• 地盤の専門家神村真による宅地防災の情報発信サイト

不同沈下事故の件で、工務店様など関係者の方々とお話をさせて頂く機会があるのですが、そのたびに、「地盤は難しいねえ」という声を頂きます。

確かに、スクリューウェイト貫入試験結果だけから地盤を見ようとすると、それはもう「不可能」で。でも、もっと、その土地のリスクに応じた地盤調査を行えば、地盤はとても素直に地盤の状態を語ってくれます。

「地盤は難しい」と言われる前に、もう少し、「地盤を見る」ことに心を傾けてみては如何でしょうか?

今日は、「地盤の見方」を変えてみれば?っというお話です。

  1. お金を掛けてはいけない?
  2. お金をかけないから分からない
  3. パラダイムシフトの時
  4. まとめ

1.お金を掛けてはいけない?

日本建築学会の「小規模建築物基礎設計指針」のp.30に、こんな一節があります。

小規模建築物では、中規模以上の建物のように地盤調査に充分な費用がかけられない状況にある

日本建築学会:小規模建築物基礎設計指針,p.30, 2008.

私は、土質力学・地盤工学を自分の主たる専門分野と定めて、30年ほど過ごしてきましたので、こういう言葉を目にすると、激しく反応してしまいますが(修行が足りません)、この言葉は、建築士である「あなた」の思いを代弁しているのでしょう。

この一節の後には、「お金を掛けられないので、資料調査(事前調査)を徹底的にやりましょう」というようなことが書かれています。実に切実な思いを感じます。

しかし、現場の様子を見ていると、「お金を掛けられないから」というよりも、①よく分からないけど、スクリューウェイト貫入試験(以下、SWS試験と表記します)を依頼する、②地盤補償をかける、③瑕疵保険を掛けるという、一連の業務フローとして扱われているようです。

「基礎仕様の詳細決定のために、地盤情報が必要」という認識ではないのではありませんか?

もちろん、あなたは違うかもしれません。しかし、残念ながら、私の目にはそのように写ります。そういう業者さんをよく目にしているんでしょうねえ。

この動きの中には、「お金をかけられない」という感覚はなさそうです。

工務店様にとっては、家造りは、一つの仕事ですから、一連の業務フローの中で、一つ一つの作業が粛々と進んでいくことは理解しますが、家は、現場単品生産です。特に、地盤は場所場所で大きく変化するものですので、設計者として、もう少し、重要度を上げておくことをお勧めします。

なぜなら、SWS試験は万能ではないので、稀に、間違った結果を示します。この結果の重要性に気づけないと、不同沈下事故の発生につながります。「あぶない地盤調査結果」について解説した動画を以下に貼り付けておきますので、参考にしてください。

2.お金をかけないから分からない

ところで、SWS試験はどの程度の能力を持った地盤調査方法か改めて評価してみましょう。

基礎設計において必要な主な地盤情報は、以下の三点です。

  • 支持力
  • 沈下
  • 液状化の危険度

私は、地盤補強工法の開発支援もしていますので、2m×2mとか4m×4mという大きなサイズの載荷板を使った平板載荷試験の結果をよく目にします。その結果は、SWS試験結果から推定した長期許容支持力度よりも大きくなることが一般的なので、一つ目の項目である支持力は、SWS試験結果でも評価できていると判断できます。

一方、沈下については、どうでしょうか?下の動画でも解説していますが、SWS試験結果でも沈下量の予測は可能ですが、その範囲は非常に限定的です。やらないよりも、やった方が良いのですが、本当に危険な沈下については、適切な評価をすることはできません。詳しい解説は、以下のブログ記事や解説動画をご覧ください。

また、液状化の危険度も同様です。こちらも、SWS試験だけでは、適切に評価することは困難です。

このように、SWS試験で信頼できる結果を導き出せるのは、長期許容支持力度くらいのことなのです。

だから、「不同沈下のリスクがあるな」と考えられる調査結果が出ていると、「地盤改良しておこう」という判断に至るのです。

私は、このことは、悪いことではないと思います。調査精度に見合った良い判断だと思います。大した精度もない地盤調査結果をあれこれいじくりまわして、自分の都合のよい解釈ができる結果を導き出して、地盤改良工事を安く済ませようとする事案を目にしますが、それは本当にお客様のためになっているのでしょうか?

