• 地盤の専門家神村真による宅地防災の情報発信サイト

新築住宅が完成後まもなく傾く事故がしばしば発生していることや、地震時に液状化や振動によっても家が傾いたり壊れたりしていることは、以前にも紹介しました。

私は、この事実の根源は、「要求品質」にあると考えています。今回は、「要求品質」に着目することで、「傾かない家」、「壊れない家」を作る方法を示したいと思います。

  1. あなたが造る家の要求品質
  2. 要求品質と地盤調査
  3. 要求品質と施工管理・品質管理
  4. まとめ

1.あなたが造る家の要求品質

さて、「要求品質」って何でしょう?

建築基準法は、法律としての要求品質を定義していますが、これは言ってみればボトムラインで、「あなたが造る家」の要求品質は、あなたとあなたのお客さんが決めれば良いものです。

あなたが、もしも、「建築基準法さえ満足していれば、それで十分」と考えているなら、これから先の文章は、あなたにとっては何の価値もありませんので、時間の無駄です。読むのをやめてください。

でも、あなたが、少しでも「建築基準法を満足しているだけでは、自分の理想とする「家」が作れない」とお考えであれば、もう少し読み進んで頂きたいと思います。

以下でお話することは、主に地盤に関わることですが、この話は、その他のことにも当てはまる話ですので、「地盤のことか…」と言わず、読んでいただければ嬉しいです。

さて、あなたの造る家は、どの程度、沈下してもよいのでしょうか?あるいは、どの程度傾いてもよいのでしょうか?

建築基準法では許容沈下量や許容傾斜角は定められていませんが、住宅の品確法では瑕疵の有無の可能性が考えられる基準として、傾斜角が3/1,000以上であることを挙げています。

あなたは、あるいは、あなたのお客様は、3/1,000傾いた家でもよいのでしょうか?

また、その基準は、地震力による傾斜に対しても同様なのでしょうか?

建築基準法では、損傷が生じない限界の震度は5強程度と言われていますし、標準層せん断係数は0.2ですが、あなたの設計する家では、どのように設定されていますか?

図⁻1 建築基準法で考える地震の規模と被害の内容

【参照】国土交通省HP:住宅・建築物の耐震化について
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_fr_000043.html

このように、建築基準法を守ることは最低限必要なことですが、あなたの造る家の要求品質は、最低限である必要はありません。あなたが市場に供給したい品質を定義すればよいのです。

2.要求品質と地盤調査

あなたが、独自の要求品質を定めたなら、要求品質を満足するために何をするべきでしょうか?例えば、不同沈下の許容値を3/1,000未満と設定したならば、どのような対応が必要でしょう?沈下量の予測手順を見ながら考えていきましょう。

図-2に、建物の重さに対する沈下の発生イメージを示します。この図から分かるように、 沈下量は、以下の項目によって変化します。

  • 建物の重さ
  • 基礎の形状
  • 軟弱層の厚さ
  • 軟弱層の硬さ
図⁻2 不同沈下量に影響を及ぼす項目の例 

建物の重さや基礎の形状は、あなたの設計内容によって決まります。一方、軟弱層の厚さや硬さは、地盤調査によって求めることが可能です。ここで考えなければならないのは、建物の重さや軟弱層の厚さや硬さの正確さです。

べた基礎の適用基準である支持力20kN/m2から、建物の基礎接地圧を20kN/m2とすることがありますが、木造二階建て住宅の接地圧はせいぜい15kN/m2ですので、建物の重さを正確に求めないと、これだけで、沈下量が約1.3倍過大評価されてしまいます。

また、SWS試験だけでは土質の確認ができないので、沈下に影響を及ぼす軟弱層の層厚を確認することができません。さらに、SWS試験では、大きな沈下量が発生する正規圧密沈下を予測することができません(詳細は、以下の記事をご確認ください)。

このように、設定した要求品質を満足するためには、建物の重さを正確に求めたり、地盤調査の内容にも気を配る必要があります。

ちなみに、あなたが、「理想とする家」の許容不同沈下量を3/1,000と定めるなら、SWS試験結果に基づいて、以下の二種類の対応のうち、いずれかを採用する必要があります。

  • 許容沈下量を予測可能な地盤調査方法を採用する
  • 不同沈下が発生しないような地盤補強を行う

また、耐震性についても同様にことが言えます。

あたなが求める耐震性能が、建築基準法では満足できないと考えているのなら、以下のことを考える必要があります。

  • 想定する地震の規模
  • 建築予定地の地盤の揺れやすさ(地盤の固有周期の確認)

つまり、「要求品質」を定めたら、それを実現するために、徹底的に調べ、関係する項目についてできるだけ正確に予測しなければならないのです。そのために必要な調査は、巷で常識とされているものではないのです。

3.要求品質と施工管理・品質管理

次に、地盤補強の工事内容にも目の向けてみましょう。ここでは、地盤補強工事に関することを記載します。地盤補強工事は、住宅の建設工事と同じ、「現場単品生産」です。地盤補強工事で考えなければならないことは、住宅の建設でも考えなければならないはずですね。

例えば、杭状地盤補強の場合、発生沈下量を抑えるために必要な条件として、以下の四つの項目を設計上定めています。地盤補強工事では、当然、これらの項目を満足していることを確認する必要があります。

  • 直径や材料厚さなどの杭状補強体の断面形状が、設計で規定した値を満足していること
  • 杭状補強体が、建物の重さに対して十分な強度を持っていること
  • 杭状補強体の先端が、所定の強度と厚さを持った地層に到達していること
  • 杭状補強体が、想定する周面抵抗力を発揮するために必要な長さを有していること
図⁻3 杭状補強体が満足しなければならない項目

あなたは、「あなたが決めた要求品質」を満足させるために、家造りの現場で管理すべき「項目」と「基準」を定め、各項目について、常に「基準」が満足されていることを観察・確認しなければならないのです。

4.まとめ

「要求品質」に注目して、「傾かない家」の実現方法を考えていくと、「定めた要求品質を満足するために行うべきことを行う」ことに尽きるようです。「当たり前」のことのように思いますが、「経済性」ということが加わると、「当たり前のこと」は、当たり前のように行われなくなります。

例えば地盤調査。「家づくり」と「その他の建築物」では、明らかに調査内容が異なります。これは、「経済性」の名のもとに、「当たり前のこと」が行われなくなった好例でしょう。このようなことがあちこちで行われた結果、「住宅づくりのための地盤調査はSWS試験だけで十分」という「新しい常識」が生まれてしまったのでしょう。まさに、common senseです。

しかし、家づくりは「常識」に基づいて行うものではなく、「技術」に基づいて行うものです。あなたの造る家に相応し技術を活用するだけで、傾かない家は実現できるのです。

神村真



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