• 地盤の専門家神村真による宅地防災の情報発信サイト

住まい造りは楽しいはずのものですが、私のところには悲しい報せが届きます。

その悲しい報せは、適切な地盤評価や基礎設計が行われていれば防げたであろうものばかりです。

なぜ、見えないモノを見たふりをして設計してしまうのでしょうか?

設計者であるあなたにとっては耳の痛い話かもしれませんが、今一度、住まいにとっての地盤の役割について確認しておきたいと思います。

  1. 住まいにとっての地盤の役割
  2. 地盤を構成する四つのもの
  3. 誰が地盤の性能を保証するのか
  4. まとめ

1.住まいにとっての地盤の役割

住まい(家)にとっての地盤とは、どのような役割を持ったモノでしょうか?

答えは至って簡単です。

住まいにとっての地盤とは、「住まいを長期的に安定した状態に保つために必要不可欠な部材」です。

構造塾の佐藤先生が使われる「たとえ」に、机に人が乗るお話があります。

あなたは、「人が乗っても壊れない机」を作るためにどうしますか?

図-1は、人が乗る机を設計する際に考えるであろうことを漫画にしたものです。

こんな机を作ることはないと思いますが、作るなら、まず、机に乗る人の「体重」を確認し、次に、これに耐える構造を考えますよね?

外力(体重)に対して各部材に発生する応力やたわみ量が、許容値を超えないことを確認されますよね?

住まいづくりの場合、建物の「重さ」や「地震力」に耐えられる「構造」を考える。とても自然なことですね。

図-1 人が座る机を作るなら・・・

(仕様規定でしか住まいの設計をされない人には分かりにくいお話かと思いますますが、構造計算で用いる許容応力度法では、外力によって部材内部に発生する応力が、材料の許容応力度を超えないように、部材の形状や強度を設定します)

地盤も同じです。

この机が外で使うものなら、地盤のことも考えなければ、人を安全に載せることはできません。住まい造りは、まさに、外で人が乗る机を作ることに等しいのです。

図-1で言えば、地盤が机を支えるために十分な支持力を持っているのか?、または、体重によって発生する地盤の変形量(沈下量)は、許容できる大きさなのか?を確認する必要がありますよね?

実にシンプルな話だと思うのですが、これが住まいづくりになると、突然、思考停止してしまう設計者がいるようです。物事はシンプルに考えたいですね。

建築士が地盤のことに詳しくないのには理由があります。

建築系の学校を卒業していたとしても、学校では地盤のことを十分に習う時間がありません。また、建築士の試験内容は非常に多岐に渡るので、地盤に関する項目はほんのわずかしか勉強しないと思います。このため、地盤に関することは、実務で学んでいくしかありません(建築系の大学で、地盤やくい基礎のことを専攻していた人は別ですが)。

実務でも分業化が進んでいるので、意図して地盤のことを学ぼうとしなければ学ぶ機会は、ほぼないでしょう。また、地盤のことを学ぶと言っても、土質力学からしっかり学ぶことは、なかなか難しいのではないでしょう。

でも、あなたが建築士として住まいを設計されるのであれば、「何をどのように確認するべきなのか」程度のことは理解しておく必要があります。

だって、あなたは、住まいの「設計者」であることを独占的に認められた「建築士」なのですから。

2.地盤を構成する四つのもの

住まいにとっての「地盤」を考える場合、地盤を構成する四つの要素に注意を向ける必要があります。

図-2は、四つの構成要素の関係を示したものです。それぞれについて、解説していきましょう。

図-2 住まい造りで考える地盤の構成要素

(1)地形

対象となる土地での地盤リスクを決定づける最も基本的な要素です。地形と(4)は強い相関関係があります

(2)擁壁や斜面

住まいの安定性に大きな影響を及ぼすものです。擁壁や斜面の安定性を確保するために作られた工作物であることに注意が必要です。

(3)盛土

盛土そのものは、しっかりと施工されれば非常に丈夫な地盤を作り出せるのですが、人が造るものなので、「必ずしも高い品質を持っているわけではない」という点が課題です。また、軟弱地盤上の盛土は、住まいの長期的な安定性に影響を及ぼすものです

(4)地層構成や土の特性

住まいの長期的な安定性を評価する上で最も重要な項目です。住まいの自重などの外力に対して、十分な耐力を持っているのか?また、異常な変位が生じることはないのか?ということを数値で捉えるためには、地層構成と土の特性値の確認は必要不可欠です。しかし、現状では、十分な評価がなされずに、多くの住まいが造られています。

住まいのための地盤の良し悪しや対策方法を考える時、以上の四つの項目について相互関係を確認していきます。

3.誰が地盤の性能を保証するのか

建築基準法施行令第38条には、「建築物の基礎は、建築物に作用する荷重及び外力を安全に地盤に伝え、かつ、地盤の沈下又は変形に対して構造耐力上安全なものとしなければならない」と書かれています。

建築基準法施行令第93条には、「地盤の許容応力度は、国土交通大臣の定める方法によって、地盤調査を行い、その結果に基づいて定めなければならない」とされています。また、但し書きとして、いくつかの地盤の種類が挙げられて、それぞれの長期許容応力度が挙げられています。

このことから、住まいを設計する業務を独占することを許された建築士(あなた)は、あなたが設計する住まいが長期的に安定であることを保証しなければ(請け負わなければ)ならないのですね。

不同沈下事故案件や基礎にクラックが入っている案件などの原因調査をしていると、ここのところを理解できずにいる建築士や経営者に出会います。

「地盤補償会社の言う通りにやっただけ、俺は悪くない」というわけです。

地盤補償会社が建築士事務所登録をしていて、管理技術者が建築士で、報告書に建築士の登録番号と氏名が掲載されていれば、その理屈も分かります。建築士同士のお仕事なので、分業は当然です。しかし、違いますよね?地盤調査報告書や地盤補償審査書には、建築士の登録番号も氏名も掲載されていません。

あなたは、地盤調査会社や地盤補償会社に、地盤調査を依頼しただけです。住まいを設計する業務の独占権を持っているのは、あなたです。あくまでも、あなたが、責任者なのです。つまり、あなたが、引き渡した住まいは、あなたによって「安全保証」されたものなのです。

4.まとめ

近年、住まいづくりに関する様々な情報が、インターネット上で簡単に手に入るようになりましたし、SNSの発達によって、個人間での情報共有が簡単にできるようになったので、住まいづくりの先輩から色々な知恵や経験も共有できるようになっています。

優秀な消費者は、住まいづくりのリテラシーをどんどん高めています。断熱・気密に続いて、構造にも目が向くようになってきました。防災の観点から、地盤リスクに関することにも、意識が向いてきています。

そろそろ、苦手は地盤についても勉強する時期ではありませんか?

「勉強したい!」という方は、この記事の末尾にコメント欄がありますので、コメントに残しください。お手伝いできる方法を考えます。

神村



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