あなたは、住宅用に作られている柱状改良体の多くが、「品質がよく分からない」ことに気づいておられますか?
地盤改良業者から提出される施工報告書を見て、「十分な強度が確認されているから大丈夫」と考えておられると思いますが、ことはそんなに単純ではありません。
今回は、柱状改良体の品質についてのお話です。
あなたは、「全く均質な材料を造ることは不可能」であることをご存じでしょうか?
鉄は工場製品なので、かなり均質な材料ではあるけれど、やはり「全く均質な材料」とは到底言えません。できるだけ品質の揃ったものを出荷するために、日本工業規格(JIS)のような規格があります。
あなたが構造計算を一度でもしたことのあるなら、材料には「基準強度」と「許容応力度」が決められていることをご存じでしょう。
基準強度は、材料が弾性体として扱える限界の強度で、材料による個体差を考慮しても十分に小さい値が採用されています。基準強度は、材料強度よりもかなり小さく設定されています。
柱状改良体のように「現場で生産するもの」は、工場生産品に比べて個体差が非常に大きいので、基準強度は室内強度よりも、かなり小さくなります。図‐1は、柱状改良体築造前に実施する配合試験結果から得られる強度の分布(室内強度の分布)と現場で作った改良体から抜き取った供試体(試験体)の強度(現場強度の分布)の分布を示した模式図です。
図に示すように、改良体の強度を設計する場合、改良体の強度は、「正規分布」することを前提として考えます。
正規分布は、左右対称の釣り鐘型の分布のことです。この分布は、平均値と標準偏差σ(シグマ)が分かれば描くことができます。自然現象や製品の品質は、正規分布することが多いので、正規分布は、品質管理には好都合の分布です。
「均質な材料」の強度分布は、標準偏差σが小さく、強度分布が平均値に集中する「尖った分布」になります。一方、「不均質な材料」の強度分布は、標準偏差σが大きく、すそ野の広い「なだらな分布」になります。
図-1に示した室内強度は、固化材の添加量等を決めるために行う室内試験の結果です。比較的均質な供試体を造ることができるので、強度の分布は「尖った分布」になります。一方、現場強度は、現場で作られた改良体から抜き取ったコア強度なので、室内試験のように均質ではありません。現場強度は、室内強度に比べて均質性が低いためσが大きく、「なだらかな分布」になります。
なお、図中に示したVqufは、σを平均値で割り算した値で、「現場強度の変動係数」です。この値は、現場強度のばらつきを表す指標で、この値が大きいほど、強度分布は 「なだらな分布」 になり、材料の不均質さが大きくなります。
柱状改良体の基準強度は、この関係を利用して、式(1)を用いて算出されます。
この式に出てくる「1.3」という係数は、「築造した改良体から無作為に大量のサンプルを抜き取って強度試験をすると、全体の90%のサンプルで、強度が基準強度以上になる」ことを表しています。
Fc=(1-1.3V)・αfl・qul 式(1)
ここで、Fc:設計基準強度、V:改良体の一軸圧縮強さの変動係数、αfl:現場室内強度比、qul:室内配合強度です。
なお、式(1)は、改良体の強度が正規分布することを前提としています。
日本建築センターが示す指針には、強度の変動係数を確認していない場合、強度の変動係数は0.45と仮定することが示されています。ただし、施工後に、変動係数を確認し、設計段階での仮定が適切であったことを確認しなければなりません。
住宅用の地盤改良を行う地盤改良業者の多くは、変動係数0.45として基準強度を決めていると思います。しかし、施工後に、全長コアボーリングを行って、改良体強度の変動係数を確認しているということを、私は耳にしたことがありません。
このことは、築造された改良体で、式(1)が成立していることを確認できていないことを意味します。つまり、施工後に、抜き取りコア供試体三つ程度で改良体の強度確認をしたところで、作った改良体の品質は、全く明らかになっていないということです。
あなたは、1.の内容を読んでも、「とは言え、普通に施工していれば、そこそこ均質な改良体ができるんだろう」と思われるでしょう。気持ちは分かりますが、必ずしもそうではありません。
以前の記事でも掲載しましたが、柱状改良工法の開発途中で、改良体断面雄状態を確認した結果をお示ししましょう。
