造成宅地を造るのは人です。人が盛土を作り、人が擁壁を作ります。
この人は、常に「いい人」ではありません。
何か問題を起こすのは常に「人」です。
今回は、あなたの家造りで考えて欲しい、災害以外の地盤リスクについてのお話です。
あなたにとっての「地盤リスク」とは何でしょう?
地震(特に影響か)のイメージが強いのではないでしょうか?
もちろん、大地震が住宅や土地に及ぼす影響は甚大ですが、「地震に遭わない」かもしれません。これに対して、「軟弱地盤」、「盛土」、「擁壁」は、その程度によっては、「確実に」住宅に害を及ぼします。
「軟弱地盤」とは、建物の重さで縮んでしまう(沈下する)地盤のことです。家が傾く(不同沈下)原因になる地盤のことです。また、「盛土」重さは、厚さが1mあれば、木造二階建て住宅(べた基礎の場合)よりも大きくなります。このため、軟弱地盤上に盛土すると、それによって沈下が始まります。
「擁壁」の怖さは、いい加減な作りの擁壁が存在することです。擁壁は、周辺地盤の状況を考慮して適切に設計する必要があるものですが、地上高さが2m以下の擁壁は、設計・施工内容について審査がないため、デタラメな擁壁が造られていることがあります。
このように、地盤リスクは、「素人」には見えないものが多いうえに、土地の売買の段階で開示されることは、あまりありません。
ところが、「軟弱地盤」、「盛土」、「擁壁」は、住宅の建設コストや維持管理費用を大きく左右する、重大な「地盤リスク」なのです。工務店さんのwebサイトを見ていると、「地震」に対するリスク対策を大々的にアピールしているものを多く見かけますが、「軟弱地盤に対してどう向き合っているのか」ということは、ほとんど示されてません。せいぜい、「地盤補償がつきます」程度でしょうか?
これは、まずいのではありませんか?
「地震時だけではなく、常時抱えるリスクに対して、建築士であるあなたは、どう向き合うのか」
そこが、工務店選びの基本であることを、建築士であるあなたが発信することが重要なのではないでしょうか?
地形と地盤リスクに関しては、下の動画や過去のブログ記事でも頻繁にお話をしていますが、軟弱地盤の存在は、地形を見ることで知ることができます。
軟弱地盤は、谷地形に厚く堆積している場合が多いので、ここでは、谷地形の成り立ちを簡単に説明したいと思います。
図-1は、谷地形ができるまでの過程を模式的に示したものです。ちょっと想像しにくいのですが、谷地形のはじまりは、例えば、海底で堆積した平らな地形が、地球の活動によって隆起して、地上に現れるところから始まります。
平らな地面ですが、そこにも多少の凸凹があります。雨が降ると、水は高い方から低い方に流れていきます。「川」の誕生です。川ができると、地面は少しずつ削られていきます。「浸食」という河川の働きですね。その結果、「谷」が生まれます。
地球の活動によって、海水面が上昇すると、川の流れが少し緩やかになるので、川底に土砂が堆積し始めます。また、洪水によって河川が氾濫すると、川の周囲にも広く土砂が堆積し、場所によっては湿地が出来上がります。こうして、図-2に示すような地形が、川の周囲に生まれます。図中に「氾濫平野」と書きましたが、谷底の平野なので、「谷底平野」と呼ぶこともあります。
氾濫平野は、小さい粒子の集合体である「粘土」が厚く堆積していたり、ふんわりと砂が堆積していたりしますが、このような土が堆積した地盤を、「軟弱地盤」と呼ぶのです。
このような地形と堆積している土の関係を理解していれば、河川の周囲の標高の低い地域には、軟弱地盤があることや、そのために地盤改良工事が必要になることを想像するのは、そんなに難しいことではありませんね?
また、軟弱地盤の上に、新しく盛土をした造成宅地では、盛土の重さで沈下が発生している可能性があることも、想像しやすいのではないでしょうか?
残念なことに、宅地造成業者の中には、地盤が沈下することを考えていない人たちがいます。沈下の問題は、建築の問題、わしは知らん。というわけです。残念な造成地は、世の中に山ほどあります。特に、氾濫平野、中でも後背湿地に位置する新規の盛土造成地は、ほぼ間違いなく盛土自重で長期的に沈下します。
あなたが、こういう造成地内で家を造る場合は、土地の販売元に対して以下の確認をするようにして下さい。もしくは、あなたのお客様が、こういう造成地を購入しようとしている場合も、以下の質問をするように勧めてください。
十分な回答が得られない土地の購入は避けるべきです。特に、軟弱地盤の層厚が厚い場合は、建築物で対処することが困難になります。こういう物件は設計者として悔いが残る結果となる可能性が高いのご注意ください。
宅地の中で擁壁のリスクは見逃されやすいものです。特に、地上高さが2m以下の擁壁は、誰の審査も受けることのない構造物ですから、危険なものが隠れています。
擁壁には大きく分けると、図-3のような石を積み上げた石積み擁壁と図-4のような形のコンクリート製の擁壁の二種類があります。
形に関わらず、擁壁の背面(土のある方)には、土の自重に関係する力(土圧)が、常に働いています。この土圧と石やコンクリートの自重をバランスさせることで、擁壁は土が倒れてこないように支えています。
ですから、石積み擁壁の傾きや厚さ等を適当に決めたり、コンクリート製のL型擁壁の底板の幅や縦壁の仕様等を何の根拠もなく設定すると、「不安定な擁壁」が出来上がります。
あなたのお客さんが、擁壁のある土地を購入する時は、不動産屋さんに、以下の質問をするようにアドバイスしてください。資料を提供してもらえない場合は、購入しないことが、賢明な判断であることもお伝えください。
なお、資料提供を受けても、あなたがその資料の妥当性を確認できない場合は、私のような地盤の専門家にお問い合わせください。もちろん、私に相談頂いても結構ですよ。
このブログを読まれているあなたは、とても真面目で正義感の強い方だと思います。そういう人にこそ知って頂きたいのは、「地震」よりも怖いものの存在です。
それは、「人」です。
あなたが、どんなに心を込めて家を造っても、造成地の作り方が悪いことで家は傾きます。
一生懸命に耐震設計をしても、擁壁が壊れることで、家が半壊になってしまうこともあります。
なんで、こんなことになるのでしょうねえ?
それは、「宅地を造っている」という意識の欠如した人の仕業です。法律は守っているから、自分には責任がないという倫理観の低い「普通の人」の仕業です。
しかし、それが現実です。
あなたは建築士で、家を設計することを独占的に許された人です。
建物の周りにある、どこの誰が造ったのかも分から盛土や擁壁を盲信することをやめれば、あなたの理想の家は、どんな大地震の後でも、すくっと立っているに違いありません。
神村真