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前回のブログで、基礎の構造計算に基づいて杭配置を決めることで、合理的な地盤補強工事費の削減が可能であることをお話しましたが、今回は、もう少しだけ具体的に、基礎の構造計算と地盤補強設計との関係を見ていきましょう。

基礎設計と地盤補強の設計。両者は無関係なもののように感じるかもしれませんが、この両者を構造計算で統合することが、地盤補強工事をコストダウンするための唯一の合理的手法です。

  1. 地盤補強と作用荷重
  2. 支点反力と地盤反力
  3. 地盤改良会社との連携
  4. まとめ

1.地盤補強と作用荷重

前回のブログでも書きましたが、杭状地盤補強体(以降は、「杭」と表記します)を打設すると、基礎に作用する力が大きく変化します。図‐1図‐2がその変化を示したものです(前回と同じ図)。

図‐1 基礎に作用する荷重(杭がない場合)
図‐2 基礎に作用する荷重(杭がある場合)

基礎に作用する荷重は、杭の打設によって大きく変化することが分かります。しかし、実際の作用荷重の変化は、こんなに極端ではありません。特に、住宅の場合、杭の先端地盤は、N値が3~10と、比較的小さい場合が多く、建物荷重を杭だけで支えていないケースがあると考えられます。

つまり、図‐1図‐2の中間に位置する荷重状態が存在するということです。

2.支点反力と地盤反力

柱状改良体の設計者のバイブルである、日本建築センターとベターリビングが編集する技術指針には、改良体頭部に作用する圧力を算出するために、基礎下の地盤と改良体の変形を、深度方向にのみ変形すると仮定してモデル化する方法が示されています(図-3)。

図-3 基礎底面での応力状態の模式図
図-4 複合地盤での作用荷重の模式図

この方法に基づくと、基礎底面での接地圧は、改良体の先端地盤のN値の大小によって変化します。現在、この考え方を応用した「地盤」と「杭」の支持力をミックスした「複合地盤型」の地盤補強工法が、多く開発されています。

これらの工法開発では、大型の平板載荷試験で複合地盤の支持力特性を確認しているので、図-3に示す杭と地盤と基礎の関係は、実際の状態をよく再現するシンプルなモデルと言えそうです。

この場合、基礎設計で考える荷重は、図-4のようになるので、杭だけが建物を支える場合よりも、基礎の負担は軽減されそうです。ただし、べた基礎のスラブ内に杭を配置した場合、スラブの設計がちょっと複雑になりそうですね。

3.地盤改良会社との連携

2.示したように、地盤補強は、先端地盤の硬さによって、先端地盤でしっかり支持する「支持杭型」の地盤補強と「複合地盤型」の地盤補強に大きく分類できることが分かりましたが、どちらを利用すると経済的か?については、地盤の状態を見極めながら判断していく必要があります。

例えば、「支持杭型」の地盤補強では、杭本数を15本にできるけれども、杭の長さが1本6mになる場合と、「複合地盤型」の地盤補強では、杭本数が30本になるけれども、杭の長さは3mになる場合があるとします(表-1参照)。

杭長さの全長は、「支持杭型」が15本×6mの90m、「複合地盤型」も30本×3mの90mとなります。いずれも杭の施工長さは同じです。この場合、「複合地盤型」の方が「支持杭型」よりも、杭1本当たりの負担荷重が小さいので、「支持杭型」よりも、安い材料を使える可能性が出てきます。

一方、「支持杭型」では、主鉄筋サイズを変えるなどの対応をすることで、さらに杭本数を減らすことができれば、「複合地盤型」とコスト面で戦えるかもしれません。

支 持 杭 型複合地盤型
杭 本 数1530
杭 長 さ (m)63
全杭長さ(m)9090
表-1 支持杭型と複合地盤型での全杭長さのイメージ

このように、地盤補強の設計は、基礎の構造設計と一体化することで、本質的なコストダウンが可能になるのです。

建築士は地盤のことが苦手な方が多いように見うけられます。一方、地盤改良業者は、地盤のことにも、地盤補強のことにも精通しています。基礎と地盤補強の設計では、建築士と地盤改良業者が手を取り合って対応することで、消費者にとって最良のものを届けられるようになるのではないでしょうか?

4.まとめ

「地盤改良工事費用をとにかく安く」

工務店にとってはもっともな意見ですが、工事費用は品質に大きな影響を及ぼしています。
まずは、求める品質を明確にしたうえで、工事費用の削減を求めることが第一歩です。

また、地盤改良工事費用は、自力でも大幅に削減できます。その手法が、構造計算に取り組むことです。

基礎の構造計算を行うことで、杭の打設間隔を広くすることは可能になりますし、構造計算によって建物自重が明らかになりますから、より精度の高い地盤補強の設計が可能になります。

品質を確保したうえで、合理的にコストダウンを図るには、やはり、他力本願ではなく、自力での対応が最も重要です。

先日、ある地方の有力工務店の役員が、「消費者に根拠を示すこと」こそ重要とお話されておられました。

まさに、その通りだと感じました。

コストダウンの陰で品質が犠牲になっていませんか?根拠を示せるコストダウンを目指してください。

神村 真



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