写真-1は、開発初期段階に築造した改良体の断面、写真-2は、開発完了段階に築造した改良体の断面です。
全然違いますよね。想像の通り、左側の改良体の強度は、正規分布しませんでした。右側の改良体の強度は、きれいな正規分布となりました。変動係数も20%程度と小さい値を示しました。
このように、改良体の断面は、作り方によって、大きな差が出ます。
だから、何度造っても、同程度の均質性を再現できる施工設備や施工方法を確立する必要があるのです。
私は柱状改良体の築造技術の開発に加わったころ、掘削撹拌翼を「たくさん回せばよいんだろう」程度にしか考えていませんでした。とんでもない誤解でした。多くの実験施工と経験豊富な施工機オペレーターや撹拌装置の修理をしてきた職人さんとの会話の中で多くのことを学びました。そのうちの代表的なものを列挙しましょう。
このような現象には全て理由があるので、掘削撹拌装置をどのように動かすかによって解決することが可能になります(場合によっては、固化材スラリーに添加剤を入れるなどの対応も必要です)。
このように、式(1)を満足する改良体を造るためには、相当なノウハウが必要です。
建設技術審査証明や建築技術性能証明といった第三者機関による技術審査を受けた工法は、常に式(1)を満足することが検証されています。
このため、あなたが、品質の明確な改良体によって家を支えたい。と考えるなら、第三者機関で技術審査を受けた改良工法以外を使用するべきではありません。
日本建築センターは、一般建築物の場合、写真-3に示すボーリングコアによる品質検査を規定していますが、木造住宅に代表される小規模建築物の場合、写真-4に示すモールドコアによる品質検査でヨシとしています。ただし、ボーリングコアとモールドコアの強度に相関性があることを示す「データの蓄積」が大前提です。
さて、あなたが地盤改良工事を発注する業者は、「ボーリングコアとモールドコアの強度比較データ」を持っていることを確認していますか?
日本建築センターでは、一般建築物の場合、ボーリングコアによる品質検査しか認めていません。ボーリングコアは、強度を確認するだけではなく、その採取率から、改良体全長に渡る改良体の品質をチェックすることが可能です。
モールドコアは、人が、まだ固まらない改良土をモールドに丁寧に詰めて作ったものです。このため、モールドコア供試体は、改良体の均質性を、全く反映していません。
第三者機関で技術審査を受けた工法の場合(適用建築物に小規模建築物が含まれる工法に限ります)、作った改良体の強度が式(1)に適合することも分かっているし、モールドコア供試体とボーリングコア供試体の強度の相関性も確認されています。
一方、第三者機関で技術審査を受けていない工法の多くは、式(1)が利用できることも分からないし、モールドコア強度とボーリングコア強度の相関性も分かりません。このため、ボーリングコアやモールドコアで強度確認を行っても、目標品質を満足していることを確認することはできません。
それでも、式(1)が成立することを証明しようとすれば、築造した改良から無作為に大量のボーリングコアを採取し、強度確認を行うしかありません。
これが、現在の住宅市場での地盤改良の現実です。
【参考となる資料】
日本建築センター・ベターリビング:2018年版建築物のための改良地盤の設計及び品質管理指針,pp.353-358,2018.
私が、住宅のための地盤改良工事業者に入社した2006年頃は、施工管理装置を使わずに地盤改良工事をしている業者が多くありました。
そのことを「けしからん」と思っていた時期もありますが、色々と経験を積んできますと、「それ以前の問題」であることに気づかされました。
管理装置の有無にかかわらず、住宅用に作られる改良体の多くは、品質不明な状態であることに気づいたからです。
あなたが、今日の記事を読んで、「柱状改良体はやばい」と感じるのであれば、第三者機関で技術審査を受けた改良工法のみを採用すべきです。
「地盤の中は見えないから分からない」という話をよく耳にしますが、「見えないのではありません。見ていないのです」。あなたが見ているのが、もしも工事費用だけだったら、それは、大きな誤りです。
各改良業者が「どういう思想で技術開発をし」、「あなたに何を提供しようとしているか」。こういうことまで読み取るのが、住まいづくりのプロジェクトマネージャーである建築士の役割ではないでしょうか?
神村真