• 地盤の専門家神村真による宅地防災の情報発信サイト

不同沈下物件を眺めていると、家を造るということは、本当に大変な仕事だなと思います。

多分、設計者は、地盤対策にもっとお金を使いたかっただろうな。

営業的な側面から、何とか折り合いをつけ、ここに至ったんだろうな。

そんなことを感じます。

今回は、二つの例を取り上げて、地盤リスクをどのように見ると、安全で安心な家ができるのかについて考えたいと思います。

  1. 地盤改良しなかった理由は何だろう?
  2. 新規盛土上の住宅
  3. 傾斜地の近くの住宅
  4. まとめ

1.地盤改良しなかった理由は何だろう?

不同沈下事故物件の中には、「この地形で、地盤改良しなかったかあ・・・」とか「このデータで、ここまでしか改良しなかったかあ」とか、ちょっと残念なものがあります。

特に、「選択の理由」が気になるものとして、今回は以下の二つについて考えていきたいと思います。

  • 軟弱な地盤上に作られた盛土造成地に建てられた住宅
  • 斜面の近くに建てられた住宅

それぞれの住宅の置かれた状態を、模式図で示すと、以下のような状態です。

図1(i) 新規盛土地でよくみる地盤補強例
図1(ii) 斜面近くに対策なしで建てられた住宅の例

さて、賢明なあなたはお気づきではないでしょうか?

盛土は、人の手で作られたものです。新しいものは注意が必要です。斜面は不安定な状態の地形です。いつも「平地」になろうとしていることを忘れてはいけないですね。

以下では、それぞれのケースについて、安全を確保するためにとるべき対応について、あなたと一緒に考えていきたいと思います。

2.新規盛土上の住宅

図1(i)は、「最近、水田だった場所が盛土されて、宅地になった」というケースです。私のブログでも頻繁に取り上げています。

このような場所のすべてで地盤リスクが高いわけではありませんが、数十年前からの住宅地と比べれば、家が傾くリスクは相当高いです。

また、後背湿地や旧河道、氾濫平野・谷底平野等、軟弱な粘性土が厚く堆積していることが多い場所に盛土されている場合、さらにリスクは高まります。

こういう場所では、盛土の重さで、軟弱な粘性土が圧縮されるんですよね。

このことは、土にとっては悪いことではないのですが、このことを考えないで建物を建てると、後々、様々な弊害が生じます。その一つが不同沈下です。

突然ですが、あなたは、白菜の塩漬けを作ったことがあるでしょうか?

私は、作ったことはありませんが、母がよく作っていました。切った白菜に塩をふり、唐辛子や昆布と一緒に容器に入れて落とし蓋をします。この蓋に、漬物石を載せて、野菜をプレスします。

数日すると、漬物石は元の位置よりも下に下がって、蓋の上に水が浮いてきます。これは、野菜の切り口から水分が抜けて、植物繊維の構造が、ゆっくりと「ぺちゃんこ」になるためです。

盛土された軟弱地盤は、漬物の白菜と同じです。

土の中には、多くの隙間があって、そこは水で満たされています。白菜と同じです。

土の隙間は、白菜同様に非常に狭いので、盛土が造られても(盛土は漬物石と同じです)、すぐに水が抜けません。じわじわと土から水が抜け出し、軟弱な粘性土層はゆっくりと縮んでいきます。これを「圧密沈下」と呼んでいます。

圧密沈下が完全に終了するまでには、何年もかかる場合もあります。特に、長い年月、湿地だった場所や湿田、沼田等と呼ばれていた水田跡地では、盛土(漬物石)の重さ分だけの水が抜けきるのには、相当の時間を要します。

そういうところで家を建てる場合、建物の重さを、地表面ではなく、もっと安定した地層に支えてもらう必要があります。そのために杭を地中に打ち込んだり、柱状地盤改良を行ったりします。図1(i)は、その様子を示したものです。

では、図1(i)は何が問題なのでしょうか?

