• 地盤の専門家神村真による宅地防災の情報発信サイト

「地盤改良なんか要らない」という人や、「無駄な地盤改良をしている」という人がおられます。

もちろん、そういう情報発信をされている方は、「そういうこともあるよ」というおつもりだと理解していますが、そういうお話を素直に受け止めるのが消費者です。建築士であるあなたは、こういう「宣伝文句」をどのように受け止められますか?

  1. 地盤改良の要不要を決めるもの
  2. SWS試験で確認できること
  3. 地盤改良の設計精度を左右する地盤調査
  4. まとめ

1.地盤改良の要不要を決めるもの

地盤改良の要不要を決めるものは、大きく分けると以下の4項目です。

  • 支持力は十分か
  • 沈下は発生しないか
  • 液状化は発生しないか
  • 斜面・擁壁は安定しているか

支持力とは、その土地が建物の重さを支える力のことです。

沈下とは、建物の重さによって建物が地中にめり込むことです。均等にめり込むこともあれば、傾いてしまうこともあります。

液状化は、地震時に地面が液体のようになる現象です。

斜面・擁壁は、土地の端部にある高低差に関係する項目です。これらが不安定であれば、建物も不安定になります。

さて、あなたは、この項目を全て、適切に評価していますか?

これらの項目のうち、不安要素がある土地では、何らかの対策を行う必要があり、その中の一つが、地盤改良工事と呼ばれるものです。

2.SWS試験で確認できること

1.で示した四つの項目を、それぞれ「適切に評価する」ためには、どうすればよいのでしょう?一つずつ見ていきましょう。

(1)支持力は十分か

私は、地盤の長期許容支持力を推定する場合、日本建築学会が推奨する以下の式を利用します。私は、様々な地盤補強工法の開発に常に関わっていますが、この式は、「よくできた推定式」です。直径30㎝の円形平板から一辺4mのスラブまで、載荷試験を行っていますが、式(1)は、載荷試験結果から得られる支持力よりも、小さな値となることが多く、常に安全側の支持力予測が可能です

qa=30Wsw+0.64Nsw            (1)

ここで、各定数は次の通りです。qa:地盤の長期許容支持力度(kN/m2)、Wsw:SWS試験の結果(kN)、Nsw:SWS試験の結果

なお、地表面だけが締固められていて、その下は Wswが1kN以下の層が連続する場合は、SWS試験で得られるNswの値を30~40を上限値としなければ、式(1)は、地盤の支持力を過大評価することがあります。このため、式(1)の使い方には注意が必要です。

このように、式(1)は、地盤の支持力評価には便利な式です。しかし、この式が良くても、建物の重さが分からないと、地盤の支持力が十分か否かは分かりかねます。

現在、構造計算をしない住宅が多いので、建物の重さが分かりません。このため、支持力を推定しても、支持力の過不足を評価することができません。

多くの場合は、建築基準法で定められている、べた基礎の採用条件(地盤の長期許容支持力度が20 kN/m2 以上)を建物の基礎接地圧と考えています。建築士が、その値でよいというのですから、それでよいのですが、地震時の基礎底面接地圧は、いくらなんでしょうか?地震力(水平力)が作用すると転倒モーメントが生まれるので、基礎底面接地圧は、常時荷重よりも増加するのではないでしょうか?そもそも、木造二階建ての基礎接地圧が20 kN/m2 もあるのでしょうか?

このように、構造計算を行わない木造住宅の場合、常時作用する建物荷重をかなり大きく見ているし、使用する支持力予測式は安全側の数値を算出するので、支持力が不足するということはなさそうです。しかし、地震時については別問題ではないでしょうか?

木造住宅の設計では当たり前なのかもしれませんが、建物の重さが正確に分からないなんて、他の構造物ではありえないことです。また、式(1)は、長期許容支持力度を示す式であって、地震時の許容支持力度を示すものではありません。地盤が非線形成の強い材料です。長期許容支持力度の2倍が短期許容支持力度になるとは限りません。

(2)沈下は発生しないか

(1)で示したように、多くの住宅では、支持力は多分足りているのでしょう。では、沈下についてはどうでしょう?

建築基準法では、SWS試験結果から、以下の条件を満足することが分かった場合、建物の自重による沈下が建物に悪影響を及ぼさないことを確認しなければならないことになっています

  • 基礎底面から下方に2mの範囲に、 Wswが1kN以下の地層がある場合
  • 基礎底面から下方に2~5mの範囲に、Wswが0.5kN以下の地層がある場合
図-1 沈下の影響検討が必要になるSWS試験結果

木造2~3階建ての建物で、SWS試験結果が上記条件に当てはまる場合、地盤改良の提案がされます。沈下量を信頼できる精度で推定できないためです。

私が開発に関与した工法の中には、実務レベルでは沈下量の計算をするものが多くありますが、ここでの沈下量計算は、不同沈下量が大きくならないことの確認程度に利用しています。

沈下量の予測方法やその精度上の課題については、別の記事で解説しているので、そちらを参照してください。なお、上記の沈下の影響検討の必要要件を満たす場合は、私は、沈下リスクをより精度よく把握するための追加地盤調査を行うことを強くお勧めしています。

このように、「地盤改良会社が提案する地盤改良工事は、本当に必要か否かは明らかではない」というのが実態です。ですから、SWS試験結果から沈下量の影響検討が必要であることが分かったら、追加調査を行い、沈下量の影響を詳細に確認することを、私はお勧めしています。

もしも、あなたが、「地盤改良は不要です」、「家が傾いたとしても、保険で直せます」という意見を聞きたい気持ちになったなら、自分でその結論を出すためには何が必要かを考えてください。そして、耳にしたい意見を言ってくれる人たちが、その必要なもの(情報)を持っていることを確認してください。もしも、彼らが、その必要なものを持っていないのであれば、耳当たりのよい言葉たちは、「経験」と「勘」に基づく「推測」でしかありません

あなたは、そんなものに、「大事なお客様の住まい」を託しますか?

(3)液状化は発生しないのか

液状化の発生を予測するためには、各地層の土質と地下水位の位置を確認する必要がありますが、SWS試験だけでは、そのどちらも確認することができません。液状化の危険性があると考えられている地域で家を造る場合は、液状化の危険度を適切に評価できる地盤調査を実施しましょう。

液状化の危険度が高い地域で、液状化対策を行わないケースがあることを耳にします。「液状化による危険度が高い」ということを知りながら、建築士が何もしないということが、法的に許されるのかどうかは知りませんが、倫理的にどうなんでしょう?

あなたならどうしますか?

私なら、少なくとも、その土地での液状化の危険度を適切な方法で評価し、予算内でできることを徹底的に考えます。

(4)斜面・擁壁は安定しているか

この項目は、実は、住宅の安全性にとても大きな影響をおよぼす項目です。

この項目は、地盤調査だけで明らかにできるものではありません。

しかし、擁壁は、「宅地としての安全を長期的に確保する」という意図のもとに意識的に作られるものなので、設計書等の検討資料から安定性の評価がなされていることを確認することが可能です。逆に言えば、安定性の評価を行った資料がないのであれば、安定性は分からないということです。

斜面の安定性については、土質や斜面の高さから、おおよその安定性を知ることができます。しかし、斜面の安定の持続性は、排水施設の有無や斜面の保護がどのようになされているのか等によって大きく変化します。

あなたは、この問題に向き合ったことがありますか?

敷地内の斜面や擁壁の安定性について十分な評価を行わないと、あなたが設計した住宅は、安全なものには、決してなりません

3.地盤改良の設計精度を左右する地盤調査

以上のように、SWS試験結果だけでは、四つのうちの三つのリスクを確認することができません。そんな状態なのに、沈下のリスクは小さいから地盤改良が不要だという判断が可能なのは、なぜなのでしょう?

私にはその真意やカラクリを知る術はありませんし、知る気もありませんが、一つ言えるのは、SWS試験結果から、沈下リスクが高いと判断されて、追加調査を行うつもりもないのであれば、地盤改良をしておいた方が無難だということです。

ただし、注意が必要です。

残念なことに地盤改良工事をしても、不同沈下する場合があります。これは、地盤改良工事の設計を行う人の技量の問題とされがちですですが、地盤のリスクを適切に評価するための地盤調査を行わないことが最大の原因です。

住宅分野では、「予算がないから」ということを理由に、多くの大切なことが行われていません。だから事故が起こるのです。必要なことにはお金を掛けないことで、日本の住宅は、性能がよく分からないものになっているのです。

これでは、いつまで経っても、日本の住宅市場は成熟しないのではないでしょうか?

4.まとめ

地盤改良の要不要を決めるものは、大きく分けると以下の4項目です。

  • 支持力は十分か
  • 沈下は発生しないか
  • 液状化は発生しないか
  • 斜面・擁壁は安定しているか

支持力以外は、SWS試験では、確認することすらできません。

それでも、あなたはSWS試験結果のみでの家造りを続けるのでしょうか?

「詳細な地盤調査など、住宅分野では予算的に無理だ」という声を耳にします。

技術的には十分な可能な地盤調査に費用を掛けず、非常に大きなリスク(上記の四項目)を不透明なままにする。それでよいのでしょうか?

この程度の地盤調査しかしないのであれば、SWS試験結果から沈下の影響検討を行う必要があることが分かった時点で、無条件に地盤改良をしておいた方がましです。

建築士としてよく考えて頂けますよう、お願い申し上げます。

神村真



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