私は、専門家ですので、SWS試験結果をあれこれいじくりまわして、都合の良い答えを導き出すことが出来ます。しかし、得られた答えの信頼性を「保証する」ことはできません。

建築士は、住宅の設計を独占できる権利と責任を負っています。責任とは、設計した住宅が安全であることを保証することだと私は理解しています。

あなたの設計した家は、SWS試験だけでその性能を保証できているのでしょうか?

私は、「保証できていない場合も多いのではないか」と考えています。

SWS試験以外の地盤調査を行えば、沈下や液状化の危険度を、適切に評価することが可能です。もちろん、その評価結果は、現在の技術レベルから見て適切なだけで、「真実」ではないかもしれません。しかし、SWS試験結果では得ることのできない精度で、地盤の性質を確認することが出来ることは「事実」です。

二者択一です。

  • 住宅基礎設計に必要な情報を得るために、必要な地盤調査を行うことにお金を使うのか
  • 精度の低い地盤調査結果に基づいて基礎設計をするために、地盤補強にお金を掛けるのか

もっとも、地盤調査にお金をかけても、地盤補強工事がなくなる保証は、一つもありません。しかし、安全性や基礎設計の信頼性は、格段に向上します。このことが、「価値」として評価されていないことが、本質的な問題かもしれないですね。

3.パラダイムシフトの時

さて、話は変わりますが、この10年ほどの間にSNSがすごいスピードで普及しています。消費者が手に入れられる情報量は、この数年の間に数10倍になっているのではないでしょうか?SNS上では、普通の人が、断熱や気密に関わる数値や、それを確保するための方法について意見を交わしておられます。

法整備の関係もあると思いますが、数年の間に、断熱性能に関する価値は、急激に増したのではないでしょうか?

このように、人の考え方や求める価値は、その必要性を理解した途端に180度変化します。こういう意識の変化のことをパラダイムシフトと言います。

2000年に「住宅の品質確保の促進等に関する法律(住宅の品確法)」によって、新築住宅に対して10年間の瑕疵担保責任が設定されたことで、地盤調査を行う必要性が正当化されました。これも一つの大きなパラダイムシフトでした。

あれから20年を超え、あの時、シフトしたパラダイムを、より合理的なものに昇華する時期が来ているように、私は感じています。

建築基準法や住宅の品確法では、「SWS試験で地盤調査しなさい」とは、どこにも書かれていません。

(「特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律(瑕疵担保履行法)」に基づく瑕疵保険を利用する場合に、住宅の四隅をSWS試験で調査することが定められていることはあるかも・・・)

建築基準法には、以下のような記述があります。

「建築物は、自重、積載荷重、積雪荷重、風圧、土圧及び水圧並びに地震その他の震動及び衝撃に対して安全な構造のものとし、・・・」と書かれています。

建築基準法第20条

また、建築基準法施行令には、以下のように、もう少し具体的に書いてあります。

「建築物の基礎は、建築物に作用する荷重及び外力を安全に地盤に伝え、かつ、地盤の沈下又は変形に対して構造耐力上安全なものとしなければならない」と、

建築基準法施行令第38条

さて、SWS試験結果から、沈下や変形は精度よく予測できたでしょうか?

あなたが、日本の住宅を真剣に考えるのであれば、地盤の支持力のみならず、地盤の沈下や、地震時の地盤挙動をも考慮して住宅を建てることこそ「価値」であることを、消費者に伝えるべきではありませんか?

4.まとめ

ここまで、読んでいただけたことに、本当に感謝します。ありがとうございます。

一介の地盤屋風情が申し上げることではないかもしれません。しかし、住宅づくりの現場を知れば知るほど感じてしまうのです。溢れてきてしまうのです。

あなたの立場は、本当によく分かります。

地盤に関する心配事なんか「売り」になりませんものねえ。

浸水する地域は土地の売買契約時に説明しなければならなくなりましたが、液状化の危険がある場所や、地盤改良が必要になる可能性の高い地域の説明は、未だにしなくてもよいのですから。

でも、か細い声かもしれませんが、誰かが、ネットの片隅で言い続けるしかないと思い、今週も、こんなテーマで記事を書きました。

ここまで、読んでいただけただけで、本当にありがたいことです。ありがとうございます。

神村真



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