問題は、「支えるべき重さは、建物荷重だけでよいのか?」ということです。

もしも、盛土(漬物石)の重さ分の水が抜けきっていない場合、地盤は沈下を続けます。この場合は、「支えるべき重さ」として、建物の重さだけではなく、盛土の沈下によって生まれるもう一つの力も考えておかなければなりません。

そのもう一つの力は、杭と地盤の間に働く下向きの摩擦力(「負の摩擦力」)です。

この負の摩擦力は、結構大きい力を発揮するので、杭の先端地盤が、これに耐えられない場合、杭が地中に引きずり込まれます(図2)。

新しい盛土地に住宅を建てる場合、このような現象が生じる可能性を想定して、地盤改良の方法について検討することをお勧めします。

なお、SWS試験結果だけで、負の摩擦力の評価を行うのは難しいのですが、盛土自重によって沈下する可能性がある地層全層の90%の厚さに負の摩擦力が作用すると仮定して、補強体に作用する負の摩擦力を求めます。鋼管や改良体の周面に作用する負の摩擦力は、通常の設計では建物を支える支持力成分の一つとなる周面抵抗力と同じと考えておくと間違いないでしょう。

このように考えて、補強体の支持力計算をすると、図1(i)に示したような補強体仕様では、負の摩擦力+住宅の重さを支持できないことが分かるはずです。

図2 負の摩擦力による杭の沈下

ちなみに、鋼管などの既成杭を利用する場合は、鋼管の周面に摩擦力を軽減するための溶剤を塗っておくことで、負の摩擦力を抑えることも可能です。

3.傾斜地の近くの住宅

斜面が土地の中にあるということは、斜面側には遮るものが何もなく、「見晴らしがよい」ということですね。そういう場所を求める方は多いでしょう。図1(ii)は、まさに、そういう住宅ではないでしょうか?

しかし、この土地。よく見ると大きな不安要素が存在します。私は、その不安を、熊本地震で目の当たりにしました。写真1はその一例です。もちろん、それ以前の地震でもこのような状況は多く目にしていたはずですが、熊本では、擁壁や斜面の崩壊が非常に印象に残っています。

写真1 地震時に倒壊した擁壁

急峻な山々は、長い年月をかけて、山肌が削られ、緩やかな傾斜をもった山になっていきます。斜面も同じで、より安定した状態になろうとしています。このことを念頭においておかないと、もしものことが起こった時に、家が斜面もろとも崩壊します。

それでは、「もしものこと」とは何でしょう?

図3は、例として地震時に働く斜面内部の力の関係を示したものです。

図3 地震時に斜面に働く力

斜面は、平地と比べて不安定なので、地震力が作用すると崩壊しようとします。これを擁壁で抑え込もうとしますが、想定以上の地震力に対しては、機能するかどうかは分かりません。写真1は、その善い例です。

図1(ii)の様な住宅は、地震時に写真1のようなことになる可能性が高いと考えられます。

斜面は、地震だけではなく、豪雨によっても不安定化します。場合によっては、植栽の伐採等が不安定化の引き金になることも考えられます。

また、斜面は、人の命や財産を奪うこともあります

図4に示したように、斜面の下に住宅や道路がある場合、斜面が崩壊することで、誰かに大きな被害を与えることがあります。2020年2月に逗子市で発生したマンション敷地内の斜面崩壊では、たまたま通行していた女子高校生が巻き込まれ命を落とされています。このようなことが起こる可能性があるのが斜面です。そして、そのようなことが起こらないように維持管理するのは、土地の所有者の役目です。

図4 斜面の崩壊対策の例 

対策方法としては、図4に示したような方法が考えられます。このように考えると、見晴らしの良い土地を得るためには、追加で必要なコストが結構かかりそうですね。

4.まとめ

さて、今回は、二種類の地盤リスクについて、考えてみました。あなたは、ここで挙げたような地盤リスクについて、普段から十分に目を光らせておられますか?「コストのことを考えると、こんな厳重な提案はできない」という声も聞こえてきそうですが、住宅の供用期間は長いです。

私は今年51歳ですが、その間、大地震を何度も経験しています。豪雨に至っては、毎年です。こういう大災害に、何度も遭遇することを考えないで建物を造ることは、日本の風土に反することだと、私は思います。

神村真



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA