は、想定する地震のマグニチュードや設計用の地表面水平加速度などから求めることができます。

しかし、深度ごとの安全率を求めることができても、地表面に現れる影響は、液状化する層の出現深度によって変化します。これは、液状化が発生する深度が地表面に近いほど液状化による影響が大きくなるためです。この液状化する層の出現深度の影響を考慮したのが、液状化指標値PLです。 PLは次式で表されますが、式中に「液状化に対する安全率FL の大きさ」と「FL<1.0の層(液状化する層)の出現深度」が含まれていて、地表面での液状化の危険度を数値で知ることができることが分かります。

PLは優れた指標ですが、この値だけではFL と同様に、どのような被害が想定されて、注意すべきなのか、気にしなくてもよいのか判断できません。このため、国土交通省は、宅地に対する液状化の危険度を、図-4に示すチャートで評価することとしています(なお、国土交通省は、評価の指標として、地表面の沈下量
Dcy も示していますが、ここでは割愛しました)。

図⁻4 液状化危険度の判定図の一例

【参考文献】国土交通省「宅地の液状化被害可能性判定に係る技術指針・同解説(案)」https://www.mlit.go.jp/toshi/toshi_fr1_000012.html

このチャートを利用すれば、対象となる敷地での液状化による危険度を、五つのランクに分けて評価することができるので、対策の必要性や対策仕様の決定ができるようになります。

4.まとめ

2011年3月の東日本大震災以降に、工務店の建築士と液状化地域での地盤調査についてお話をさせて頂いた際に、

「住宅は個人の資産で建設するものなので、地盤調査に大きな金額を出してもらえない」

という話をうかがいました。

住宅づくりは経済活動なので、消費者の関心の低い事柄には予算を割けないということだと理解しています。

しかし、地盤を生業にする者としては、液状化の危険性を正しく評価しなければ、適切な対策を考えることさえできないことを、建築士から消費者に伝えて頂きたいと考えざるを得ません。少なくとも21世紀に入ってから液状化被害が発生した地域では、液状化の危険度の評価を適切に実施しなければ、建物の安全性そのものを確保できないことを、建築士から消費者にお伝えいただきたいものです。

神村真



コメント一覧

返信2021年9月24日 4:29 PM

富岡直人24/

シェアさせてください。 自分は今は無き東海大学海洋学部海洋資源科に在籍中、拝見した新潟地震の記録で液状化の怖さを見ました。ただ、液状化については知名度がなく、危機感がないので心配しています。情報発信をこれからもよろしくお願いいたします。

    返信2021年9月24日 8:44 PM

    神村真24/

    富岡様 こちらこそシェアお願いいたします。 液状化については、認識が高まっていますが、「不同沈下するだけなので、沈下修復工事で直すことができる」という考えが広まっているように思います。しかし、直すのがどれだけ大変か?直すまでの間、どう過ごすか?という「現実」についての理解は、全然深まっていないですね。今後も、消費者が、自分のお金を投資するときに、「何が最適か」という判断に役立つ情報の提供に努めたいと思います。

富岡直人 へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA