• 地盤の専門家神村真による宅地防災の情報発信サイト

「家造り」に取り掛かると、構造や断熱性能、間取りや設備に注意が向かいますよね。

当然です。

しかし、そのプロセスに入る前に、足元のことを良く考えるようにして頂くと、後で困ることが相当減ります。

地盤リスクは、その土地に固有のものです。それを知ることが、安全で安心な家造りの第一歩ではないでしょうか?

「プラン」の前に、まず「地盤」です。

  1. 地盤リスクって何?
  2. 地盤リスクと地層構成の関係
  3. 住宅地盤での地層構成確認の重要性
  4. まとめ

1.地盤リスクって何?

地盤工学会は、「地盤リスク」を以下のように定義しています。

地盤リスク:目的に対する”地盤に関する”不確かさの影響

公益社団法人地盤工学会:役立つ!!地盤リスクの知識, p.45, 2013.

この定義を家づくりに当てはめてみましょう。

「目的」は「安全で安心な家を確保すること」ですから、地盤リスクは、目的達成を阻害する「地盤に関する不確かさ」と考えればよいですよね。

まだ、よく分かりませんね。

「安全で安心を家」を、「不同沈下や土砂災害、地震時の振動や液状化で壊れない家」と定義すれば、地盤リスクは、以下のような「不確かさ」の「影響」ということができます。

【地盤に関する不確かさ】

  • 不同沈下:建物の重さによって大きな沈下が発生しないか?
  • 土砂災害:がけ崩れや土石流で家が壊れないか?
  • 地震(揺れ):地震動で家が壊れないか?
  • 地震(液状化):地震による液状化で家が傾かないか?
  • その他:例えば、地盤調査の不確かさ

次に、「影響」とは何でしょう?

上記の「不確かさ」を放置すると、家が傾き、健康を害し、傾きを修復するために多大な費用を確保する必要に迫られます。また、大規模災害によって家が壊れると、資産の減少だけではなく、長期間の避難所暮らしや失職など、精神を正常に保つことが困難な状況に陥ります。

「不確かさの影響」とは、このような、家の所有者にとっての具体的な「損失」や先の見えない「苦境」のことです。

さて、このように「地盤リスク」は、住まい手に、深刻な影響を与える問題ではないでしょうか?

私は、地盤リスクを、構造物設計上で考慮すべき「条件」だと考えています。その理由は二つあります。

  • 地盤リスクは、地盤の支持力や地震時の設計外力等、構造物の設計に必要な条件と関係しているから
  • 地盤リスクは、建設コストに大きな影響を及ぼすから

もしも、あなたが、習慣的にプラン作りを先行しているなら、それと並行して「地盤リスクの調査」を行ってもらえませんか?

「住まいづくりについても契約していないのに、地盤調査費は請求できない」

そうですよね。しかし、それこそが、「災害で壊れる家が造り続けられる」源流なのです。

「地盤リスクを確認することは、建物のプランを変える前にやるべきこと」だと、消費者に伝えることができるのは、あなただけなのです。

2.地盤リスクと地層構成の関係

それでは、地盤リスクをどのように評価していくかについて触れていきます。

図‐1に、ある場所で行ったボーリング調査結果から作られた「土質柱状図」を示します。

図-1 ボーリング調査結果から作られた土質柱状図

あなたが、毎日踏みつけている地盤は、実は、このように複数の異なる土からなる「層」になっています。ここでは、この土質の異なる土の層のことを「地層」と呼びます。「どのような土の地層」が「どのような厚さ」で「どのような順番」で並んでいるかということを称して「地層構成」と呼びます。

図-1では、表層部は「盛土」で、その下に「有機質シルト」「腐植土」また「有機質シルト」という順で土の種類(土質)が変化しています。これらの土は、全て低地で堆積するものです。中でも腐植土は、湿地に繁茂する植物が未分解のまま堆積したものですから、この地域が長い間、湿地帯であったことが分かります。

このように、地層構成を眺めることで、その土地の生い立ちを知ることができます。

1.で挙げた「地盤に関する不確かさ」のうち、不同沈下、地震(揺れ)、地震(液状化)に関する不確かさは、全て、この地層構成によって変化します。

それぞれの「不確かさ」と地層構成の関係について見ていきましょう。

【不同沈下】

建物の重さで地盤は、多かれ少なかれ縮みます。結果として地表面が下がるのですが、このことを「沈下する」と呼びます。沈下した量が「沈下量」です。

軟らかい土質からなる地層が地表面近くにあるほど、また、その厚さが厚いほど、沈下量は大きくなります。また、建物の下の軟らかい土の地層の厚さが変化する場合、場所によって沈下量が変化するので、家は傾き(不同沈下し)ます。

【地震(揺れ)】

地震は、地盤の深い場所にある岩盤から伝わってきます。岩盤の上に軟弱な地層が厚く堆積している場合、地表面での揺れは、とても大きなものになります。

【地震(液状化)】

液状化は、地下水位以下にある「緩い(弱い)砂層」が、地震で揺すられることで「水のように」なる現象です。つまり、地下水位以下に 「緩い(弱い)砂層」 がなければ液状化は起こりません。

さて、如何でしょう?

地盤リスクは、地層構成と強い関係があることがお分かり頂けましたか?

いずれの情報も、考慮せずに住宅の設計を行うことは難しいと思われます。

住宅の設計では、残念ながら、このような事前の「地層構成」の把握の重要性が見過ごされてきました。

しかし、住宅以外の建築物や構造物の設計の現場では、「まずは地盤調査」は常識ではないでしょうか?

「安心で安全な家」を造るために、「地層構成」を観察し、そこから地盤リスクを読み取り、そのための対策を踏まえて、家のプランを考える。そして、プランが固まったら、敷地内での地層の変化がないことを確認するために、計画箇所の四隅と中央部でスクリューウエイト貫入試験を実施する。

これが、現在考えられる地盤リスクを確認するための適切な流れではないでしょうか?

可能であれば、不動産屋さんが、「宅地として売買するなら、ボーリング調査を行わなければダメ」としてくれればよいのですが…

3.住宅地盤での地層構成確認の重要性

もう少し、地層構成の重要性を掘り下げたいと思います。

住宅建設の現場では、地盤調査方法として、「スクリューウエイト貫入試験(SWS試験)」が普及しています。

この試験方法は、「地盤がどの程度の重さを支えることができるのか」を示した指標である「長期許容支持力度」を求めることができるので、広く普及しました。

さて、それでは、この試験方法、「地層構成」を知ることができるのか?というとそうではありません。

この試験だけでは、「どのような土」が「どのような厚さ」で「どのような順番」で堆積しているのかを知ることはできません。

図‐2に、図-1に示した土質柱状図と同じ場所で行ったSWS試験結果を示します。

SWS試験では、図に示すように、WswとNswという二種類の数値を得ることができますが、地層構成を知ることはできません。もちろん、「WswとNswが小さければ、弱い地層が堆積している」という程度のことは分かりますが、WswとNsw の数字だけでは限界があります。

図‐2 SWS試験結果と土質柱状図の比較

ここで、SWS試験結果を見る場合の基礎知識を一つ紹介します。SWS試験結果を見る時、大雑把に以下のように考えます。

  • Wswが1kN未満=「弱い地層」
  • Wswが1kNで、Nswが計測されてる=「沈下する可能性は低い地層」

この考え方をもとに、図‐2のSWS試験結果と地層構成を見比べていきましょう。

【SWS試験結果】

GL-3.5m付近までは、Wswが1以下の地層が確認できるので、この部分は弱く、沈下の可能性が高いと判断できます。一方、GL-3.5~7mはWswが1kNで、GL-7m付近より下にはNswが計測されている地層が見えます。この試験結果だけ見ると、GL-3.5mよりも浅い部分は、沈下リスクが非常に高いけれど、よれよりも深い部分は、それほど大きな沈下が生じないのでは?という判断ができます。

【地層構成】

GL-0.5~3m付近には、有機質シルトという「軟弱な地層」が確認できます。この点は、SWS試験の結果と一致します。さらに、GL-3~8m付近には、腐植土が確認できます。この土は、葦などの植物が未分解のまま堆積したもので、「フカフカ」の地層です。荷重の作用によって、大きな沈下が発生します。また、GL-8~9mにも有機質シルトが堆積していますし、その下も、軟弱なシルト層が続いています。つまり、地層構成からは、「この土地では、沈下リスクが極めて高く、この調査結果だけでは、建物荷重を支えることができる地層が分からない」という判断が導かれます。

このように、SWS試験は、地層構成の確認ができないため、地盤リスクを見逃す可能性があることが分かります。

不同沈下事故の原因調査に出向くと、図‐2とほぼ同じ調査結果に出会います。

「地層構成の確認を怠ることで、非常に大きなリスクを抱える場合がある」ということをご理解頂きたいと思います。

4.まとめ

今回は、地盤リスクの中でも、「沈下」に注目しながら、地層構成の確認の重要性に触れました。

現在、住宅の耐震性や断熱性能などの「性能」に注目が集まっており、消費者の中には、非常に熱心に勉強されている人もおられるようです。「大きな投資をするのだから、しっかりと学んで、信頼できる業者を選ぼう」という医師の表れだと思います。とても良いことです。

しかし、一方で、地盤リスクに関する関心はいまひとつです。

「性能」に比べれば、「地盤リスク」はネガティブな要素が多く、どちらかというと消費意欲を減退させるものでもあるからでしょう。

しかし、この地盤リスクは、「耐震性」とは切っても切れない関係にあります。ところが、この耐震性に関する地盤リスクの評価は、現時点では、ほぼ行われていません。

この点については、機会をみてお話したいと思います。

<追伸> 今回の話で触れた、「SWS試験の適用限界」や「本来、こういう調査をやると良いんじゃない?」等については、以下の動画でも解説していますので、参考にしてください。

神村真



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